2017年春のメジャーデビュー以降、シングル1枚とフルアルバム1枚をリリースし、秋には全国ツアーを行った4人組ロックバンド、Bentham。メジャー1st E.P.となる『Bulbous Bow』はいままでのキャリアで得た経験をもとにさらなる進化を目指し、agehaspringsの野間康介をプロデューサーとして迎えて制作された。タイトルの“Bulbous Bow(バルバス・バウ)”とは、船が進むとき波をおこすことによって受ける抵抗を打ち消すために取り付けられた部位のこと。「Benthamという船でいろいろな人の想いを載せて前に向かっていきたい」という気持ちを持って新しいスタートを切ったBenthamは、いまなにを思う?
ちゃんと音楽的な説得力があるうえでたくさんの人に聴いてもらいたい
──Benthamは“99.9% CATCHY & EMOTIONAL”という基本理念を掲げていますが、ここに至った経緯を教えていただけますか。
小関竜矢(Vo/Gt)
Benthamの音楽は第一に歌のメロディを、その次にオケのメロディを重要視していて。とにかく“キャッチー”という枠組みのなかで、悲しい曲、明るい曲、暗い曲……など幅を持たせています。“99.9%”というのは、「100%キャッチーではないかもしれないけれど、残りの0.1%がなにかはライブで感じてほしい」という意味が込められていますね。この方向性になったのは、異なるキャッチーな要素を持った4人がたまたま揃ったからだと思います。でもそれも“なんとなくみんなばらばら”という感じで、そのあいまい感もいいところなのかなと思っていますね。
──Benthamは2017年4月にメジャーデビュー。シングル1枚とフルアルバム1枚をリリースし、同年秋にはアルバムリリースツアー『Re: Wonder TOUR 2017』を行いました。そのツアーを終えたタイミングで「バンドとしてどう進んでいくべきかをあらためて見つめ直した」とのことですが、どんな結論が出たのでしょう。
須田原生(Gt/Cho)
僕らの目標はそれまで「バンドを長く続けたい」というフワッとしたものだったんです。でも仕事として音楽を続けていきたいとなると1個ステップを上がらなければいけないなと思って。
小関竜矢
僕らはインディーズ時代から挑戦や試行錯誤をしながら毎作品最高のものを作って、バンドを更新してきたと思っているんです。昨年出したフルアルバム『Re: Wonder』は本当に自分たちとしては名盤と言える、納得のいくものが作れたと思っていて。だからこそ「どうすればもっとたくさんの人たちに届けられるんだろう?」と考えた結果、サウンド面を変えることにしました。
──広める方法はいろいろありますが、なぜサウンド面の改革を?
小関竜矢
フェスやサーキットイベントは増えたけれど、全国各地で同じ界隈のバンドが集まったイベントが開催されて、そこに同じような層のお客さんが集まるのでは、新しいところに広がりがないなと感じていて。だからこそ視野を広く持って、バンドとして広く行動していきたい。バンドの立ち位置的にもTVやラジオなどで曲を流していただける機会が増えたので、どこかで流れてきたときに「ん?いまのなんだろう!」と思ってもらえるような曲が作りたいと思っています。
──いまの時代はいろんな音楽の続け方があると思います。Benthamがサウンドアプローチを変えてまで、たくさんの人々へと自分たちの音楽を広めることに力を注いでいる理由とは?
小関竜矢
いまの時代はみんな試行錯誤してると思うんですよね。そのうえでなんとなくアイドルブーム、邦ロックの四つ打ちブーム……いろんなブームが起きてきて。その結果、音楽に特化していないお客さんにも「面白い」「かっこいい」「かわいい」という興味が広がったのはいいことだけど、みんながみんな“他ジャンル”に手を出したゆえのブームだったと思うんですよ。だからいまは、他ジャンルだった者同士がみんな同じようなことをしている気がするんです。
──だからこそBenthamはサウンドアプローチを変えたということですか。
小関竜矢
「ちゃんと音楽的な説得力があるうえでたくさんの人に聴いてもらいたい」という気持ちが強くある。そこをしっかりしておかないと、地下のライブハウスで這いつくばっているバンドマンにも失礼だなと思うんです。受け入れられやすいタイプの音楽をやっている僕らが売れないとかっこ悪いなと思うし、ずっと同じ生活をしていると出てくるものも似たようになってしまうから、数字は高いところを見据えていきたいですね。メンバー全員で音楽で仕事をすることで歩んでいって、そのうえで生まれる変化を楽しんでいきたいし、僕らが「かっこいいバンドでありたい」となると売れるのがベストだなと思うんです。
本当にかっこいいプレイヤーたちだから、メンバーをもっと前に出していきたい
──これまでFRONTIER BACKYARDのTGMXさんとタッグを組んで制作をしていたBenthamは、今作のE.P.『Bulbous Bow』でポルノグラフィティ、ゆず、LiSA、Aimerなどを手掛けてきたagehaspringsの野間康介さんをプロデューサーに迎え入れました。
辻怜次(Ba/Cho)
野間さんは「いろんな人に広めるサウンド作りが得意な人」とお聞きして、自分たちのいま欲しい色味にぴったりだなと思ったんですよね。
須田原生
野間さんはBenthamの音楽の良さを認識したうえで、自分ができることを付け加えてくださったので、いままでの良さを持ったままステップアップできたと思います。
鈴木敬(Dr/Cho)
それまでスタジオでアレンジを組んでいくことが多かったんですけど、今回はスタジオだけでなくデータを使った作業も取り入れて、いい意味で効率も良くなって。野間さんのおかげでふたつのいいとこを取る作業ができたかなと思います。
──資料によると昨年は「自分たちのいいところや、気持ちいい音楽というものも理解できた」とのことですが、今作のレコーディングではそれらも反映できましたか?
小関竜矢
今回のE.P.では音の帯域や構成も含めて、メンバーの技術の高さや得意なプレイが顕著に出たと思います。もともと僕らはジャンルに縛られていないので、メンバーの技術があるということは、「やれることが無限にあってそこからやりたいことを選べる」ということなんですよね。それはいままでの積み重ねがあったからこそだと思いますし、これをBenthamの良さとしてみんなに知ってもらいたいし、評価されてほしい。本当にかっこいいプレイヤーたちだから、俺はメンバーをもっと前に出していきたいです。
須田原生
シンプルなことをやって余裕があるときの気持ち良さ、小難しいことをやり遂げられたときの気持ち良さ――それをメンバーと共有できること、技術的なことを話している時間がすごく楽しくて。今回のレコーディングは技術的に向上できた部分が多くて、ライブで昔の曲を演奏したときに、前よりもいい演奏にできた感覚があったんです。「いま全員なんとなく“いい!”と思ってるんだろうな」と感じる瞬間が多いので、それはバンドにとってすごくいい瞬間だし、楽しいし気持ちいいなと思ってますね。
鈴木敬
今回のレコーディングで各々が成長していく様をみんなで見ていたので、それがバンドとしても良かったなと思います。みんなが予定していたものよりいいフレーズをどんどん乗せていくのを見ていて、バンドをやっている感があるなと。
辻怜次
今作のレコーディングはベースにもテックさんがついてくださったので、サウンドやフレージングに関する相談もたくさんできたし、理論で裏付けされた音作りができたんです。でも実際に弾いてみて気付いたことは僕からも提案して――そういうやり取りをすごくたくさんできたし、ベーシストがそばにいてくれるという安心感もありました。すごく成長できたから、ほかのパートを俯瞰できるようにもなったし、視野が広がったなと思います。いままでTGMXさんとやってきたことがしっかり土台になっていることも身に染みましたね。
──Benthamというバンドは、メンバーはもちろん、TGMXさん、野間さん、エンジニアさんなどなど、これまで関わってきた方々に育てられているんですね。
辻怜次
プロデューサーさんたちだけでなく、メンバー4人とも音楽的な下地が全員違うから、それぞれの意見を聞くと「あ、そういうのもアリなんだ!」という発見があるんです。自分たちの良さはそういうところなのかなとあらためて気付いたりもしましたね。