インタビュー:宮本英夫
君はヒゲダンを見たか。ファンクでポップでハッピーな、一発で耳に残るキャッチーな音楽性。確かな演奏スキルと、ほっとけないフェロモンを秘めたソウルフルな歌唱力。揃いの衣装に明るいキャラ、エンタメ度の高いライブ・パフォーマンス。ネクスト・ブレイク候補最右翼、ヒゲダンことOfficial髭男dismのNew Digital EP「LADY」は10月13日リリース、そして東京・赤坂BLITZを含む過去最大規模のワンマンツアーは地元・島根から11月3日キックオフ。CDデビューから約2年、ヒゲダンはいかにして多くのリスナーの愛されバンドへと成長したのか。バンドの中心人物、藤原聡(Vo&Pf)に聞いてみた。
自分で組んだオリジナルバンドで、ワンマンツアーの初日が地元でできるのは、すごくうれしいなと思います。
──バンドが上京してから、1年半くらいですか。東京で好きな場所とか、できました?
好きな場所ですか?よく行く場所は、近くの公園ぐらいですけど(笑)。でもやっぱり、ライブ会場とか、テレビやライブDVDとかで見た場所に行くのはすごくうれしくて、テンション上がりますね。
──みなさんそう言いますね。東京にずっと住んでると、普通だと思っちゃうんですけどね。
僕らの地元は島根県の県庁所在地・松江ですけど、ライブができる会場は、ホールも含めて両手の指で数えられるぐらいしかなくて、都内に比べれば全然なので。そこで自分たちが、今年の6月には渋谷クアトロでやらせていただいて、次は赤坂BLITZで、やりたかった場所で一つずつやれてるのがすごく面白いし、新しい会場でライブをしたり見たりするたびに、「次はワンマンライブでここでやりたいな」と思います。先日、日比谷の野音のイベントに出させていただいた時にも、テレビで見ていた場所だし、すごく素敵な場所だと思って、「ここでワンマンライブやらなきゃ」という感じになりましたね。
──今度のツアーの初日、島根県民会館というのは、地元では大きいほう?
大ホールになると、1500人ぐらいですかね。地元ではあるんですけど、僕らはまだまだなので、とりあえず中ホールから始めてみようと思ってます。でも中ホールも、昔来られた方で言うとチャットモンチーさんとか、もっと前の世代で言うと尾崎豊さんも来たらしいです。いろんな方がそこでやっていて、何より僕ら、部活で年に一回発表会をやっていて、それも中ホールだったんですよ。自分が組んだオリジナルバンドで、ワンマンツアーの初日がそこでできるのは、すごくうれしいなと思います。
──ルーツ的な話もちょっと聞きたいんですけども。その、高校時代に部活をやっていた頃、藤原さんはブラックミュージックのバンドと、メタルのバンドと、二つのコピーバンドをやっていたとか。
そうですね。
──あのー、それって両立するものなんですか(笑)。
ああ、それは、基本的に嫌いな音楽があんまりなくて、それが自分のいいところでもあり、悪いところでもあると思ってるんですけど。「このアーティストが好き」といって追っかけ続けたアーティストって、実はあんまりいなくて。ONE OK ROCKとaikoさんぐらいで。
──おおー。そうですか。
あの方たちはライブが最高で、曲もすごく良くて、ずっと追っかけてるんですけど。それ以外になると、全部の曲が好きだという感じではなくて、アルバムを全部通して聴けるアーティストはなかなかいないし。ブルーノ・マーズとか、めちゃくちゃ大好きですけど、やっぱり飛ばしちゃう曲もあって。
全部のジャンルをしっかり音楽として成立させながら自分の色をしっかり出していく、そういうアーティストがあこがれですね。
──このアーティストのこの曲が好き、という感じなのかな。
そうなんですよ。それで気がついたら、メタルも聴いてブラックミュージックも聴いてJ-POPも聴いて、自分の気に入ったものをたくさん聴くようになっていったので。今でも「こういうジャンルを聴いてます」というのが、なかなか言いづらいです。でも器用貧乏という感じじゃなくて、全部のジャンルをしっかり音楽として成立させながら自分の色をしっかり出していく、そういうアーティストがあこがれですね。
──しかも、元々、ボーカリストじゃなかったとか。
元はドラムを叩いていて、何で歌い始めたのか、僕もあんまりよくわかってなくて(笑)。ドラムをやってた時期が長くて、歌を歌い始めたのはヒゲダンを結成したぐらいの頃で。ドラムのバンドでも、作曲をやってたんですよ。そこで、自分が作った曲が思う通りに歌われないというストレスがあって、気がついたら自分で歌い始めていたって感じですね。
──ああー。なるほど。
でもやっぱり歌は、納得のいくものを作るのがすごく難しいなと思いますね。そもそも自分の声質について、自分の主観を取り去って考えるのがすごく難しくて。自分の声がそんなに好きじゃないけど、素晴らしい歌を残すためにはどうすればいいんだろう?ということを、いつも考えていて、気づいたら歌のディレクションを、自分でいろいろやれるようになってきていたという感じです。
──僕がヒゲダンを初めて聴いたのは、2年前のデビューミニアルバム『ラブとピースは君の中』なんですけどね。偉そうですけど、あの頃よりは、歌がものすごくうまくなってる。あれはあれで、ライブっぽいというか、ラフな歌い方が生々しくていいんだけれど。
ありがとうございます。うれしいです。ありがたいことに、最近はライブで「歌唱力が高い」と言ってくださる方もいるんですけど、自分の中ではまだまだそうでもなくて。理想に掲げているボーカリストに比べると全然まだまだなので、そこは頑張っていきたいなと思いつつ、確かに旧作から聴いていくと、歌のレベルがちょっとずつ上がってるのがわかるのも、人間味があって面白いなと思ったりします。こうやって見てみると、ソングラインティングの面でも歌唱力の面でも、自分なりに成長していることがわかりますね。柱に身長を刻んでる感じです。
──そういうバンド、いいですよ。応援したくなる。こっちの気持ちと重ねられるので。
やりたいことも、視野が広がるにつれて変わっていってるなとすごく感じてます。ジャズとか、昔は全然聴いてなかったジャンルを聴き始めたりして、どんどん「こういうこともやれる」と思うようになっていって。最近はTHE ROOTSをよく聴いてるんですけど、また新たなジャンルの扉を開こうとしてますね。今度リリースされるものも、けっこう振り幅の激しい4曲入りになっているんですけど。