TEXT・PHOTO / 桑田英彦
1995年にオアシスが発表した楽曲『サム・マイト・セイ』は、バンドとして初の全英シングル・チャート1位を獲得した。もちろんノエル・ギャラガーの作詞・作曲である。彼らしい観念的な表現を多用しながら世間の矛盾をシニカルにアピールするという、じつに含みの多い曲に仕上がっている。そして一筋縄ではいかないオアシスの歌の世界を見事なアートワークで表現したのが、クリエイティブ集団「マイクロドット」(写真上)を率いるデザイナー、ブライアン・キャノン(写真右下)である。彼はフォトグラファーのマイケル・スペンサー・ジョーンズと組んで、オアシスの世界観を見事にジャケットに刻み込みながら、一流の”オアシス・ブランド”を作り上げた。その代表作が『サム・マイト・セイ』でのアートワークである。この歌の[I’ve been standing at the station. In need of education in the rain]という歌詞がキーワードになり、ジャケットのコンセプトには「駅で到着することのない列車を待っている人たち」というノエル・ギャラガーのアイデアが採用された。2週間かけてイギリス全土をロケハンした結果、マンチェスターの南東100キロに位置する、マットロックという小さな村の南端にあるクロムフォード駅(写真下)が撮影場所に決定した。

『サム・マイト・セイ』のジャケット撮影が行われたクロムフォード駅。ダービーシャー州の静かな森の中にたたずむ幻想的な空間だ(Cromford Railway Station:Lea Road Cromford, Matlock DE45JJ)

[画像左]モノクロ写真を彩色して製作された『サム・マイト・セイ』ジャケット [画像右]クリエイティブ集団マイクロドットを率いるブライアン・キャノン

[画像左]社会の現実を“曖昧な空気感が漂う早朝の風景”をアピールするジャケット [画像右]ロンドンのソーホーにあるベリック&ノエル・ストリートの交差点

『シェイカーメイカー』の歌詞に登場するシフターズ(177 Fog Lane Burnage, Manchester M20 6FJ)
オアシスの故郷、マンチェスターには「オアシス・バス・ツアー」があり、周辺に点在する彼らのゆかりの地を手軽に楽しむことができる。このツアーのハイライトがレコード・ショップ・シフターズ(写真上)である。彼らのデビュー・アルバム「ディフィニトリー・メイビー」に収録され、シングル・カットされた『シェイカーメイカー』の歌詞に登場するレコード・ショップだ。この曲のオフィシャル・ビデオにも店の外観や内部の様子が、レコードを選んでいるリアムの姿とともに映し出されるので、オアシス・ファンには有名な場所となっている。ノエルは16歳の頃この店に入り浸り、レコード・ハンティングを繰り返したという。店主のミスター・シフター曰く、いつもノエルは「将来はジョニー・マーのようになりたい」と話していたという。内装、外装ともにノエルが入り浸っていた当時のままである。

『シェイカーメイカー』のPVに登場するシフターズの店内。アナログ盤で埋め尽くされている

[画像左]1972年からギャラガー一家が暮らした家(5 Cranwell Drive Burnage, Manchester M19 1SA) [画像右]様々な音楽をギャラガー兄弟に教えたミスター・シフター

マンチェスターのミュージック・アイコンとして存在した「ザ・ボードウォーク」のビル(21 Little Peter St, Manchester M15 4PS)

[画像左]壁面に設置された「ザ・ボードウォーク」のブループラーク [画像右]クリスティーズのオークションに出品されたノエルの直筆が残るカセットテープ
オアシス「サム・マイト・セイ」
オアシス「シェイカーメイカー」
桑田英彦(Hidehiko Kuwata)
音楽雑誌の編集者を経て渡米。1980 年代をアメリカで過ごす。帰国後は雑誌、エアライン機内誌やカード会員誌などの海外取材を中心にライター・カメラマンとして活動。ミュージシャンや俳優など著名人のインタビューも多数。アメリカ、カナダ、ニュージーランド、イタリア、ハンガリー、ウクライナなど、海外のワイナリーを数多く取材。著書に『ワインで旅する カリフォルニア』『ワインで旅するイタリア』『英国ロックを歩く』『ミシシッピ・ブルース・トレイル』(スペースシャワー・ブックス)、『ハワイアン・ミュージックの歩き方』(ダイヤモンド社)、『アメリカン・ミュージック・トレイル』(シンコーミュージック)等。