水曜日のカンパネラ 日本武道館公演~八角宇宙~
2017年3月8日(水) 日本武道館
Report:東條祥恵
Photo:Yukitaka Amemiya
これまで観たこともないような、その圧倒的な宇宙が放つ引力にどこまでも引き込まれてしまった。水曜日のカンパネラ初の日本武道館公演。<八角宇宙>と題されたライブは、八角形という独特な形にこだわった武道館の屋根や室内、じつは陰陽五行説に基づいて東西南北に色分けされた座席など、これまであまり誰も気にしなかった、日本武道館がこういう構造になったゆえんに着目。その思想、フォーマットに基づいた数々の演出で、この日本武道館でしか体感できない水曜日のカンパネラを堂々と見せつけた。
舞台は360°全方向を見わたせる真っ白い八角形のセンターステージのみ。その周りを取り囲むように作られたアリーナも8つのスペースにブロック分けされている。開演前から、今日はどこからコムアイが出てくるんだろう?と観客たちがキョロキョロ辺りを見渡している。
客電が落ち「武道館!」と叫びながら、この日のコムアイはアリーナ南方向から金斗雲の白い神輿に乗って登場。脚立を使って雲からおり、軽快にステージに駆け上がってライブは「猪八戒」で幕開け。武道館なのに、舞台をとても間近に感じられる。その喜びをあらわにする観客たち。「シャクシャイン」が始まり、コムアイが呪文のようなラップをしながらステージを縦横無尽に動きだすと、彼女が動いた方角から次々と歓声がわき起こる。「日本武道館へようこそ〜!」と挨拶を伝えたあとは、いつもいろんな方向から見てもらいたくて自ら客席の中に行ってしまう自分にはぴったりだと思ってセンターステージにしたことをファンに伝えた。そして「武道館は’64年のオリンピックの時に建てられたんだけど、また東京でオリンピックがあって、そこで何を表現しようと考えてるのがいまの私たちの気持ちにすごく似てる。だから今日はここで、どういう美しさや楽しさを表現出来るか、私が見たい景色を用意したので。自分が見たいだけなんですけど(微笑)。最後まで楽しんで下さい」と素直な気持ちを話した。
そして、「次は温泉の歌行くよー!」というコムアイの合図から“いい湯だね!”“ふやけるね!”と観客一丸となってのコール&レスポンスもバッチリ決まった「ディアブロ」、ステージがスモークで真っ白になった「雪男イエティ」、コムアイとダンサーが対角線上に対になって踊った「アラジン」、“きっびっだーん!きびきびだーん!”とシンガロングしながら腕で三角を描いていった「桃太郎」といったおなじみのキラーチューンを連発。コムアイがポップアイコンとなって笑顔と歌とダンスを惜しみなく振りまき、観客の体温をぐいぐいあげていった。
「みなさん、スマホとか持ってますか?」と問いかけ、「今日はライブ撮影OKなんで」と伝えると客席はざわめきたち、観客は一斉にごそごそスマホを取り出す。「携帯出したついでに次の曲、ライトをつけて手伝って欲しいの」と伝え、みんながライトを照らすと、武道館に八角形の美しい宇宙空間が生まれる。その中でコムアイはミラーボールを手に「アマノウズメ」、スモークが流れ出す中でメランコリックな「ライト兄弟」をパフォーマンス。
ゆったりとした空気はその後一転。「ツイッギー」〜「ウランちゃん」と体を美しくしならせ、伸ばし、独特のフォームでひたすらフィジカルに踊りまくるこのゾーンで、彼女は武道館の八角宇宙に生命体を生み出す。コムアイを覆うように、上から円柱状のカーテンが降りてきて、始まったのは「バク」。カーテンにプロジェクションされた神秘的な映像の中で、優雅に体を揺らし、神々しいオーラを放ちだしたコムアイがコンテンポラリーダンスを舞い、その影が時折映し出される。ここから宇宙は静かにトランスゾーンへ。しっとりと「ユタ」を歌い始めると、白と黒の衣装に身を包んだ、それぞれ33人のダンサーがステージになだれ込み、マスゲームのようなダンスを繰り広げて、最後に陰陽マークを作って見せた。続いて「ネロ」、そして「ユニコ」をしんみりと歌い、宇宙を包み込んでいったところは、ライブ以外に演劇、モダン舞踊を見ているかのようなパフォーマンスも加わって、観客たちは何かに取り憑かれたようにステージに釘付けになっていった。
水曜日のカンパネラならではのディープな世界観に対して、場内から大きな拍手が送られた後は、ダンサーたちが脱ぎ捨てていった白と黒の衣装の山の上に立って「カメハメハ大王」「ツチノコ」を続けて届けた。「マッチ売りの少女」で松明のようなポイを持ったポイダンサーたちが登場すると、これ以降エレクトリックな演出で客席を魅了。「ナポレオン」が始まると、コムアイの頭上につられていたキネティックライトが形を変えながら動きだす。「ミツコ」が始まると、会場が再び盛り上がりだし、一体感ある“フゥー!“の掛け声が沸き起こる。ダンサーが白い傘を回しながらLEDシューズを光らせ、グラフィックポイを使ってショーアップされたパフォーマンスで観客を驚かせた「坂本龍馬」。
そして、その驚きのハイライトとなった「世阿弥」では、そこにレーザーも加わり、ド派手な演出が続くなか、最後にコムアイがワイヤーにつられて天空へと飛び立ち、このコンサート最大の見せ場を作り上げていったのだ。しかし、こうしてかっこいい見せ場を作った後も、ワイヤーにつられたままの状態で「ど〜も〜!この状態でMCするのって、武道館始まって以来じゃない?」と観客を笑わせ、いきなりほのぼのとしたムードを作り出していったコムアイ。「とにかくお金がかかってるの分かった?(「分かった!」と観客)こんなにみんなが来てくれても赤字なんだ。よかったらグッズ買って下さい(笑)」と呼びかけ、観客を笑わせた。
その間も、ずっと高い場所に宙吊りになりながら回転したり揺れたりして遊んでいた彼女は、南の2階席におなじみの“カレーメシくん”を発見!!「ステージに来る?」と誘った後は「ラー」でカレーメシくんと共演。黄色いライトに照らされ“Your Justice”と掛け声が上がるなか、コムアイがカレーメシくんの頭上に降り立って2人が合体。そのあと、地上にやっと戻ってきて「これで最後だよー!」と彼女が叫んで「一休さん」が始まると、客席は“1、9、3!”の振り付けで大盛り上がり。舞台上と舞台の周りには、この日登場したキャストたちが大集合。フリースタイルで大いに踊って、最後の曲を盛り上げた。
アンコールに呼ばれ、再びステージに出てきたコムアイは「じゃあ1曲だけ。本編にどうしても入らなかった曲を最後にやっていいですか?」といって“お前の”“血ー吸ぅたろかー”の大合唱を呼び込む。ここで、本当は外に献血車を用意しておいて、ライブの後にみんなが献血に向かうというのやりたかっと明かした後「ドラキュラ」へ。その後は、滅多に表舞台には顔を出さない水曜日のカンパネラのトラックメイカー・ケンモチヒデフミと、Dir.Fまでが彼女のいきなりの呼び込みに応えて、舞台上に集結。「この3人で水曜日のカンパネラです」といって、観客を感動させた。感動の後はコムアイの無茶ぶりでDir.F、ケンモチのボーカルで、再び「ドラキュラ」をアクト。オープニングで出てきた神輿の上にケンモチ、下にDir.F、コムアイは自ら志願して雲の後方で揺れる羽衣を揺らす係になってアリーナをぐるっと回った後「今日はありがとうございました。あ!忘れてた。6月にツアーやります!」とサラッと大事なことをサプライズ発表して、場内から姿を消した。
内容がイマイチよく分からないコミカルな歌詞、奇抜なパフォーマンスに自由奔放、気ままに見えるコムアイのステージ演出。だが、今回の武道館はそれらすベてを、深く探っていけば、ちゃんとそこに意味があることを教えてくれた。エンタテインメントの枠だけにはおさまらない水曜日のカンパネラのクリエイション。その世界観の深さに感銘を受けた一夜だった。