アニソン界では誰もが知るヒットクリエイターであり、ロック、R&B、アイドルなど幅広く作家として活躍する渡辺 翔が、同じく作家でありソロ名義でバンド活動も行うキタニタツヤ、TVアニメ『モブサイコ100』のオープニングテーマアーティスト・MOB CHOIRのボーカリストを務めたsanaと結成したバンド、sajou no hana。2018年8月にシングル『星絵』でデビューした彼らが、2018年末に新たなアクションを見せた。12月に2曲入り配信シングル『あめにながす』をリリースし、2019年3月6日には1月から放送されるTVアニメ『モブサイコ100 Ⅱ』とタッグを組んだシングル『メモセピア/グレイ』と、MOB CHOIR feat. sajou no hana名義のシングル『99.9』を同時リリースする。まだまだ謎が多いsajou no hana、いったいどんなバンドなのだろうか?メンバーのこと、楽曲制作のこと、ライブのことなど、様々な話題を語ってもらった。
──渡辺さんはなぜバンドというフォーマットを選択したのでしょう?
渡辺 翔もともとバンドの音楽が好きだったのでバンドに憧れもあったし、アーティスト活動をするうえで自分ができることは限られているので、ほかにメンバーを入れて活動したくて。これまで10年以上音楽作家として活動をしていて、何年か前から他のこともしてみたいなと思っていたんですけど……そんなに外向的な性格ではないので、行動に移さないまま悶々としていたんです。タイアップのお話をいただいたタイミングで「誰かといちから音楽活動をしてみたい」「誰かをいちからプロデュースしたい」と提案をしました。
キタニタツヤ翔さんは最初、メンバーとして在籍するけれど外に出ないつもりだったんです。翔さんだけ出ないのはおかしいから「ちゃんと3人揃って出よう!」とめちゃくちゃ説教しましたね(笑)。
渡辺それでもなかなか踏ん切りがつかなくて「ひとりだけ表に出てこないバンドも新しくていいじゃん!固定観念だよ」なんて思ってたんですけど(笑)。順序立てていろんなことを考えて、出たほうが自分のためにもバンドのためにもなるよな、苦手だからって逃げちゃだめだな、と。
キタニそうです!(笑)
──キタニさん、先輩に容赦ないですね(笑)。
キタニ翔さんは音楽家としては先輩だけど、アーティスト活動をする人間としてはド新人だし(笑)、俺らはバンドメンバーですからね!メンバーが「翔さんすげえ人だからなにも文句言えない」なんて言うの、翔さんもいやでしょう?
渡辺そうそう。最初に「年齢もキャリアも違うけど僕らの関係性は平等です。バンドメンバーとしてちゃんと意見を言い合いましょう」と約束したんです。
──sanaさんは以前から渡辺さんとはお知り合いで、キタニさんと渡辺さんはお互いの作品は聴いていながらも、sajou no hanaの結成がきっかけでお知り合いになったそうですね。
sana翔さんはわたしが受けたオーディションの審査員をしていたので、その頃から面識があって。知らず知らずのうちに聴いていた曲が翔さんの作っていた曲だったり、有名な曲をたくさん世に出している方なので、このバンドに入れてもらえたのはすごくありがたいことだなと。
キタニ翔さんへのリスペクトは大きいよね。作曲家の名前を意識して覚えたの、翔さんが初めてなんですよ。高校生の時にClariSの「コネクト」を聴いてすごくいいなと思って、それ以外のClariSでいいなと思った曲の作曲者が全部翔さんだったんです。作曲家という仕事を初めて認識したきっかけというくらいの人だったし、音楽好きの人なら知っている人だから、声を掛けてもらったときは充分びっくりしたけど。
渡辺僕もキタニ君の作品は知っていて。きっと一癖も二癖もあるやつだろうとは思っていました(笑)。このふたりは僕が圧倒的に足りないものを持っている存在ですね。
キタニ一緒にやったら面白そうなことができると思ったし、いい方向にしかいかないだろうなと思ったのでお声がかかってすぐに「やります!」と返事をしました。実際に制作に入ると翔さんから「この音とこの音がぶつかってるよ」とアドバイスがあったり、お互いの足りないものを補い合うことができるのはバンドの利点ですよね。
──それぞれの活動の良さをバンドに持ってくることもできるでしょうしね。
渡辺それもありますし、その逆のパターンも感じますね。自分の作家活動にsajou no hanaの経験が生きているんです。作家仕事で作っている曲にキタニタツヤっぽさを感じることがある(笑)。
キタニ翔さんも俺もsanaさんがボーカルに立つことを念頭に置いて曲作りをしていて。ボーカルが自分とは別の人間となると自然と出来上がる曲は変わってくるので、sajou no hanaの制作で「俺ってこういう曲も作れるんだ」という発見もあります。「自分は絶対こんな曲作れないだろうな」と思うような翔さんの曲をアレンジで肉付けすることによって、自分の楽曲を作るときには使わない筋肉を使っているような感覚を覚えることもありますね。
──アレンジはすべてキタニさんが手掛けているんですか?
キタニそうです。その代わりレコーディングは全部翔さんに任せてますね。ここに関しては任せられる!というところを持っているふたりだから、らくちん!(笑)健康的にクリエイティブが進んでいくのがすごく気持ちいい。翔さんの作る曲は絶対に翔さんが作家の仕事だったら作らないだろうなと思うものばっかりだなと思っていて。
渡辺コアな自分の好きな部分を出せてる感覚はあるかな。特に歌詞はそうですね。作家だったら絶対に書かないことを書いている。自分が選択しなかった人生を歩んでいる自分のことを書いてる感じかな。あの時ああしなかった自分はきっとこうなっていただろうな……と思うことというか。
──パラレルワールドで暮らしている自分というか。
渡辺まさにそんな感じです。よく周りから「社会不適合者」と言われるので(笑)、sajou no hanaではあんまりまっすぐな歌詞を書けないんですよね。
sana「あめにながす」(※12月26日リリースの配信シングル『あめにながす』に収録)も救いようがない歌詞ですよね(笑)。
渡辺(笑)。でも自分ひとりに向けて歌うような独りよがりな曲にはしたくなくて。いろんな人が聴いて「いい」と言ってもらえる曲にはしたいんです。
──「あめにながす」はビートが効いているのでダークな歌詞でもクールかつ軽快に聴こえます。独りよがりにならないというのはsanaさんが歌うことも大きく作用していますよね。
渡辺そうですね。「あめにながす」はsajou no hanaの初期の初期からあった曲で。「今自分が聴きたい曲を作る」というのが自分の制作のテーマなので、ずっと出したいなと思っていたんです。
キタニいちばん最初に「我々はこういうバンドだよね」という意味で完成させたので、sajou no hanaを示すような曲でもあるんですよね。なんとなくレトロで、ぼやっとした、ざらっとした物寂しい雰囲気――名刺代わりのシングルであってほしいな、という気持ちでいます。
渡辺ふたりのいいところをミックスさせて、自分らしさを出す、3人のバランスを考えた結果できたのが「あめにながす」ですね。sanaちゃんは強いものから弱いものまで幅広く歌えるので、全部表現してくれてると思います。
sanasajou no hanaの方向性は、いままでわたしがやってきた歌とはまた全然別なんです。でもおふたりが、わたしの知らなかったわたしの持ち味を引き出してくれて、いろいろ挑戦中です。