「水曜日のカンパネラ・円形劇場公演 Wednesday Campanella Live Show at Amphitheatre」
2018年6月30日(土)@河口湖ステラシアター
関東甲信地方が観測史上最速で梅雨明けした翌日の6月30日(土)、そして7月1日(日)の2日間にわたって、水曜日のカンパネラの今年いちばん大きなワンマンライヴとなる『水曜日のカンパネラ・円形劇場公演』が山梨県・河口湖ステラシアターで開催された。ここでは初日の模様をレポートする。
当日は快晴に恵まれ、青空が顔を覗かせた。オープンの1時間前、遺跡のような佇まいの河口湖ステラシアターの敷地内に早々と多くのお客さんが到着。アートユニット「skydiving magazine」デザインによるこの日のためのグッズなどが並ぶ売り場も大いに賑わう。入場してロビーを抜けると、古代ローマ劇場に似た半円形/すり鉢状の空間が現れ、席に着けば舞台が悠々と見下ろせる形だ。ステージにはサッカーボールをかたどったような金色のオブジェ(コムアイ曰く「バリのお寺をイメージした」そう)が設置。ステージと客席の間にあるオーケストラピットにはなんと水を溜めて池が作られ、錦鯉や金魚がスイスイと泳いでしまっている。やたらとシュールな光景に期待も高まる中、コムアイの影アナ前説を経て、開演時刻は近づく。そして、辺りにスモークが立ち込めてきた。
突如流れ出す「ラー」のイントロでざわめきが起こるとともに、課せられる“コムアイを探せ”ミッション(笑)。いた!“ふたを開けて”と歌いつつ、客席中段の東側(ステージで言うと下手)から現れたコムアイ。こんな感じでいつの間にやらライヴは始まっている。そのまま観客の近くをまずは大胆に練り歩いていくのだけれど、よく見ると場内のあちこちに照明チームがスタンバイ!そう、まるでスナイパーのように潜んでいて、楽しく踊りながらガッツリ走りながら光をアナログで送ったり、特殊フレームを振り回して効果的に当てたり、反射をうまく使ったりと、臨場感ある演出で忠実に主演をアシストする彼らの動きは、特筆しておきたいほど終始すばらしかった。
続く「小野妹子」でもフットワーク激軽のコムアイは、来てくれた人ひとりひとりを歓迎するかの如く客席を歌いめぐる。最後方を駆け抜け、ついには普通なら演者が使わないであろう天井裏の足場へと登ってしまう。“パンにはやっぱり遣隋使”なんて歌詞もさることながら、観客が一様に彼女を見上げる画もスーパー不可思議だ。あっ、音響ブース付近にケンモチヒデフミとDir.Fの姿を確認!そんなことを考えているうちに“厚岸、厚岸、厚岸、厚岸、アッケシケシケシケシ……”と「シャクシャイン」がクールなライヴアレンジで滑り込んでくる。いやー、ぜんぜんステージに降りてこないのに盛り上がっていて面白い。結局は3曲を歌い歩き、オーディエンスの筋肉をうまくほぐして、「一休さん」でついに舞台へ辿り着いたコムアイ。とんちを利かせたラップを繰り出しつつ、“虎虎虎”のあたりからはワイルドなダンスも見せてくれるのだった。
ステージ中央であぐらをかきながら、「こんばんは、水曜日のカンパネラと言います。よろしくお願いしまーす!いろんなお客さんが来てて、いい感じですねえ」とリラックスした様子であいさつするコムアイ。池の錦鯉にも触れ、仕込みで現地に来てから「ここに水入れられるかもよ!?」みたいなノリで急遽作ったことを明かす。「今日はいっぱい美しい景色を用意してます。普段だと自分がどういう人間か自信がないですけど、この時間くらいは愛をたっぷり届けますんで楽しんでいってください」。
去年3月の日本武道館ワンマンが終わったあと、1stアルバム『クロールと逆上がり』の曲を聴いていたところ、いい感触があったというコムアイは「忘我してるような音楽ができたらと思うんで、ひさびさに引っぱり出してやってみます」と話し、スタンドマイクで「マチルダ」「ゴッホ」を披露。魔法陣のような光の柱に囲まれて歌う演出の中、ひんやりした声とミニマルビートも相まって、脳内はスーッと清らかになる。
代表曲「桃太郎」のコスモを感じるハウスミックス、獰猛かつ妖しいコムアイのきびダンスでいよいよ没入。雷雲を彷彿とさせる音像の「ウランちゃん」が投下されれば、音の籠り具合も抜け具合も面白いステラシアター独特の反響により浸れる。この環境でバキバキの重低音トラックをやるアーティストもなかなかいないだろうし、こういうアプローチが“ガラパゴス”っぽいのかもしれない。先に述べた照明チームの丹精込めた仕事ぶり、総天然色の神歌「ユタ」でも漂っていた野性的なムード、しばしば大きく伸びをするコムアイの仕草にしてもそう。メディアアートみたいなサイバーさとは一線を画す、きっぱりと背を向けたパフォーマンスだったと思う。