私自身の毎日はミュージカルみたいな生活なんです
——3人目出産から約半年でツアーに出ることになりますが、これまでの経験からそれくらいのインターバルで大丈夫だろうということですか。
計画的なことは何も考えてなかったです。歌い続けているなかに子供が生まれる、ということであって、高嶋ちさ子さんや岸谷 香さんを見て「できる!」と自分を信じこませ(笑)。子供がいることによって、自分の経験値的には何か得ているものがあるので。言葉としてはまだ出てきていないかもしれないけど、私自身の毎日はミュージカルみたいな生活なんですよ。とにかく子供に歌で呼びかけるっていう。先日出演したフェスで(井上)陽水さんの「海へ来なさい」をカバーしたんですけど、♪海へ〜来なさい♪というフレーズがあるじゃないですか。それと同じメロディーで、パンツを履かない息子に対して♪パンツ〜履きなさい♪と歌ったり、あるいは♪トイレ〜行きなさい♪と歌ったりすると、笑いながらも従ってくれるから、なんでもかんでも今流行ってる曲で歌いかけるんです。「ライオン・キング」の♪Can You Feel the Love Tonight♪のメロディーで♪早く寝なさい♪とかね。私としては“歌手でよかったな”という感じなんですけど。向こうも歌で返してくれるんですよ。♪僕は〜寝たくない♪みたいに(笑)。
——(笑)、まさにミュージカルですね。そうなってくると、何を言うにしても、メロディーを付けて言わないと聞いてくれないんじゃないですか。
メロディーが付くと、耳へのアテンションになるんですよね。普通に言っても「ヤだもん。べろべろべえ」って、どこかに行っちゃうので、「ちょっと待った!」って。♪早く〜寝なさい。鬼が来ますよ♪みたいなことを適当に歌って(笑)、寝かしつけるわけです。
——一番上の息子さんが今おいくつですか。
3歳です。3歳、2歳、0歳の3人ですね。
——3歳だと、もうお母さんの本気具合は判断しますよね。
そうそう!本気で怒ってる時は、腹式呼吸ですごいしっかり怒鳴るので、みんなチ〜ンとなります(笑)。でも、それくらいの声量で怒るのは、年に3度あるかないか、くらいですけど。ただ、ツアー・リハの前に、子どもを抱っこしながら個人練習してた時に本気で歌ってる感じも知ってるから、慣れてるとは思います。
——子どもさんが生まれたことで新たに気づいたことってありますか。
以前はコンセプトに基づいて、無理やり紐づけてたこともあったかもしれないですけど、子どもを産んでからは全部直感的に決めていくようになってますね。そして、そのほうが、頭で考えて繋げていくよりも楽しいかなと思うし、間違いがない気がします。子どもって、“今”しか生きていないじゃないですか。それを見ていて、知り合いの住職さんが「全く仏様の教えの通りだな」と言っていたんですが、私も正しい生き方だなと思って。だから、あまり整合性がついていなくても気にしないようになりましたね。それに、いろんな物事を系統立てて繋げていく物理的な時間がなかなか取れない、ということも大きいと思います。考えて繋げようとしてても、「お腹すいた!」と言われたら、そこで思考がブチっと切れて、そういうことの繰り返しなので。
——逆に、その一つ一つのことはすごく濃密になりますよね。
そうですね。とにかく、がむしゃらにやってます(笑)。
今回のツアーは初めて演出家に入ってもらいました
——(笑)、ただ“今”を生きるという生活をしていると、コンサートという形では全体としての脈絡やまとまりみたいなことを考えるのは難しくなってきませんか。
それはそうだと思います。それで、今回は初めて演出家に入ってもらったんです。今までは自分でやってたんですけど、今の自分はさっきも話したように分断した思考で毎日を生きているので、誰かに通して見てもらったほうがいいなと思ったんです。それで、「受け入れて」とか「つないで手」のPVを撮ってもらった丹下紘希さんにお願いしたんです。丹下さんはもちろん音楽のこともわかるし、元々舞踊をやってらっしゃったということもあるし。その上で、丹下さんもお子さんが二人いて、考え方が見事にハモったんですよ。最初に話した時には「俺、芝居書いたことないけど」と言われたんですが(笑)、丹下さんの作るPVって、歌詞の世界と並行して、もう一つの物語が流れているじゃないですか。そういう感じで、一つの物語を書くような気持ちでやってほしいと話しをしたんです。具体的な作業としては、私が話す言葉は、私が喋りたいように変えていっていいと言ってくれたので、今やりながら詰めていってるところです。
——以前、取材でお邪魔した丹下さんの事務所というのが、“ああいう映像を撮る人の事務所はやっぱりこういう感じなんだな”と思ってしまうような空間だったのが印象に残っています。
その建物が解体されることになって、それで連絡をもらったんです。「窈ちゃんの撮影で作った地球儀とか出てきたんだけど、要る?」って。それで、「遊びに行きますよ」って、初めてお邪魔したら、大人の部屋なんだけど子どもが喜ぶような部屋だなと思って。だから、丹下さんのことがずっと頭の中に残っていた中でツアーの準備が始まって、それで丹下さんにお願いしようと思い立ったんですよね。