中嶋ユキノ ふたり旅2024〜横浜の街へ〜
2024年12月10日(火)THUMBS UP[横浜]
シンガーソングライターの中嶋ユキノが、パーカッショニストの若森さちことともに回るアコースティックツアー「中嶋ユキノ ふたり旅」。2024年の開催地には新潟、松山、横浜の3都市が選ばれた。ツアーファイナルの横浜は彼女が人生初のワンマンライブを開催した地であり、彼女が横浜でライブを開催するのはその日以来、19年ぶりだ。さらに会場のTHUMBS UPは「ふたり旅2022夏〜あなたの街へ〜」で訪れるはずだったものの本人の新型コロナウイルス感染症罹患により中止になったという過去もある。そんな因縁の地で彼女を待っていたのは、観客がひしめき合いながらステージを煌びやかな瞳で見つめる、満員のフロアだった。
会場はアメリカンテイストのレストラン&バーで、上下2段でステージを取り囲むようにテーブル席が配備される。この時期ならではのクリスマスの装飾も愛らしい。年季の入った趣のある家具や展示の数々と暖色系の照明、最前テーブルはステージとの距離が1m前後といった臨場感と、開演前からホームパーティーを彷彿とさせるアットホームな空間が広がっていた。
開演時間になると、中嶋と若森があたたかい拍手をかき分けるようにフロアを抜けてステージに現れる。若森が優しくシェイカーを振ると、中嶋がゆっくりとキーボードを鳴らし「リスタートライン」でライブをスタートさせた。切々と語り掛けるような歌声に会場が耳を傾けるなか、続いての「冬になると」では軽やかな鍵盤と鮮やかなパーカッションが華やぐ。観客もその優雅で凛々しい音に触発されてクラップを鳴らし、グルーヴィな「1分1秒」は様々な楽器を駆使して彩り豊かに躍動感を生み出す若森のリズムと、中嶋のグリッサンドがクールに響いた。
その後もポップさの中に力強い意志やメッセージを宿らせた「斜め45度」、歌詞に描かれた海辺のムードをボンゴの音色が掻き立てる「いつかキミと海辺の街で」と、音と歌が歌詞に綴られた物語と感情を丁寧に組み上げる。まっすぐに前を見据えながら演奏する中嶋の佇まいには迷いがない。ただただ誠実に楽曲に、音楽に向き合う姿に息を呑む。
MCで観客とコミュニケーションを取った後は、若森のギターに中嶋が鍵盤を重ねて「誰かにそっと」を歌い出す。心の中に秘めていた切実で謙虚な本音と、それを繊細に表現する歌は、感傷的でありながらもあたたかく響いた。中嶋の楽曲や歌にはセンチメンタルな成分はあるものの、この日はそれを悲観的に捉えた要素をまったく感じさせなかったのが印象的だった。傷を抱えながらもそれをなだめるようなその歌声は、悲しさや寂しさも大切な感情であること、それが確かに未来の自分の糧となることを教えてくれるようだった。
若森がパーカッションに戻ると、中嶋はギターを抱え「ふたり旅開催にあたり新曲を書いてきました」と「洗い物担当くん」を披露する。父親が食事後に食器を台所へ持っていかないことに母親が不満をあらわにした、という中嶋の実家の実話をモチーフにした楽曲で、サウンドも歌詞もじつにユーモラス。歌い終えた後、会場は朗らかなムードに包まれる。カーペンターズ「Yesterday Once More」のカバーでは若森とのデュエットで18年の結束を裏付ける豊かなハーモニーを作り、未発表曲「柊の詩」は音に刻まれた冷たい空気や雪が降る光景、歌詞にしたためられた心情と記憶が純度高く響いた。
ふたり旅恒例の「ご当地カード」のコーナーで中華街にまつわるクイズや、つい最近、中華街へ中華を食べに行ったエピソードに花を咲かせると、ライブもラストスパートへ。「なんでなの!?」「好きで好きで」「伝わんないと意味がない」と、観客のシンガロングやクラップ、コール&レスポンスも相まってふたりの演奏も瑞々しさとエモーションが増していく。本編ラストの「新しい空の下で」は、中嶋の歌声と全身に漲る穏やかな気魄が隅々まで美しく、目が離せなかった。
アンコールでは横浜公演限定で演奏、コーラスワークも光る「夢の中でMerry Christmas」、ゴスペル並みの祝祭感のあるシンガロングが高らかに響いた「ALL FOR ONE」で会場がさらに熱を帯びると、中嶋は「アコ旅2025〜Can’t Stop This Feeling!〜」の開催を発表する。2025年も「アコ旅2024」のメンバーで回る旨を明かすと「今からどんなライブにしようかわくわくしている」「こうして皆さんと笑ったり泣いたり歌ったり、日常を忘れられるアコ旅にしたい」と続け、意欲を燃やす彼女に観客も熱い拍手を送った。
そして「ギターケースの中の僕」で今年のふたり旅を締めくくる。新しい旅のプロローグのような前を真っ直ぐ見据えた歌と演奏には、険しい坂道を常に上り続けてきた彼女ならではの強さが健やかに花開いていた。「ふたり旅」と「アコ旅」というふたつの恒例行事を重ね、着実にシンガーソングライターとしての筋力と、観客との結束を高め続けている彼女は、来年のアコ旅でどんな経験をし、どんな音を響かせるのだろうか。彼女の未来に自ずと思いを馳せてしまう、非常にエネルギッシュなアコースティックライブだった。
中嶋ユキノ ふたり旅2024〜横浜の街で〜
平日にも関わらず、
ご来場下さり本当にありがとうございました🥹✨満員🈵で、びっくりしました😮‼️
「なんでなの!?」「ALL FOR ONE」
みなさんの歌声が会場いっぱいに鳴り響いていて、
とっても嬉しかったです‼️😉🎶… pic.twitter.com/t2iTEn2d3L— 中嶋ユキノ (@NakajimaYukino) December 10, 2024
SET LIST
01.リスタートライン
02.冬になると
03.1分1秒
04.斜め45度
05.いつかキミと海辺の町で
06.誰かにそっと
07.洗い物担当くん
08.Yesterday Once More(Carpenters cover)
09.柊の詩
10.なんでなの!?
11.好きで好きで
12.伝わんないと意味がない
13.新しい空の下で
ENCORE
14.夢の中でMerry Christmas
15.ALL FOR ONE
16.ギターケースの中の僕