安藤裕子、デビュー15周年を迎える2018年。新たな旅の始まりを予感させた、「Premium Live 2017-2018〜ゆく年くる年」

ライブレポート | 2018.02.05 13:00

安藤裕子

安藤裕子 Premium Live 2017-2018 〜ゆく年くる年〜
1月8日(月祝) なかのZERO 大ホール
Report/永堀アツオ
Photo/Aki Ishii

今年の7月にデビュー15周年のアニバーサリーを迎えるシンガーソングライターの安藤裕子が、18(月祝)に、なかのZERO 大ホールにて「安藤裕子 Premium Live 2017-2018〜ゆく年くる年〜」を開催した。MCでは、15周年記念ライブ「〜長くなるでしょうからお夕飯はお早めに〜」を526()に昭和女子大学人見記念講堂で開催することを発表。「5月にまた会いましょう」と語った彼女にとって、この日はどんな位置付けのライブだったのだろうか。

セットリストを見てもらえれば、彼女の初期の代表曲が少ないということに気づくだろう。2009年にリリースされたベストアルバム『BEST’03’09』に収録されていた曲は17曲中3曲のみ。’10年以降の楽曲が全体の7割を占めていた。また、彼女のシンガーとしての才能を見出した堤幸彦監督の映画『2LDK』のエンディングテーマ「隣人に光が差すとき」や映画『自虐の詩』の主題歌「海原の月」、映画『人形霊』のエンディングテーマ「Lost child,」に加え、デビュー当時からライブのラストナンバーとしておなじみの「聖者の行進」も歌っていない。ちなみに、これらは半年前の201763日に昭和女子大学人見記念講堂で開催された「Premium Live 2017〜夜明け前〜」では演奏されている。ともに全17曲で構成されたライブであったが、夏と冬、どちらのPremium Live でも演奏されたのが、自主制作CDとしてリリースした「雨とぱんつ」のみであった。バンド編成も違っており、夏はストリングス、冬は「雨とぱんつ」のレコーディングにも参加したホーンをフィーチャー。ライブ前の本人の言葉を借りるとするならば、前者は「弦の重厚感のあるバラード」が中心で、後者は「菅が入った明るくて軽やかなポップス」が多めということになる。この両者を掛け合わせることで、安藤裕子が追求してきた都市型ミュージックの輪郭がはっきりと浮かび上がるわけだが、その全貌——15周年の集大成は、5月のお楽しみというところだろう。

安藤裕子

ストリングスとホーン。楽曲の世界観を彩るサウンドの違いは、歌詞の面にも現れている(制作の順番は逆だが)。夏のライブは、デビュー前の他者に対する嫉妬や妬みを歌った「隣人に光が差すとき」から、それでも前に進んで行こうとする「聖者の行進」で本編を締めくくった。この2曲は1stアルバム『Middle Tempo Magic』のエンディングとエンドロールのような曲で、デビュー10周年である201311月の渋谷公会堂の本編ラストもこの2曲だった。夏のライブのMCで「初心に返って」や「自分に立ち返らなければと思い」と語っていたように、なぜ私は歌うのか?という本質的な部分を自問自答する、内省的な“私”の曲が多かったように思う。

一方、冬のライブでは、“あなた”と“私”、もしくは“君”と“僕”の物語が歌われていた。前者が私小説ならば、後者はラブストーリーと言っていいだろう。ラブストーリーと言っても、彼女が主人公になるわけではなく、ストーリーテラーとして読み聞かせをするような立ち振る舞いをしていたように思う。全体を通して、失恋や離婚、死別、大切な何かを失った友達を歌の物語で慰め、励まし、癒すかのような態度を感じた。目を泣きはらし、疲れて眠った友人の側で絵本や童話を読み聞かせてくれているかのようなステージだったのだ。「森のくまさん」「人魚姫」「忘れものの森」「鬼」というタイトルだけを見ても、寓話性のある歌詞であることが伝わるかと思う。

この日、目の前で繰り広げられていたのは、夜のサーカス団による音楽劇のようでもあった。オルゴールの音色に合わせて、天井から青く光る16個の丸い電球が降りてきた(15周年とかかってるのかもしれない)。ステージ中央にあるテントの中にいる安藤裕子が両手を広げて挨拶をしているのがわかる。テナーサックスとアルトホルン、女性コーラスによる合奏に導かれるように彼女が歌い出した途端に、青い光は白い光へと変化し、さらに眩い光がステージ上から放射された。1曲目の「Sleep Tight Mr.Hollow」は、“あなた”を忘れるための眠りの中へと誘う、子守唄。この曲によって、観客は自分たちが白雪姫のように眠り、夢の世界に迷い込んだことを知らされた。

安藤裕子

テントの中から満面の笑顔をたたえて、スキップしながら出てきた彼女は、森の妖精のような、中華の道化師のような、不思議な格好をしていた。続く、「森のくまさん」は冬眠し忘れた野生のクマが食べ物を探して暗い森をさまよう寓話。悪夢のようなお話だが、絶望に似た心の凍えを抱えながらも、それでも真っ直ぐに前を見据えて、手を伸ばす姿勢が力強く表現されていた。そして、手と手を取り合って歩いていた二人がいつの間にか一人になってしまっている「のうぜんかつら」、雨と“あなた”の思い出が強烈に結びついている「雨唄」と別れの曲が続くが、前者はカチャーシーが飛び出るほどのビートがあり、後者はジャズサンバにアレンジされており、悲壮感はない。

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「私が菅を入れて一番やりたかった曲です」と語った「あなたと私にできる事」(オリジナルではスカパラホーンズが参加)は、結婚する幼馴染みに送ったウエディングソングだ。<いつも二人でいようね>という誓いの歌。堀込泰行が提供した「夢告げで人」はチークタイムのようなロマンチックな味付けがされたジャズバラードとなっており、あなたと私、二人の恋の行く末がシャボンに照らし出され、キラキラと輝いていた。ここからいつかの甘く寂しい恋を思い出し、振り切っていく過程が歌われていたように思う。

安藤裕子

「大人の女の人の黄昏ちゃった気持ちを描いた曲なんですよ。そんな日々を辛がってちゃいけないと思って。今日は闘う女バージョンということで聞いてください」と解説した「人魚姫」は、泡となって消えてしまう人魚姫をモチーフにしながらも、ホーンとバスドラに背中を押され、今日よりも明日が少しでもいい日でありますようにとパワフルに歌い上げた。ピアノとヴォーカルのみで歌った小品「星とワルツ」も眠りを照らす子守唄。安藤は「会いたいなと思っているけど会えない人に贈る曲。ちょっと疲れてる人に」と説明したが、過去の秘密の手紙(思い出)を心にしまい、新しい道を歩く決意を促す曲に聞こえた。そして、「忘れものの森」でゆっくりと時間をかけて昔の傷を癒し、スペーシーなサウンドの新曲「泡の起源」で、二人の時間を閉じ込めた泡/シャボンは宇宙へと旅立ち、夜空を照らす星へとなっていく。宇宙とは未開の地の暗喩であり、「New World」はまだ見ぬ“君”と“僕”の二人で作る新しい世界のことだ。ここで彼女は新曲についてこう語った。

「ああ見えて、『泡の起源』は恋の歌なんです。分子的な思いの残像というか、思いって残るじゃないですか。だけど、現実的にも恋は壊れたり……まだちょっと説明できる感じじゃないですね。『New World』も恋の歌で。私、恋の歌があんまり上手じゃないんですよね。リアリティがないんですかね。次に歌う曲は割とリアリティがある気がするんで」

安藤裕子

恋の歌だということだけでもわかれば十分だろう。この言葉の後に歌った「愛の季節」は、ため息交じりに「会いたいな。会いたいな。会いたいな。」と繰り返しながら、愛について真っ直ぐに向き合い、しっかりと地に足をつけて歌い上げた。失恋にしろ、大切な人やものとの永遠の別れにしても、自分自身がその問題を受け入れて、乗り越えていったことがわかる。そして、いつものように歌詞を変えずに、足踏みしながら、はっきりと「愛してます」と4回続けた「世界を変えるつもりはない」を経て、本編のラストナンバー「鬼」で、静かに新しい世界が始まったところで大団円を迎えた。ステージ下に設置されたミラーボールの光とバンドによる音がぐるぐると回る空間の中で安藤裕子はフィギュアスケートのような華麗なステップを踏みながら自由自在に舞い、「Happy New Year!!」と叫び、ステージをあとにした。新年のあいさつではあるが、安藤裕子というシンガーソングライターの新しい時代も幕を開けた思いがした。

安藤裕子

アンコールに登場した彼女は、グッズ紹介に合わせて「今回、裏テーマが人魚姫だったんです。どこかで自分を奮い立たせなきゃいけないと思って。『人魚姫』は黄昏で終わらせないような前向きな歌にしたくて、今回はマーチング風で前進してくようなイメージで歌わせていただきました」と語った。そして、友達で雨女のSalyuの幸せを願って描いたという「雨とぱんつ」を明るくチャーミングに歌い、深遠なるエコーが響く「アメリカンリバー」では、<ひとりぼっち>という歌い出しながらも、ジャンプやスキップをしながら、<私は大丈夫!>と勇ましい歌声を放ち、そして、<あなたも大丈夫だよ>と観客一人一人に直接語りかけるように歌った。<私は大丈夫。あなたも大丈夫>というフレーズが、この日の童話、寓話、絵本、サーカスのおしまいの言葉だろう。

安藤裕子

最後に「おまけ」として、ユニコーンのカバー「雪が降る街」の歌詞を変えた正月バージョンを披露。<あと何日かで今年も終わる>という歌詞を<あと何日かで休みも終わるけど>に変えて、<どうか元気で/お気をつけて>というメッセージを送り、冬のプレミアライブを締めくくった。

初心に返った夏のプレミアムライブ<夜明け前>は、最後に小沢健二のカバー「僕らが旅に出る理由」を歌った。そこで旅に出る決意をしたのだろう。そして、この冬のプレミアムライブ<ゆく年くる年>で眠りから覚めた彼女は、ドアを開け、新しい世界へと旅立ったのだろうか。まだ旅の準備の途中だろうか。5月に開催される15周年記念ライブは、これまでの壮大な集大成であると同時に、新たな旅の始まりが見れるのではと期待している。

安藤裕子

SET LIST
201818(月・祝)東京・なかのZERO 大ホール

1. Sleep Tight Mr. Hollow
2. 森のくまさん
3. 
のうぜんかつら
4. 
雨唄
5. 
あなたと私にできる事
6. 
夢告げで人
7. 
人魚姫
8. 
星とワルツ
9. 
忘れものの森
10. 
泡の起源(新曲)
11. New World
12. 
愛の季節
13. 
世界を変えるつもりはない
14. 

EC1. 雨とぱんつ
EC2. 
アメリカンリバー
EC3. 
雪が降る町(ユニコーンカバー)

BAND MEMBER
Key.
山本隆二
Gt.
名越由貴夫
Ba.
沖山優司
Dr.
伊藤大地
Sax.
後関好宏
Tp.
川崎 太一朗

安藤裕子 15周年 LIVE ~長くなるでしょうからお夕飯はお早めに~

2018年5月26日(土) 昭和女子大学人見記念講堂
※来場者プレゼント付き

≫ 詳細は15周年 LIVE特設サイトにてご確認ください

関連リンク

RELEASE

ライブ会場&通販&配信限定販売楽曲 『雨とぱんつ』
NOW ON SALE
※ライブ会場&通販&配信限定

音楽を作ることをお休みしていた安藤裕子が約1年半ぶりとなる新曲を制作。
シンガー・Salyuとの思い出エピソードをもとに安藤自らが書き下ろし、2016年秋に開催されたACOUSTIC LIVEで披露された「雨とぱんつ」を新たなアレンジで収録しました。
カップリング「暗雲俄かに立ち込めり」とともに、どこか優しくオーガニックな作品に仕上がった両曲は、やはり安藤裕子ならではのメロディラインを揺蕩わせています。

≪収録曲≫
1.雨とぱんつ
2.暗雲俄かに立ち込めり