2016年3月26日(土)東京国際フォーラム ホールA
テキスト:兵庫慎司 撮影:アライテツヤ
「ものごとには、終わりがあれば、始まりがある。僕の場合の始まりは、こんな感じ」
というひとことに続き、ひとりでギター・イントロを弾き始め、メンバーたちの音がそれに加わる。客席、どかーん!と湧く──これ、『佐野元春 & THE COYOTE GRAND ROCKESTRA 35周年アニバーサリー・ツアー』のファイナル、東京国際フォーラム ホールA、2デイズの1日目、本編ラストに「アンジェリーナ」をやった時の流れなのだが、掛け値無しに、人生有数のかっこよさだった。
佐野元春の人生じゃなくて、僕のです。中2くらいから現在まで、なので33年くらいの間に自分が観てきた古今東西のあらゆるライブの中で、これほどまでに「うわあ!かっこええええええ!」と興奮させられ、ものすごいカタルシスを感じた瞬間、あっただろうか。
……言いすぎか。そりゃあさすがにあったでしょ、何度かは。あったんだと思う、きっと。でもぱっと思い出せない、ここまでのやつは。それほどのものだった、この体験。
さっき文字にしてみて思ったが、あの場にいなかった方、このツアーを観なかった方は、読んでも「そこまでか?」と思われるかもしれない。思われても不思議はないと思う。
しかし。35周年ツアーのファイナルで、全キャリアを網羅したキラ星のような曲たちをこの時点までで29曲・約3時間聴かされまくって、しかもTHE COYOTE BANDにTHE HEARTLANDの長田進(g)やTHE HOBO KING BANDのDr.kyOn(Key,g)、山本拓夫(Sax)などが加わったスペシャル・バンド、THE COYOTE GRAND ROCKESTRAによる、「GRAND ROCKESTRA」という名前そのまんまのすばらしいグルーヴを浴びまくって、その末に本編の最後で、デビューシングルの「アンジェリーナ」をやる前にこのセリフ、この曲への入り方。ということなどをすべて含めての、カタルシス大爆発だったのだ。
今、冷静に考えると、そう思う。その瞬間はただ「うわあああーーっ!!」って歓喜にうち震えていただけでしたが。
この時だけではない。
ハンドマイクで歌う時。ギターを持つ時。長田進に合図を出してばーんと曲に入った時。なんともいえない笑顔で、客席のあちこちに向かって何度も手を振る時。鍵盤の前に座り、オーディエンスに座るよううながしてから歌い始める時。基本的に、当時のアレンジをあまり変えないようにしているんだけど、この曲だけは35年アニバーサリー用に編曲した、という前置きで「君をさがしている」を歌い出した時。
「バイ・ザ・シー」のイントロでカウベルを叩く時。「Daisy Musicを立ち上げた曲」(「希望」)、「90年代に書いた曲を聴いてください」(「レインボー・イン・マイ・ソウル」)と、時期を説明してから曲に入る時。ファンはみんな知っている、横浜のサンドイッチ屋での初ライブの話から始めて、自分がここまで活動を続けてきたことを振り返り、みんなライブに足を運び続けてくれたことに感謝の意を告げ、「それだけサバイバルして来た人たちがここに集まってる。奇跡に近いことだ。僕はそう思う。みんな、こうしてサバイバルしてきたことを、誇りに思っていいと思う」という、感動的なMCをキメた時。
そして後半、「ここでみんなと一緒に、一気に80年代に戻ろう」と、「ヤングブラッズ」「約束の橋」「サムデイ/SOMEDAY」「ロックンロール・ナイト」「ニューエイジ」、そして「アンジェリーナ」と、アンセムを連打した時。その中の「ニューエイジ」の、「数えきれないイタミのキス 星屑みたいに降ってくる」で、星屑のように紙吹雪が舞い落ちてきた時。
アンコールの「スターダストキッズ」を、ハープを吹き鳴らしてスタートした時。ダブル・アンコールのラストで「僕はテレビよりラジオが好き」とラジオに対する愛を言葉にし、「悲しきレイディオ」でギターを抱えてスライディングをキメ、「愛し合う気持ちさえ分けあえるなら I love you!!」「You love me!!」とおなじみのコール&レスポンスをくり返した時──。
もう本当に、頭から最後まで、「ロック名場面集」みたいな瞬間だらけだった。僕にもっとも刺さったのは最初に書いたように「アンジェリーナ」の導入部分だったが、観た人によってさまざまな「いちばん刺さった瞬間」があるだろうし、「それ以外にもよかった瞬間」もあると思う。
佐野元春が35年間で生み出してきた歴代の名曲たちをやる、ということは、日本のロックの名曲たちをやる、ということなんだな、とわかったりもした。昨年リリースされた最新アルバム『BLOOD MOON』の曲たちのすばらしさに、佐野元春みたいに最初から自分のスタイルを持って登場して、しかも35年もやっているアーティストでも、今もなお進化しているんだ、ということに改めて気付かされたりもした(特に歌詞!)。
長年慣れ親しんできた知っている曲ばかりだし、バンドメンバーの中には過去あちこちでライブを観てきた人たちも何人もいるし、何よりも、佐野元春がなんであるかなんてこと、わかっていたつもりだったのに、発見だらけ、驚きだらけの35曲だった。そのことが、何よりも衝撃だった。
中盤あたりまでは、佐野元春の気遣いにより、立ったり座ったりしながら観ていたが、中盤以降は立ちっぱなしだった。終わって時計を見たら3時間半経っていて、足腰がガタガタになっていた。でも観ている間は、そのことに気づかなかった。
きっといつまでも忘れないと思う。