ビッケブランカ Slave of Love TOUR 2017
2017年1月20日(金) Shibuya WWW
TEXT:兵庫慎司
PHOTO:星野健太
メジャ・デビュー作品にあたるミニ・アルバム『Slave of Love』のリリース・ツアー、福岡・名古屋・大坂・東京・札幌の全5本の内の4本目、東京・渋谷WWW。チケットは完売、関係者も多数詰めかけ、開演前に運営スタッフが「これから来られる方もいるのでもう少しまんなかに寄っていただけますか」とお客さんに何度も呼びかけるほど、立錐の余地もない状態。
『Slave of Love』のユニフォームになっているボーダーのTシャツ(でもボーダーの具合がそれぞれ少しずつ違う)に身を包んだバンド・メンバーが、ひとりずつ出てきてフロアにあいさつ、最後にビッケブランカが登場、ピアノをバンバン弾きながら『Slave of Love』のオープニング・チューン「ココラムウ」でスタート。
「Alright!」「追うBOY」「SPEECH」「秋の香り」等々の過去の代表曲も織り交ぜつつ、『Slave of Love』の6曲をすべて披露するセットリスト。時にピアノから離れてハンドマイクで動き回りながら、時にマイクスタンドの下半分がないやつ(フレディ・マーキュリーが使っていたのでおなじみのあれ)を振り回しながら、時にはピアノに戻り鍵盤叩く勢い強すぎてケツが浮きそうになりながら、そしてしっとりじっくりと歌い上げながらステージを進めていく。
本編を「ファビュラス」でしめくくり、アンコールで「Wake up sweetheart」を追加した全16曲。曲間のたびにビッケブランカにだけでなくメンバーにも歓声が飛ぶ、そして彼にはもっと飛ぶ、オーディエンス全員大満足の、終始あっつい空気で包まれっぱなしの2時間弱だった。
で。私、この方のライブを観たのは、遅まきながらこれが初めてだったのですが。
だああ! しまったああ! なあんでもっと早い時期からちゃんと追ってなかったかなあ俺はあああ!不覚すぎる!名前くらいは知ってたのに!あとバンドのドラマーが知り合いだったりするのに!(脇山広介。彼がデビューしたバンド、tobaccojuiceを私は大好きで、当時インタビューしたりしていたのでした)。
と、激しく後悔しながら帰途についたぐらい、もう、本当にすばらしくよかった。で、帰宅後ウェブで過去のインタビューを探して読み漁ったところ、彼にとってもっとも大きな出会いであり重要な影響を与えたという、以前所属していた事務所のスタッフが、僕もけっこう昔から面識のある人だったりして、また「だあああ!」ってなったりもしたのだが、それはともかく。
ライブでも音源と変わりなく、いやよりいっそうのど迫力で響く、地声とファルセットを自在に行き来しすぎてもはやどっちがどっちだかわからないみたいなことになっているボーカル。ビリー・ジョエル、スティーヴィー・ワンダー、MIKA、エルトン・ジョン、ベン・フォールズ、フレディ・マーキュリーなどの影響が聴き手にはっきり見えるよう提示しながら、パクリとか剽窃とはあきらかに次元の違うレベルで形にしていく曲そのもの、アレンジそのもの。「これクイーンの『キラー・クイーン』じゃん」「バグルスの『ラジオ・スターの悲劇』じゃん、あっはっは」といちいちうれしくなる、その使い方と解釈のしかたと表現のしかたがいちいちツボすぎて、センスよすぎて、そしてメロディが素敵すぎて。
あと、ライブ・パフォーマーとして、つまり客前で何かをやる人としても、めったやたらと優れている、この人。しゃべり、異様にうまくて笑わせるし、頭いいし計算も見えるけどまったくあざとさを感じさせないし、つまり真摯さが常に感じられるし。
たとえば中盤で「曲はほぼ完成まで家で作る、だから家で鍵盤弾きながら歌いまくってて近所にすごい迷惑かけていて、1年間がまんし続けてきた隣の部屋の人が遂にブチキレて怒鳴りこんできた」という内容のMCをしたのだが、これが長い。延々続く。でもまったくだれないのだ、おもしろいから。
メンバー紹介もひとりにひとネタずつ用意していて、いちいち笑いを取る。特に大学の後輩だというベース:大澤DD拓海との掛け合いはほとんど芸人さんレベルの完成度だった。
で、さんざん笑わせておいて、アンコールのMCでは「ビッケブランカの曲に救われたとか言われるとうれしいけど、僕は救っているつもりはない。聴いた人が自分の力で立ち直っているのであって、曲はそのほんの小さなきっかけになっただけ」というシリアスな話をビシッと決めたりもする。
まいりました、何かもう。魅力の塊。で、歌心の塊、本当に。このツアー、全会場ソールドアウトしているところをみると、その魅力の塊っぷりがすでに世間に届き始めている、ということだと思うが、それ、きっとこの先もっともっと加速していくと思う。次のライブのキャパどれくらいとか知らないが、まだの方は早く観ておくことを心からおすすめします。充分遅かった私が言うのもナンですが。
セットリスト
01. ココラムウ
02. Alright!
03. 追うBOY
04. Step in control
05. Bad Boy Love
06. SPEECH
07. Golden
08. 秋の香り
09. Your Days
10. Echo
11. Natural Woman
12. タイトル未定
13. アシカダンス
14. Slave of Love
15. ファビュラス
Encore
Wake up sweetheart