やりたいこととできることはやり尽くそうかなって思ってます
そうそう。この15周年は、ソロでやっていくイメージを持つ時間でもあったと思う。私、もともとモノ作りの人間なのに、気がついたらヘッタクソな歌がウマくなっちゃって(笑)、歌手になっちゃった。それに、ファンと対峙する中で、段々と命のやり取りみたいなものが濃くなりすぎたことも立ち止まる要因だったかもしれない。もうちょっと小さな生活の音を奏でたいなという思いもあったし。1回出来上がってしまった安藤裕子というものから少し離れたいっていうのがあったんですよね。だから、山本隆二くんに“今年はもっさんなしのライブをやろうと思う”ってLINEをして。頼っちゃうからね。
“お、新しいことやるのは体力いるよ。観に行くわ”って。“いや、来ない方がいいかもしれない”っていうやり取りをしてたんだけど(笑)、もうちょっと武者修行というか、底力をつけないといけないなっていうのが根底にあって、いろんなことを試してる感じですね。いろいろ曲を作ったり、楽器の積み方を学んでいたり。今、いろいろと自分を育て中です。
そうですね。ドラムがあらきゆうこで、ベースがShigekuniくん。鍵盤は初めてとなる小林創さん。小林さんはイベントで1回、お見かけしただけで、会話もしたことないんだけど、その日、大橋トリオさんがギターを弾いて歌うとなった時に小林さんがピアノを代わりに弾き始めたんです。初めて耳にしたんだけど、1音弾いた途端に楽器が変わっちゃったのね。あ、この人はピアニストなんだなっていうのが1音で響き渡って。やべー、この人はって、気になって気になって仕方なくて。自分の音楽性と合うとか合わないとかじゃなくて、この人の弾くピアノを目の前で見たいっていう思いだけでお願いして。お会いするのがすごく楽しみですね。ギターは、元・森は生きているの岡田拓郎くん。彼は元々曲も知らなかったけど、偶然、なんかの飲み会で横に座ったの。あはははは。後からソロの作品を聴いたらとても良くて。
不安しかないね。まだ1回も音を合わせてないから。過去やってきたものを、新しいメンバーで再構築する感じかな。誰がどの音を出せるか。鍵盤でもシンセ大好きっ子と、生楽器オンリーですっていう人ではタイプが全然違うし、奏でられる音の数が変わってくる。ギターもエレキは得意だけど、アコギが苦手ですっていう人もいるし。みんなでリアレンジしながら、今の音像を作り上げていけたらいいなと思ってます。
わかった。じゃあ、絶対変えない。でも、「パラレル(悲しみバージョン)」は、今回ライブでリアレンジしたんですよ。
そう。楽しい曲だったのを、私が変えたくて。もっさんに、“日本海、冬、寒い”みたいな感じを細かいアルペジオで弾いてってお願いして。名越さんには“弓で、アイスランドのイメージで”って言って。名越さんにトレイシー・ローズっていう架空の恋人を作って。不倫相手と逃げてきて、この崖から飛び降りるのか、このままこの街で暮らすのか、みたいな感じで弾いてもらって。それは、ある意味、作り直してるわけですよ。
でしょ!ほら、昔の曲でもアレンジを変えたって楽しいじゃん。そういう可能性も持ってほしいですね。あと、新たな出会いでもあるからね。曲の答えが変わっていくっていう。リズムやテンポ、コードや音の響きで誘導される答えってあるけど、新たな風景とか、新たな出会いも楽しいかなと思ってて。
あれは長年こだわりすぎて。新たに入ってくれるドラムの人に、そこは矢部浩志一色で、絶対にハネないでください!みたいな感じでお願いしてきて。みんな顔をひきつらせながらも引き継いできたフレーズがあるんですけど、ま、あらきゆうこがいたらなんでもどうにでもなるんだろうって思ってます。
今ね、Shigekuniくんとトオミくんと3人でアルバムを作ってるんですよね。2人には“安藤裕子をポップに引き上げてくれ”っていう話をしてて。私が1人で好きなことをやると沼の音楽になっちゃうし、命のやり取りから離れるっていうのがテーマとしてあって。現時点では、トオミくんは、“自分がプロデュースするなら、あえて安藤裕子に歌謡曲を歌ってほしいんですよ”って言ってる。Shigekuniちゃんとはメロディだけ聴くとポップスだけど、ちょっと変わった音像にできたらいいなと思ってて。アルバムの曲をどれだけツアーでやれるかどうかはまだわからないけど、昔のファンはあんまり好きじゃないかもしれない。いわゆる、安藤裕子と言えばっていうところからわざと距離を置いた音を作ろうと思ってるから。でも、これまでの安藤裕子らしさを超えた先の音を楽しみにしてもらえたらいいなと思います。
そうです。ここからやり直しですからね。ただ、過去に戻れるとして、記憶や知識量が残ったまま17歳に戻ったとしたら、なんでもできるでしょ。私も知識量を持ってのやり直しなので、ゼロとは違うし、いつ死ぬかわからないから、やりたいこととできることはやり尽くそうかなって思ってますね。積み重ねてきた技量と知識を使って、いかに個性を燃やすかっていうことだけを考えたいと思います。