フジジュンのライブ終わったら、ど~する? #2「たった一夜のライブが人生を大きく変えることもある」

コラム | 2020.07.01 18:00

Photo:にしゆきみ

仕事とプライベートを合わせて、年間約120本のライブを見ているフジジュン(おもしろライター)。基本、ぼっち参戦の筆者がライブ終わり、余韻を残したままにどんな過ごし方をしているか? を報告する連載。「このライブハウス行くなら、帰りはここがオススメ!」など、みなさんのおすすめの過ごし方も募集します! 今日ライブ終わったら、ど~する?

今回は自己紹介を兼ねたライブ終わりエピソードを。“おもしろライター”を名乗って、音楽を中心とした編集&ライティングと、ラジオやライブMCなどお喋りの仕事を生業としているフジジュンさん。専門学校卒業後は、オリコンという会社で3年ほど会社員として働いてました。2000年7月に会社を辞めてフリーになって、今年で20年。「あれから20年!」(綾小路きみまろ風)になるのですが。なぜ、会社を辞めた時期をそんな正確に覚えてるか? それは「会社を辞めよう」と決意したのが、あるライブを観た後だったからです。

2000年7月9日、僕は横浜アリーナにいた。その日行われたライブは、BLANKEY JET CITYの解散ライブ『LAST DANCE』。中2の頃、イカ天で衝撃を受けて10年間、ずっと好きだったバンドの解散ライブ。同じ経験をしたことのある人なら分かると思うけど、解散ライブを見る時の「ライブは見届けたいけど、これを見たら全てが終わってしまう」というあの気持ちはなんとも言えない。特にデビュー前からずっと追い続けてきた思い入れの強いバンドだっただけに、ライブが始まる前はすごく複雑な気持ちだったのを覚えてる。

そして始まった解散ライブ。これまでの活動を振り返るオープニングVTRが流れると、ブランキーで本格的にロックに目覚めて、楽器を買ってバンドをやって。音楽にどんどんのめり込んでいった中高時代がフラッシュバックして、僕は始まる前からボロボロと涙を流してた。イカ天で演奏する姿に強烈な衝撃を受けた「CAT WAS DEAD」で始まった、新旧織り交ぜたセットリストも青春時代のワンシーンといちいち重なって、胸をギューッと締め付けたのだが。中でもガツンと来たのが「僕の心を取り戻すために」という曲だった。

ブランキーを聴きながら中高時代を過ごし、長野のクソ田舎から上京して、憧れの音楽業界に飛び込んだ僕。毎日が刺激的なドキドキする日々を経て、生意気にも仕事や環境に慣れてきた感があったのだが。会社の仕組みや人間関係に変化があって、楽しい日々に暗雲がかかり始めて。あの頃は「会社ってめんどくせぇな。でも、社会人として多少の嫌なことは我慢して、働き続けるべきなのかな?」なんてことを考えながら毎日を過ごしてた。そんな僕にベンジー(浅井健一)は性急なビートに乗せて歌った。

<朝が来たらパンをかじり 黒いブーツで灰色の
 空の下へ旅立つのさ 僕の心を取り戻すために>

この曲の歌詞は「それでいいの?」と問いかけるようで、僕の心にグサリと突き刺さった。

ライブが終わった後、僕は東横線に乗るため、菊名駅に抜ける細道を歩いてた。アンコールラストの「Baby Baby」が頭の中を何度もリフレインする中、「もう見れないんだ」と切ない気持ちになっていた。そして、ライブを見ながらフラッシュバックしてきた青春時代のワンシーンを思い出すと、ブランキーの解散と共に僕の青春時代が終わりを告げたような気がして異常に寂しくなった。と、その時。お告げのように頭を過ぎったのが、ベンジーの<僕の心を取り戻すために>のフレーズだった。

そうか。俺はなぜ感傷に浸って、自分の青春時代まで勝手に終わらせようとしてたんだろう!? ドキドキする日々が欲しいなら、僕の心を取り戻すために、黒いブーツで灰色の空の下へ旅立てばいいじゃん! そう思った瞬間、僕は携帯電話を手に取り、当時オリコンウィークリーの副編集長だった、僕の師匠であり上司であるイノマーさんに電話をしていた。「僕の心を取り戻すために会社辞めます!」と興奮気味に告げる僕は意味が分からなかっただろうし、さぞ気持ち悪かったろうが。「……そっか、ジュンが決めたんだったら仕方ない」とイノマーさんは快く受け入れてくれた。電話を切った僕は清々しい気分だった。星空がいつもより綺麗に見えて、夜の新横浜を気持ちよく歩いた。あまりに気持ち良くて、菊名駅を過ぎて知らない街まで歩いて、迷子になったのもよい思い出。今も思うけど、あの夜が無かったら今の僕はいない。

後日談として。あの夜から約10年後、ベンジーの取材をする機会を与えてもらった僕。この話を本人にするも、「良かったじゃん、直接話せて」とあっさり聞き流されてしまいました。そりゃそうだ。そんな話聞かされたって、なんて答えていいか分からないよな(笑)。しかし、そんな夢みたいな未来が待ってたのも、あの夜があったお陰!

たった一夜のライブが人生を大きく変えることもある。僕はこれまで何度もそんな経験をしてきた。このエピソードは僕の人生でもかなり大きな事件だけど、ずっと悩んでたことがスッキリ解消されたり、あと一歩が踏み出せなかった自分の背中を押してくれたり、一夜のライブで何かが変わった経験はみんなもきっとあるはず。そしてそんな夜、大事なのが“ライブの後の過ごし方”のような気がする。

昔から良いライブを見ると、興奮が収まらなくて走って帰ったり、そのアーティストの曲を聴きながら長時間歩いて帰ったり、立ち飲み屋で一人呑みして余韻に浸ったりと、ライブ後まで含めてその夜を満喫してきた僕。「あのライブハウス行くなら、近くのあの店のメシが美味い」みたいな話も含めて、印象に残ったライブとライブ終わりの色んな楽しみ方を紹介したいと思ってます。よかったら、みんなのライブ後の過ごし方も教えて!

PROFILE

フジジュン

1975年、長野県生まれ。『イカ天』の影響でロックに目覚めて、雑誌『宝島』を教科書に育った、ロックとお笑い好きのおもしろライター。オリコン株式会社や『インディーズマガジン』を経て、00年よりライター、編集者、デザイナー、ラジオDJ、漫画原作者として活動。12年に(株)FUJIJUN WORKSを立ち上げ、バカ社長(クレイジーSKB公認)に就任。メジャー、インディーズ問わず、邦楽ロックが得意分野で、笑いやバカの要素を含むバンドは大好物。

  • フジジュン

    TEXT

    フジジュン

    • ツイッター
    • Facebook
    • instagram

SHARE

最新記事

もっと見る