昨年11月下旬から始まった、全67本、約半年に渡るツアー“風の果てまで”で、日本各地で夜毎熱いライブを繰り広げている斉藤和義。ツアーはそろそろ折り返し、後半戦に突入する。5月21日、22日に行われる日本武道館公演は、最終日目前の60本目と61本目。どんなステージを見せてくれることだろう。
──ツアーが始まってそろそろほぼ3ヶ月。どんなふうに進んでいますか。
順調ですよ。曲も演奏も身体に染み込んできているので、難しいことは考えずにあとは音に身を委ねるだけ、という状態になってきていますね。毎回、ライブが進化しているのを感じています。
──斉藤さん史上最長のツアーでもある今回、いくつか波乱も起きているとか。
1月24日の山口県防府市での公演が大雪で延期になったり、その約1週間後にはキーボードのメンバーが病気で入院しちゃって、ピンチヒッターで2人、入ってもらうことになったりしていますね。長いツアーは何度もやってきたけど、今まで一度も経験してこなかったことが続いて、「なるほど、無事にツアーが進んで行くこと自体がとっても稀なことだったのかもね」って思ったりします。
──公演延期は斉藤さん的にかなりのダメージだったと聞きましたよ。
残念だとか申し訳ないとかいろんな気持ちがありましたけど、「連続出場記録が絶たれた!」みたいな感じもあって、それに結構凹みました、“なんだよ”って(笑)。天気のことだから、しょうがないことなんですけどね。自分の不注意で病気になって公演を延期にするようなことは絶対にしちゃいけないって、改めて肝に命じました。
──でも波乱のたびに、演奏がパワーアップしてるとも聞いています。今回のツアーからメンバーもほぼ一新。新しいメンバーとのライブはどうですか。
演奏している人たちがこれまでとは違うから、鳴っている音が違うのはもちろんなんだけど、ステージ上の気配も全然違っていて。それがおもしろいですね(笑)。前のメンバーはあまり動かない人が多かったんですよ。だけど今回はジャンプしてる人がいたり、髪を振り乱している人がいたり、結構アクションが激しいんですよ。俺は正面を向いているから本番中はあんまりわからないんだけど、ライブのあとに映像を見て、みんな、こんなに動いていたのかって(笑)。それが、すごい新鮮です。多分、ステージでは俺が一番おとなしいと思う。
──何度か今回のライブを拝見しましたが、いろんな意味で個性的なメンバーですよね。
バンドとしてまとまっているし、個人としても際立ってる感じはしますね。俺のような“ソロ・アーティスト”と呼ばれる人間のバックをやる場合、みんな、CDの演奏をどこまで忠実に再現するのかとか、どこまで自分の個性を出していいのかというのを考えると思うんだけど、今回の4人はその辺のさじ加減がすごく絶妙なんですよ。
──なるほど。
みんな、当日のリハーサルでは普通に演奏してるのに、本番になると、押さえるべきところは押さえつつもいきなりそれぞれの個性を出してきたり、違うアプローチをしてくる。演奏してて“今日はそうきたか!”って(笑)。新鮮だし、おもしろいですよ。俺も「どんどん自由にやって欲しい」と言っているし、みんな楽しみながら好きにやってくれている感じがいいなあと思っていますね。とくにジャムっぽくやっている曲なんかは、本当に日々、“その日のバージョン”が生まれている感じがするから、演奏していて楽しいですね。
──その“今、ここで互いに刺激しあっているからこその演奏”が聞けるのが、今回のツアーに限らず、斉藤さんのライブの醍醐味、という気がしています。
“予定調和”でないことは確かでしょうね。その方が、見ている方もやっている方もおもしろいと思うし。
──5月21日、22日には二日間の日本武道館公演があります。
武道館でライブができるのは、やっぱり嬉しいですよね。すごく楽しみだし。去年の12月にデビューの頃に同じ事務所だったフラワーカンパニーズの「フラカンの日本武道館〜生きててよかった、そんな夜はココだ!〜」を観に行ったんですよ。ライブ自体もすごくよかったんだけど、客席から武道館のステージを見たのがすごく久しぶりで、それも印象に残ってますね。
──ちなみに前回はどなたのライブだったんですか。
矢沢の永ちゃんかな。確か2、3年前だったと思う。5000円のタオルを買って、みんなと一緒に放り投げたりもしましたよ。綿ぼこりがすごかった(笑)
──(笑)
で、フラカンのステージを見ながら、“そうか、客席からはこう見えているのか、やっぱりいいなあ”と思いましたね。
──どんなところがいいなあ、と?
かっこいいんですよ。ステージから客席を見てもかっこいいんだけど、客席からステージを見てもかっこいい。武道館って、すり鉢っぽい形をしてて、ぐるりと客席があるから、どの席からも他の階のお客さんが見えるし、お客さんの気配がよくわかるんですよね。
──確かにそうですね。
ステージからお客さんの姿が見えるのは当たり前だけど、お客さん側からもお客さん全員の姿が見えるっていうのが、武道館の特徴なんだなって再認識したし、そういう景色だからこそお客さんの一体感もより生まれやすいんだろうな、と思った。唯一無二の会場ですよね。
──それでますます武道館でのライブが楽しみになったわけですね。
武道館のステージにはビートルズをはじめいろんな人が立っているし、渋谷のエッグマンでやっていたデビューの頃も、当時のスタッフには「武道館でやってるつもりでやらなきゃダメだ」と言われていたし、自分でも「いつかは武道館に」って思っていましたからね。やっぱり格別です。
──1999年3月以来、これまでご自身のライブでは武道館のステージに7回立たれていますけど、武道館だといつもと違う力が出たりするようなことはあるんですか。
いや、どうだろう…。武道館に限らず、東京のライブってお客さんの気配が一番読めないんですよね。
──そういうものなんですか!?いつもすごく盛り上がってるような気がしてたけど。
ツアーによっては、東京が一番盛り上がることもあるけど、一番おとなしい時もあるんですよ。大阪とか名古屋とか、何度もライブをやっているところはもちろん、ここはこんな雰囲気だよなってわかってきてるところが多いんですけど、東京だけは毎回、ステージに出て行って初めて、ああ、今日はこんな感じなのかって。地方は、ほとんどの人がその県の人だから、その地方ならではの特徴を感じられるんだと思うけど、東京のライブには、生粋の東京人だけが来るわけじゃない。それが大きいのかもね。
──確かに東京には日本各地から人が集まっているし、地方から駆けつけるお客さんも多いですよね。会場が武道館となると特に。
そういう意味では、やっぱり武道館は、今回のツアーのひとつの大きな見どころになるんだろうなと思います。
──5月は名古屋国際会議場センチュリーホール2デイズ、大阪城ホール2デイズと大きな会場が続きます。武道館はその最後。どんなステージになりそうですか。
そうですね。それまでにバンドの演奏がどうなっているか、今の時点ではまだ全然予想がつかないけど、メンバー同士の遠慮はこれから、いい意味でどんどんなくなっていくだろうし、もっとメンバーが自由になっていくと思うんですよ。演奏は間違いなく進化していくだろうし、かなりいいステージになると思います。楽しみにしていてください。
インタビュー/木村由理江
photo/佐々木コウ