KAMITSUBAKI WARS 2024 神椿幕張戦線 IN 幕張メッセイベントホール
[DAY-2]花譜4th ONE-MAN LIVE「怪歌(再)」
2024年11月3日(日)幕張メッセ 幕張イベントホール
今公演も初日のV.W.P同様に、「代々木決戦」時のセットリストや演出とリンクさせながら、再演にとどまらない内容になった。KAMITSUBAKI STUDIOによるオーケストラプロジェクト・KAMITSUBAKI PHILHARMONIC ORCHESTRA(カミフィル)の参加や、コラボ楽曲シリーズ「組曲」の最新版やバーチャルシンガーソングライター廻花の新曲披露など、この10ヶ月弱で花譜に訪れた変化がわかりやすく提示され、表現へと昇華された3時間。6年の活動を経て、成熟へと足を踏み入れた彼女の姿が幕張で花開いた。
オープニング映像とポエトリーリーディング、バンドメンバーとカミフィルが織りなすインタールードを経て登場した花譜は、代々木同様に「青春の温度」で晴れやかにこの日の幕を開ける。「未観測」で演奏とシンクロした躍動感のある歌声を響かせた後は、「あの頃の誰にも変えられない気持ちや、新しい世界に飛び込んだときの高揚を思い出させてくれる曲です」と告げ、2018年に公開された初のオリジナル楽曲「糸」を歌う。6年前よりもソフトでありながら強固で、憂いと優美さを持ち合わせた豊かな歌声に、彼女の深化が垣間見えた。
「さらにパワーアップした「怪歌」をお届けします」と意気込みをあらわにすると、静と動を併せ持つ「夜が降り止む前に」で曲の世界に会場を引き込み、「海に化ける」「人を気取る」のメドレーでは爽やかな疾走感で感情を解放する。「邂逅」も身体に湧き上がる思いをすべて込めるように歌を歌う姿が眩しい。その輝きは、曲に宿る思いを一挙に背負うボーカリストとしての覚悟だったのかもしれない。彼女はいつも楽曲への愛情を欠かさないからこそ、聴き手の胸を打つ歌を歌えるのだ。
“雷鳥(改)”に衣装チェンジをした花譜は、岸田繁との共同制作楽曲「愛のまま」で『組曲』のセクションをスタートさせると、ゲストとのコラボレーションステージを展開する。アコギを抱えて現れた崎山蒼志とともに歌唱した「抱きしめて」は20代前半という同世代のふたりならではの感傷的な爽やかさがきらめいた。ツミキとは「チューイン・ディスコ」「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」の2曲をメドレーで届け、花譜はダンスを取り入れたパフォーマンスを、ツミキはギターボーカルとドラムボーカルのふたつのパフォーマンスを見せ、華やかなステージングでも魅了した。星街すいせいとは11月27日にリリースされる組曲第4弾「一世風靡」を初披露する。バーチャルシンガーの最前線で活躍する者同士の共演、それぞれの個性が引き立つツインボーカル、真部脩一が作詞作曲を担当した中毒性のあるポップソング、ふたりのステートメントをしたためた歌詞に、会場も大きく沸いた。
PUO(PIEDPIPER UNDERGROUND ORCHESTRA)×VJ×ダンサーチーム・elevenplayによる「KAF DISCOTHEQUE」を挟み、“犀鳥”に衣装チェンジをした花譜は音楽的同位体・可不とともに「不埒な喝采」「フォニイ」と、可不ボーカル曲のカバーを届ける。花譜は可不よりも少し背が高く、ステージでの立ち振る舞いもダイナミックなため、彼女が可不をリードしているようにも見えた。姉妹のようなふたりが微笑ましいと同時に、あらためて花譜がこの6年で着々と成長していることがうかがえるシーンだった。
続いてバーチャルヒューマンスタイルに変身した花譜は、Moe Shopとのステージを繰り広げる。リアルとバーチャルを往来する花譜と、フレンチハウスと日本のポップス/クラブミュージックを融合させるMoe Shop。彼の「Notice」のカバーで会場をあたためると、2025年1月にリリース予定の組曲2第5弾「My Life」を初披露する。異なるフィールドをクロスオーバーさせる者同士のコラボレーションはディープかつ痛快で、サウンドだけでなく視覚的にも非常に刺激的だった。
花譜は扇鳩に衣装チェンジをし、2024年12月にリリース予定の4thフルアルバム『寓話』収録曲を披露する。既にライブのキラーチューンと化した「ゲシュタルト」と「アポカリプスより」ではリアルパフォーマンスのVALISがダンサーとして参加し、観客もコールなどで大いに熱狂をあらわにした。その後も優美さと凛々しさを兼ね備えた「何者」、切実なボーカルが胸を打つ「カルペ・ディエム」と初披露の新曲で駆け抜けると、大森靖子が作詞作曲を務めた「代替嬉々」で花譜としてのステージを締めくくる。楽曲そのものに宿った凄まじいパワーをしっかりと抱きしめながら、どんな感情も抱えて突き進んでいく歌声は、とても勇敢だった。
そして「怪歌(再)」の物語は最終章へ。花譜の姿から解き放たれた彼女は、「代々木決戦」で初めて披露したバーチャルシンガーソングライター・廻花として2回目のステージに立つ。「ターミナル」「スタンドバイミー」と前回もパフォーマンスした楽曲にはダンサーが登場し、歌と演奏を彩る。廻花も10ヶ月前と比較すると歌声や佇まいに安定感が生まれ、より純粋に音楽を届けることに集中できていることがうかがえた。
廻花としての自分を受け入れてくれたファンへ感謝を告げると、花譜と廻花で名義やスタイルを分けることに関して「自分をふたつに分裂させたいわけじゃない」「ふたつの居場所とともに自分という存在を捉えたくて頑張っている感覚がある」と語る。それ以降も考えがまとまらないながらに彼女は自身の気持ちを一つひとつ言葉にした。そのほとんどが自分の歌を受け止めてくれたリスナーへの感謝だった。自分の歌を愛してくれる、必要としてくれる人の存在が、彼女の表現者としての蕾を開かせたのかもしれない。
上京して一人暮らしを始めて少し経った頃に「ひとりの夜は寂しいばかりではない」と思いたくて作ったという「テディベア」は、アコースティックギターを肩に掛けてギターボーカルスタイルで歌唱する。彼女の奏でるあたたかいアルペジオや歌声は、切なさを抱えながらも明日を信じているようなムードが伝わってきた。再びハンドマイクに戻り「転校生」を届けた後は、「新しい曲をやります!」と告げ「東京、ぼくらは大丈夫かな」を披露する。実体のない何かに急かされるような、立ち止まることが許されない“東京”という場に身を置くことで、不安や戸惑いに蓋をしたり、異常だと思っていたことに対して慣れてきている自分がいることに気づいた彼女が「このままで大丈夫かな?」と思ったことを忘れたくなくて曲にしたためたという。その言葉の通り、焦燥感、不安と自信、何にも染まっていない無垢さなどがほとばしるアップテンポの楽曲は、若さをそのまま音楽に昇華したような生々しさと爽やかさに溢れていた。
4曲を歌い終え、彼女は再び自身の気持ちを一つひとつ言葉にする。リスナーとともに進んでこれたからこそ自身に変化があり、廻花として活動を始めて新しい自分に生まれ変わったように感じないのは、自分が花譜とともに育ってきたからであると話す彼女は「廻花はずっと前から花譜の中に息づいた自分です。そういう意味では廻花も花譜の一部と言えるかもしれません」と続けた。
そして廻花での曲作りについて「喜怒哀楽に当てはまらない、しゃべって言葉にしたらはっきりしすぎて不安になるくらい、誰かにぶつけられるほど強くもない気持ちを放り投げるように書いていることが今は多い」と明かし、「矛盾だらけでもそれをつなぎとめる自分がいるから、“自分らしさ”や“本当”に収まろうとしなくていいんじゃないかなって。揺れ動きながらどんどん広がっていくだけなんじゃないかなと思います」「何が本当で、何が本当じゃなくて、何がわたしで、何がわたしじゃないかわからないほどすべてが強く結びついている」と穏やかな口調で告げた。活動を開始してから、一つひとつの物事と真摯に向き合ってきた彼女だからこそ導き出した思考だろう。
「2024年はたくさん挑戦させてもらった1年だった」「未熟さに打ちひしがれることもありますが、これから先に待っていることが楽しみで仕方がないという気持ちでいっぱいです」と今年の充実と未来への意欲を語ると、「皆さんとこれからも最高の景色を観に行きたいです。どこにいても、どんなかたちになっても、わたしは歌っていたい。いつも歌を居場所にしてくれるあなたがいるから、わたしは何度だって前を向きます」「みんなのことを愛しています」と告げ、最後に「かいか」を歌いこの日の幕を閉じた。
終演後には花譜と廻花のリリース情報や、2025年3月にこの公演を含む「KAMITSUBAKI WARS 2024 神椿幕張戦線 IN MAKUHARI MESSE EVENT HALL」2公演がBlu-rayリリースされることなどがアナウンスされた。花譜と廻花というひとりのアーティストの成長だけでなく、V.W.Pの面々が出演する『神椿市建設中。 』のTVアニメが2025年に放送されるなど、レーベルの新たなクリエイティブも着々と実現に向けて動いている。チーム全体が様々なフィールドを往来しながら、高い志のもと表現の領域を広げ続けるKAMITSUBAKI STUDIO。各クリエイターの音楽への強い思いがあったからこそ成功を収めることができたKAMITSUBAKI WARS 2024が今後チームにどのように作用するのか、期待は高まるばかりだ。
SET LIST
花譜
01.青春の温度
02.未観測
03.糸
04.夜が降り止む前に
05.海に化ける〜人を気取る
06.邂逅
07.愛のまま
08.抱きしめて (花譜 × 崎山蒼志)
09.チューイン・ディスコ〜
トウキョウ・シャンディ・ランデヴ
(花譜 × ツミキ × elevenplay)
10.一世風靡 (花譜 × 星街すいせい)
11.KAF DISCOTHEQUE (elevenplay)
12.不埒な喝采 〜 フォニイ (花譜 × 可不)
13.Notice (VH花譜 × Moe Shop)
14.My Life (VH花譜 × Moe Shop)
15.ゲシュタルト (花譜 × VALIS)
16.アポカリプスより (花譜 × VALIS)
17.何者
18.カルぺ・ディエム(旧:背景)
19.代替嬉々
廻花
01.ターミナル
02.スタンドバイミー
03.テディベア
04.転校生
05.東京、ぼくらは大丈夫かな
06.かいか