小山田壮平「弾き語りツアー2017」ライブレポート。シンプルに音楽の喜びを味わった一夜

ライブレポート | 2017.10.21 15:00

小山田壮平 弾き語りツアー2017
2017年10月13日(金) 渋谷CLUB QUATTRO ゲスト、折坂悠太
TEXT:金子厚武
PHOTO:樋口隆宏

10月13日(金)、小山田壮平が『弾き語りツアー2017』のファイナルを渋谷CLUB QUATTROで開催した。全4公演が行われた今回のツアーでは、前半の福岡と大阪に関取花、後半の名古屋と東京に折坂悠太を迎え、それぞれとのセッションを行うなど、バンドとは違ったラフさもありながら、充実のステージが展開された。

この日トップバッターとして登場したのは折坂悠太。「壮平さん出てくると思ったでしょ?」とおどけて、オーディエンスの雰囲気を和ませるも、一曲目の“鳥”を歌い始めた途端、一瞬にして会場の空気が変わる。その歌唱法は何とも独特なもので、フォーク、ブルース、シャンソン、民謡など、様々なタイプの歌との接点が思い浮かぶ。自らの体を震わせて倍音を生み出す、楽器的な感覚もあるようだ。

折坂悠太

折坂悠太

さらに、演奏はシッティングでのガットギターの弾き語りで、その奏法もただのコード弾きではない独自のもの。しかし、決して「奇抜」という印象ではなく、メロディー自体は美しいし、ときおり熱っぽくシャウトする感じは小山田にも通じる部分で、ライブならではの肉体性もある。小山田はもちろん、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文や坂口恭平など、様々な表現者から支持を受ける理由が、その歌を聴けば一発で伝わるはずだ。

「壮平さんと出会うきっかけになった曲」という“角部屋”や、軽快な“つむじからつま先”などが演奏され、MCでは浪曲のような調子で小山田とのエピソードを披露し、オーディエンスへの感謝を伝えると、最後に歌われたのは名曲“きゅびずむ”。拍手喝采の中、折坂はステージを後にした。

セットチェンジを経て、小山田がSEの“Girls Just Want To Have Fun”にのって、踊りながらステージに登場。折坂がその歌声で会場の空気を変えるなら、小山田はその存在感だけで会場の空気を変える。それも、決して威圧的なカリスマ然としたものではなく、あくまで親密に。歌詞の一部を〈渋谷の空の下〉と変えて歌われた一曲目“グロリアス軽トラ”は、ホームパーティーの始まりを告げる合図のよう。

“ベンガルドラとウィスキー”、“青い空”など、andymoriの楽曲を軸に、矢継ぎ早に曲を披露して行く中、MCでは小山田のレーベルであるSparkling Recordsの設立パーティーをLIQUIDROOMで開催した際、アンコールで客として来ていた折坂に急遽歌ってもらったことや、上野で2人で飲んでいた際に、テレビ番組の取材を受け、その場で一曲歌ったことなどの「泥酔エピソード」が披露され、2人の仲の良さを伺わせた。

小山田壮平

小山田壮平

曲が書けないときの混乱をユーモラスに表現した“スランプは底なし”に続いて、「高校時代、学校をさぼったら携帯と財布をなくして、両親に迎えに来てもらった」という微笑ましいエピソードから、「家族のことを歌った曲」と“Peace”を披露。そこから深いリヴァーブをかけたサイケ/ダブ風のパートを挟み、「ツアー前半で花ちゃんと歌った曲」と言って、荒井由実の“ひこうき雲”、さらには、ベン・E・キングの“Stand by me”と、続けざまにカバー曲が歌われる。小山田の“Stand by me”はいつ聴いても絶品だ。

オーディエンスの手拍子と共にアカペラで披露された“愛してやまない音楽を”、ALの“さよならジージョ”に続いては、折坂がステージに再登場し、2人のセッションへ。“遠くへ行きたい”で美しいハモりを聴かせると、“ダイバー”では小山田がブルースハープを吹き、折坂もこの日初めてスタンディングでガットギターを演奏して、大盛り上がりの中で本編が終了。“16”から始まったアンコールでも、“兄弟”や“投げKISSをあげるよ”といった人気曲が続けて演奏され、最後は“革命”で全25曲に及ぶ熱演が締め括られた。

とにもかくにも楽しく、自由で、シンプルに音楽の喜びを味わった一夜だったが、小山田と折坂が惹かれ合う理由をぼんやり考えてみると、それは「ノスタルジー」なのではないかと思う。歌を通じてそれぞれの心の中の郷愁が響き合うことで、同じ経験をしていなくても、距離が離れていても、たとえこの世に存在していなくても、確かな繋がりが感じられる。そんな音楽の魔法を持っていることこそが、両者の歌の一番の共通点であり、だからこそ、ライブでは同じ場所に集えることの特別さをより深く噛み締めることができる。大勢の人でにぎわう金曜日の渋谷の街並みをすり抜けながら、そんな風に思った。

 

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DISK GARAGE presents Sparkling COUNT DOWN 2017-2018

12月31日(日) TSUTAYA O-WEST
出演:小山田壮平 / Gateballers / 谷口貴洋 / AL / セカイイチ / 石崎ひゅーい / Predawn / veni vidi vicious / 関取花
12月2日(土) SALE

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