フジジュンのライブ終わったら、ど~する? #4「すぐ取り戻せないものを嘆くより、いまあるものを最大限に楽しもう」

コラム | 2021.11.22 12:00

Photo:にしゆきみ

「今日ライブ終わったら、ど~する?」なんて、呑気なテーマで始めたこのコラム。連載を始めたばかりの頃(2020年6月)は、コロナ禍がこんな長続きすると思ってなかったから、「そのうち再開出来んだろ」なんて楽観的に考えてたんだけど。前回のコラム執筆から、なんと1年3ヶ月の長い月日が経ってました! その間も「音楽を止めるな!」と闘うアーティストは、規制がある中で感染拡大防止対策をしっかり守りながら、ライブやツアーを行ってきた人もたくさんいたし。俺たちみたいなライブを生きがいにしてるロックファンは手洗いうがいも徹底しながら、ライブハウスに行ったりもしてたんだけど。ライブに行くことにどこか後ろめたさがあったり、いざ行ってみても不自由さを感じたりして、心の底からライブを楽しめる状況じゃなかったというのが本音のところ。新型コロナの新規感染者や重症者が減って、緊急事態宣言も解除されて、少しずつ日常が戻り始めてるここ最近。もはや、『早く何の遠慮もなくライブが楽しめる日が来ますように!』と祈ることしか出来ませんが。そんな日も遠くないはずと期待させ、元気と希望を与えてくれるのは、やっぱりライブ現場でした。

10月24日、やって来たのは日本橋三井ホール。この日行われたライブは、Yoshiharu Shiina Live 2021「KNOCK and OPENED」。椎名慶治(SURFACE)が、ソロとして約3年ぶりとなるアルバム『and』を掲げて行った、全国ツアーのファイナル公演。すっかり慣れてしまった消毒と検温を済ませて会場に入ると、座席間隔をしっかり保ちながら、高まる期待で客席は熱気が充満。会場の灯りが落ちて、アルバム『and』でもイントロダクション的な役割を果たすOPナンバー「Knock and Opened」でメンバーが勢いよく飛び出すと、椎名慶治が堂々と登場。勇ましくも軽快な「アイムリアル」でライブを本格スタートすると、正確で巧みな演奏で聴かせるツワモノ揃いのバンドメンバーの演奏をバックに、力強く艷やかな歌声で圧倒的存在感を放つ! かけ声や歓声は上げられないけど、手拍子を打って拳を振り上げ、観客もライブを思い切り楽しんでいる。MCでは「楽しいツアーだったけど、1週間に1回しかライブやってないから、毎回初心に戻るつうか。毎回、新鮮な気持ちで出来てるんだけど……はっきり言おうか? 緊張してます!」なんて軽妙なトークで笑わせながら、曲に入った瞬間にキリッと真剣な表情を見せる椎名。このギャップも彼の魅力。

撮影:石黒淳二

最新アルバム『and』の新曲たちを中心に構成されたこの日のライブ。曲によって楽器を持ち替えてサウンドメイクをガラリと変えたりと工夫を凝らしながら、新曲たちの多彩な楽曲世界を再現するバンドの演奏も見応え十分だったが。挑戦も多かったという新曲たちを巧みに乗りこなし、メロディと言葉を変幻自在に操る椎名のボーカルは“歌のマジシャン”といった感じで、同性の俺でも時折、魔法をかけられたようにうっとり見惚れてしまう。観客が掛け声の代わりに力強く拳を上げて一体感を生んだ「DOUBT!!」、会場中の心をガッチリ掴んだバラードソング「それだけ」、歌い出しに納得いかずに曲を止めてやり直す姿もご愛嬌で愛くるしかった「アイクルシイ」と、椎名の多面的な魅力が見える楽曲たちで盛り上げる中、ライブは後半戦へ。

撮影:石黒淳二

MCでは「もう、元の生活を求めるのは違う。あの時のあのライブはもう無いかも知れない。ただ、みんなの楽しんでる姿を見た時に『みんなも俺も次のフェーズに行ってるんだな』と確信した」と、ライブシーンの現状について真摯に語った椎名。「でも俺はこれから先も足を止めないで音楽を続けるから。みんなも少し元気が出ない時やストレスが溜まった時は、椎名のライブに遊びに来て欲しい!」と力強く告げ、「お節介焼きの天使と悪魔と僕」で始まった終盤戦は激しいロックチューンを勢いよく畳み掛けるように披露し、アルバム『and』のラストにも収録された「KI?DO?AI?RAKU?」で本編を締めくくる。現在を生き抜く生命力に溢れ、諦めずに前へと足を進める椎名のロックな姿勢がステージに表れた、実にパワフルでエネルギッシュなライブだった。

撮影:石黒淳二

椎名慶治のエネルギッシュなライブ見て興奮し、ぐわわと力が湧いてきた僕は、会場を出ると家から履いてきたジョギングシューズの紐を締め直して、ビルの裏道に入って軽く準備運動を始めた。そう、今日はライブが終わったら、会場からもほど近い皇居の周回コースを走ってから帰ろうと決めていたのだ。ただひとつ、困ったことがあって。以前から武道館でライブを見た後など、ライブの余韻に浸りながら、皇居をぐるっと周回して。半蔵門駅近くにある銭湯で汗を流して帰宅してたことがよくあったのだが。コロナ禍の影響もあってか、いつも行ってた銭湯が閉店していたことが発覚したのだ。ガーン! 他にも皇居周辺には、シャワーやロッカーが設置された“ランステ”と呼ばれる施設がいくつかあるんだけど、日曜のこの時間はやってないお店がほとんど。そこで必死で探して見つけた今日の目的地は、皇居から少し離れた四谷の銭湯。スマホに目的地をセットして、日本橋三井ホール前から四谷へと向かう、約5kmのランニングがスタート!

撮影:フジジュン

撮影:フジジュン

イヤホンから流れる音楽は、もちろん椎名慶治のアルバム『and』。心地よい秋の夜風に吹かれて、「Knock and Opened」で始まる今作を聴きながら軽快に走り始めると、さっき見たばかりのライブの風景も鮮明に蘇ってくる。ああ、良き時間! せっかく気持ちいいから少し遠回りして、街の様子でも眺めながら走ろうと日本橋を過ぎて、京橋まで行って皇居側に曲がる。日曜夜の街なかは数ヶ月前と比べてもずいぶん明るくひと気もあって、「少しずつ日常が戻り始めているのだな」と嬉しくなってくる。皇居前に出て、和田倉門から東京駅が見える広い道路は「東京だよ、おっかさん!」と言いたくなる東京らしい景色で、皇居ランでもお気に入りのスポット。その景色にテンション上がって少しスピードを上げて、「DOUBT!!」を聴きながら竹橋方面へと駆け抜けて。千鳥ヶ淵を越えたところで裏道に入ると、アルバムはすでに後半戦。「それだけ」に胸締め付けられて、「KI?DO?AI?RAKU?」が再びテンションを上げ、『and』を聴き終えると四谷まであと一息。

撮影:フジジュン

少し遠回りしたので7km弱を走って、四谷の「塩湯」に到着! そんなに長い距離じゃなくても、ランニングで目標を達成した時の達成感は半端ない。俺の人生の主役は俺だ! 近所の常連さんで賑わう、昭和の雰囲気をたっぷり残した銭湯でゆっくり湯船につかって汗を流して、しっかり水分補給して。お腹も減ってきたので、2周目の『and』を聴きながら家路につくことにした俺。風呂上がりの火照った身体に夜風を浴びて、音楽を聴きながら駅までの道をぽてぽてと歩く道すがら。その気持ち良さに酔いしれながら、頭の中で椎名が言っていた「次のフェーズ」についてふと考えていた。確かにあの頃みたいなライブの熱気や光景はすぐに取り戻せないかも知れないけど、音楽やライブが絶えることは絶対にない。だったら、僕らはすぐ取り戻せないものを嘆くより、いまあるものを最大限に楽しむべきなんじゃないか? すっきりした頭で、僕はそんなことを思っていた。ライブハウスで生で体感する音楽はそりゃ最高だけど、こうしてランニングしながら聴く音楽や、夜の街を歩きながら聴く音楽だって最高だ。だったら、いまはこの不自由な環境の中で工夫もしながら音楽を最大限に楽しんで、近い将来必ずやってくる、何の遠慮もなくライブが楽しめる日を心待ちにしよう。そんな風に前向きに考えたら、なんだか気持ちが少し楽になった気がした。こんな現状もタフに生き抜き、諦めずに前を向いていれば、きっと明るい未来が待っている。椎名慶治のライブを見て、僕はそんなことを考えた。

公演情報

DISK GARAGE公演

Yoshiharu Shiina Live 2021「4 now and 4ever 2 U +1」

2021年12月30日(木)KT Zepp Yokohama

■MEMBER
Vocal:椎名慶治
Drums:佐治宣英
Bass:山口寛雄
Guitar:友森昭一
Keyboards & Guitar:磯貝サイモン

チケット一般発売日:2021年12月4日(土)

RELEASE

『and』

オリジナル5thフルアルバム

『and』

2021年9月15日(水)SALE
『RABBIT-MAN』リマスター盤

1stフルアルバム

『RABBIT-MAN』リマスター盤

2021年9月15日(水)SALE

PROFILE

フジジュン

1975年、長野県生まれ。『イカ天』の影響でロックに目覚めて、雑誌『宝島』を教科書に育った、ロックとお笑い好きのおもしろライター。オリコン株式会社や『インディーズマガジン』を経て、00年よりライター、編集者、デザイナー、ラジオDJ、漫画原作者として活動。12年に(株)FUJIJUN WORKSを立ち上げ、バカ社長(クレイジーSKB公認)に就任。メジャー、インディーズ問わず、邦楽ロックが得意分野で、笑いやバカの要素を含むバンドは大好物。

  • フジジュン

    TEXT・撮影

    フジジュン

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    石黒淳二

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