健ちゃんとまさみちゃんは、M役とS役だから合うと思った(笑)
ついにここまで来たか、と。もう9回目の初日だから、新鮮かって言われたらちょっと微妙だけど(笑)、やっぱり特別な思いはありますね。この1年9か月、初日が開けたらまたすぐ次の稽古が始まる日々だったけど、もう次はないわけだから。あとは、大みそかの千秋楽まで、誰もケガせず無事に終わってくれることを祈るばかりです。
企画が持ち上がった2014年の夏、私自身「想像もできない」と思ったことを覚えてますよ。最初は迷ったけど、今となってはやって良かったな、と。もしほかのプロデューサーがやってうまいこと行ってたら、チキショー!と思ってただろうしね(笑)。でもうまく行ったのは本当に、スタッフ・キャストの皆さんのおかげ。よくみんなやってくれたよね、こんなバカみたいに大変な企画(笑)。『髑髏城の七人』が評価されて、芸術選奨の文部科学大臣賞というのを先日いただいたんですが、私としてはみんなを代表して、みんなの代理でもらったつもりでいます。
興行的な面では、ないっちゃないですね。2年やるなら同一キャストのロングランじゃなく、1本1本メリハリをつけないと満席にならないだろう、それで『髑髏城』はこのぐらい入って、2作目の『メタルマクベス』はこのぐらいだろう、というあたりは想像していたこと。思いもよらなかったことがあったとしたら、中身の面かな。
『メタルマクベス』disc2で夫人を演じた大原櫻子ちゃんは、私も演出のいのうえ(ひでのり)さんもいいと思ってキャスティングしたものの、この役にはちょっと若いかなとも思ってたんですよ。マクベス夫妻というとほら、大御所のシェイクスピア俳優・女優が「さ、私もそろそろマクベスをやってみるかな」って、重い腰を上げるみたいなイメージがあったから(笑)。でも本来の『マクベス』って、世間を知らない若い二人が、ワケも分からずやらかしちゃって追い詰められていく話なんですね。尾上松也君と櫻子ちゃんの夫妻からはその感じがよく出ていて、結果的にはぴったりだったなと思わされました。
もちろんもちろん。単に役に合う人ってだけじゃなくて、役者同士の相性も考えないといけないですからね。「プロデューサーと演出家が決めたことですから」って押し切ることもできるけど、それじゃ気分が乗らない役者もいますから、「今回の共演にはこんな人を考えてるんだよね」っていう“下話”をちゃんとしておかないと。この人とこの人は相性が悪いって言われていても、ただの噂だったりすることもあるから、いかに飲み会に顔を出して情報を拾ってこられるかが大事というわけです(笑)。
そうそう、楽しく飲みながら、こっそり心にメモしてるの(笑)。それに、キャスティングのためだけじゃなく飲み会に行くこともあるしね。この間も、扉座の連中が公演終わりに飲んでるっていうから、公演を観てもないのに勝手に合流して。夜中まで六角(精児)と喋って、あいつはああ見えて案外インテリだから話は盛り上がったんだけど、「考えてみたらお前とは1回も仕事したことないよな。多分この先もないと思うわ!」って(笑)。ムロツヨシや新井浩文なんかも、そういう飲み仲間のひとりですね(笑)。
健ちゃん(浦井)は、『マクベス』をやるならどこかには入ってもらおうと最初から思っていて、スケジュールをすり合わせた結果ここになりました。じゃあ夫人はどうしようかと思っていた時に、まさみちゃんが出ている松尾スズキさん演出の『キャバレー』を観て。元々、自分が生きてるうちに新感線の舞台でご一緒したいと思ってたひとりだったから、「ここだ」と思って正式にお願いしました。
二人の相性については、健ちゃんがよく東宝ミュージカルに出ててまさみちゃんは東宝芸能の所属だから、まず事務所的な問題はないなと(笑)。個人としても、健ちゃんがM役でまさみちゃんはS役だから(笑)、恐らく合うだろうと思いました。disc2では反対に、松也君がS役で櫻子ちゃんがM役。どっちにしろ、マクベス夫妻はデコボココンビだとうまく行く、っていうのがなんとなくの感覚としてあったんですよ。
経緯は本当に、人によってさまざまです。柳下(大)君は、舞台を観に行ったら芯のある芝居をしていたからで、(高杉)真宙君は2年前、うちの制作連中と「今の若手で伸びしろ日本一は誰だろうね」って話をしてた時に名前が挙がっていたひとり。オファーは何年も前にするものだから、“今ブレイクしてる人”じゃダメなんですよ。真宙君とか『サイケデリック・ペイン』(2015)の綾野剛みたいに、伸びしろ予想が当たった時は「ほら来たでしょう~」って言うけども(笑)、実は外れることも多い。ブレイクしてから「あの時オファーしていれば…」って思うこともあるけど、歴史にifはありませんから、結果を受け入れるしかないと思ってやっています。
分かっています(笑)! 内容については口出ししない私が、唯一意見するのが尺(上演時間)のことなんだけど、短くなった試しがない。今回も、脚本の宮藤(官九郎)君には初演より30分短くしてくれるよう頼んで、彼はちゃんとうまいことカットしてくれたんですよ。それなのに、出来上がってみたら初演と全然変わらなかった。未だに全く納得してません!
新感線をクルクル回りながら観られる機会はこれが最後ですから、騙されたと思って観に来てください、騙しませんから、ということですね。今ここでやってることっていうのは、恐らく日本の舞台芸術の、ある意味で最高水準だと思うんですよ。この難しい機構を使いこなす、照明と音響のキッカケだけでも1000以上ある舞台を全スタッフが連動して動かし、そこに役者が乗っかるって、それだけでも大変なこと。日本のエンターテインメントは案外ここまで来てるよ、それが実感できるだけでも観て損はないよっていうのが、いちばん強調したいところですね。