今年、ソロデビュー15周年イヤーを迎えた、KREVA。1月から9ヶ月連続リリースを敢行し、6月19日には過去の作品をバンド・アレンジで再録した「成長の記録 ~全曲バンドで録り直し~」の発売を予定している。15年と言う歳月の中でKREVAがたどり着いた境地、6月30日にKREVAのホームともいえる会場である日本武道館で予定されているライヴ『KREVA NEW BEST ALBUM LIVE – 成長の記録 -』について、そして日本のヒップ・ホップの現況について話を聞いた。
エデュテイメントって言葉があるんですけど、もっとスキルとか知識を分け与えるようなことがしたい
──KREVAさんにとって「15年」という期間を今いる地点から振り返ってみて思うところをまず伺いたいです。
そうですねぇ。もっと「人気者」になりたかったなぁって思いますね。
──充分以上に「人気者」だと思うんですが……(笑)。
いや、やっぱりラップってまだ色物っぽいじゃないですか。アメリカだと、今、チャートではヒップ・ホップが完全に中心になっている。アリアナ・グランデだって、ビリー・アイリッシュだってラップするわけですよ。そういう今の海外の状況を見ると、日本ももっと世の中的にラップが認知されているような状況にもっていきたかったっていうのはあります。
──あぁ、なるほど。ご自身を通して、ヒップ・ホップやラップを広く知ってもらえる機会を、もっと作りたかったと。
この15年をかけて自分のことを知ってもらうことはできたのかもしれないけれど、自分が好きでやっている音楽を広めるってことには力を貸せてないのかもなって思うんですよね。ここ最近、ラップの曲で流行ったものとか、ポップスのチャートにも響くようなものってないじゃないですか。KICK(THE CAN CREW)とかRIP(SLYME)が出てきて、俺もソロでデビューしてみたいなのはあったけど……。
──ジャンル自体のぼんやりとした認知度は高まってきているような気は体感的にはしますけど、確かにいろんな垣根を超えてお茶の間まで届くようなアーティストはKREVAさんが挙げた方以降、続いていないような気がしますね。
いいラッパーはいっぱいいるんですけどね。やっぱりリスナーの好みが細分化されていってると思うんですよ。ラップ聴く人はラップだけ、ロック聴く人はロックだけみたいに。これは15周年の後の話なのかもしれないですけど、自分が学んできたことをリスナーに教えてあげられるような機会を作るべきなのかなとは思ってますね。
──なるほど。15年という月日の中でリアルに感じてきたものを教えていただく機会があれば、一つ、またラップやヒップ・ホップを聴く耳も変わるような気がします。
いや、でも、15周年って言っててなんなんですけど、俺、音楽自体は23~24年ぐらいやってるんですよ。一個の会社にそれだけいたら、結構偉いと思うんだけど……音楽業界の上の方々ってずっと辞めないし、めちゃくちゃ元気なんですよね(笑)。しかも、下の世代もどんどん増えていくし……大変ですよ!だから、もっと人気者になりたいなって本当に思う(笑)。
──自分が「人気者」になって影響力が増すことで、状況を変えていきたいと。
アーティストの人気者の定義としては100万枚売るとかそういうことじゃなくて、みんなが知ってる歌があるってことかなって思ってます。そもそも、俺がKICKでデビューした頃ですらオリコン100万枚は難しいって言われてたので、今は尚更ですよね。フック・アップとかそういう考え方とはまた違って、もっと自分が面白いと思っている音楽の要素をわかりやすく教えて楽しませるってことがやりたいんです。エデュケーションとエンターテインメントを掛け合わせたエデュテイメントって言葉があるんですけど、そういうことを一人でやるライヴとかでは特にやっていて。そういう積み重ねが結果的にフック・アップにもなればいいな、と思っています。
──でも、それって日本のヒップ・ホップそのものを背負ってるってことですよね。
自ら進んで背負いたいタイプではあるんです。去年は住んでるマンションの理事長とかやってましたしね。誰もやりたがらなかったから(笑)。でも、正直どうせだったら誰かにちゃんと任命してもらいたいなって思いもありますよ。「任せるよ!」ってみんなから言ってもらえればできることも広がると思うんですけど、今は責任ばっかりが俺のところにきてる感じがある。
──KREVAさん以外の方を考えるのもなかなか難しいような気がします。
まぁ、そもそもラップもして、トラックも作って、プロデュースもして、パフォーマンスもするって人がいないからね。責任を背負い切れる力量のある人がいない。はっきり言えば。俺も俺で自分のことやらなきゃいけなかったから、スキルとか知識を分け与えるって時間があまりにもなかった。だから、これからはそういうことができるようにしたいです。
ただのバンド・サウンドではないんですよ。そこは面白い部分なんじゃないかと思います
──6月19日にベスト盤『成長の記録 ~全曲バンドで録り直し~』をリリースされますが、そもそも、ものすごく大きな影響力のある楽曲で、アレンジもほぼ完璧という作品群を、バンド・サウンドという形で今、再録しようと思ったのはなぜなのでしょうか?
ラジオとかで自分の曲が流れてきたときに、今だったらそういう風に歌わないなとかやってないなって思うことが多々あるんですよ。自分が上手くなっているっていうところを最近のライヴでずっとやっているバンドのアレンジでやるっていうのが、一番いい見せ方なんじゃないかなと思って、この形になりました。
──今回の作品は、スタジオ・ライヴ・アルバムを聴いているような生感がありました。
そう。このアレンジはライヴをずっとやっていく中で培ってきたものなので、その印象は当然と言えば当然ですよね。バンド・サウンドでやることの魅力的なところで言えば、ライヴが念頭にあったアレンジだったんで、曲の盛り上がり方やニュアンスの違いっていうのは、自分のラップに全部紐付いているものなんですよ。だけど、逆にそれを作品に封じ込めるっていうのはなかなか難しい作業でしたね。音楽始めてから今に至るまで、生でバンドと一緒に丸々一作品を録ったことってなかったので。
──どのような点に苦労されたんでしょうか?
生バンドの音は扱いづらいです。手間がかかるんですよ。世の中から生のドラムのサウンドが消えていっている理由は、すごくわかります。「鳴り」の部分で足りないところは編集して足してます。サンプラーとか打ち込みだと、自分の好きな音を好きなように組むことができますけど、生で普通にマイクを立ててドラムを録るとバス・ドラムの「ドン」って音を編集しようと思っても、そこにはハイハットやスネアの音も入ってきちゃうんです。他の音が聴こえなくなるような処理をしたり、切ったりしてやっと満足いく音が作れるので、勉強になりました。
──原曲の匂いも残しつつ、より有機的な生々しいアレンジだな、と思いました。
スタジオが広かったので、パートごとに録るとかじゃなくて、バンドのみんなで録音もできましたからね。部屋鳴りもある。あと、全曲バンドで録り直しをしてはいるんですけれど、原曲のファイルを開いて、元の曲の素材を使ったりしています。だから、ただのバンド・サウンドではないんですよ。そこは面白い部分なんじゃないかと思います。
──先日リリースされたシングルの「存在感」とは全く違う質感を持った作品だったので、これは15年でやってきたことの一つの総決算なのかなとも思いました。
いや、そういうつもりはなかったんですけどね。でも、いい形で録れたんで、このサウンドを持って一人でツアーやったりしたら、どういう風に聴こえるんだろうとか実は企んでますね(笑)。バンドの音は使っていても、違うグルーヴが出るはずだから。