新しい学校のリーダーズ武道館公演「青春襲来」
2024年1月9日(火)日本武道館
「青春日本代表」。結成から自称してきたその異名に相応しい、美学と熱量がせめぎ合うライブだった。2023年に「オトナブルー」が注目を集め、流行語大賞のトップ10入り、『第74回NHK紅白歌合戦』に初出場など、この1年で大躍進を遂げた新しい学校のリーダーズ。グループ史上初の日本武道館公演で、彼女たちが選んだのは観客に囲まれた360度ステージだった。“個性や自由ではみ出していく”を信条に掲げる彼女たちがどんなステージを見せるのか、12000人の観客たちは開演前から目を輝かせる。
アリーナ中央に八角形のメインステージが組まれ、その上には箱をかたどった4面の巨大LEDモニターが設置される。さらにメインステージから東西南北の四方に花道が伸び、その先に配備されたサブステージは1階席に近い高さだった。この設計からも観客すみずみまでアプローチしていくことが予想されたが、彼女たちは序盤からそれを優に超えたステージを見せる。
暗転すると、けたたましいサイレンの音、スモーク、レーザー、火の玉が入り乱れるなか「青春襲来」の警報が会場を席巻する。箱型のLEDモニターがおもむろに上昇すると、そこには『紅白歌合戦』時同様の真っ赤なセーラー服を纏ったメンバー4人の姿があった。1曲目は最新シングル曲「Tokyo Calling」。クールさとユーモアを併せ持つ4人の気魄溢れるパフォーマンス、力強い歌声に目を見張る。ステージの床面は花道も含めすべてモニターになっており、箱型LEDモニターと連動したVJ演出が施された。さらにレーザーや照明が会場の至るところを照らし、2階席頂上付近でなければ見られない視覚効果が多数あったことは想像に難くない。
その後も「Giri Giri」、この日初披露の新曲「Toryanse」と畳みかける。普段どおりの堂々とした立ち回りだが、この大舞台で360度すべての観客にアプローチ可能なフォーメーションを滞りなく実行できるのは、これまで4人で育んできた経験とこのステージにかける熱い思いの賜物だ。さらに彼女たちの考える振り付けも、動きの一つひとつが優雅かつユニークなため、どの角度から見ても芸術性が高い。「Pineapple Kryptonite(Yohji Igarashi Remix)」の直前では4人それぞれがサブステージで長ランを羽織り、センターステージに戻った後にバイクを象ると、曲中では応援団の動きを取り入れた振り付けで全方位にアピールする。360度ステージで観客が抱きがちな「正面がほとんど見えず歯がゆい思いをするのではないか」という懸念を、序盤4曲でものの見事に吹き飛ばした。
客席を360度見渡す4人は、その光景に目を輝かせる。MIZYUが「由緒正しいこの舞台に、この4人だけで立てる日を待ち望んできました。結成9年目、今立っています」と告げると、観客の歓声と拍手が彼女たちをあたたかく包み込んだ。「試験前夜」では箱型のLEDモニターが下降してMIZYU、KANON、RINを囲い、拡声器を持ったSUZUKAがその周りを歩きながら歌う。映像越しに見える箱の中の3人と、その外にいるSUZUKAがせめぎ合うように踊る様子は、非常にスリリングだ。
再びLEDモニターが上昇して「席替ガットゥーゾ」を披露した後は、トレードマークのセーラー服姿で再登場。ノスタルジックなメロディの「透明ボーイ」では、歌詞に描かれた心の揺らぎをコレオグラフィで巧みに表現する。彼女たちは持ちうる表現方法すべてで楽曲の成分を搾り出すだけ絞り出し、さらにそれをもって新しい世界を描くことに長けたアーティストだ。SUZUKAとRINの間奏での息をのむアクションから、互いの名を呼び合って抱擁を交わすラストにつながった瞬間は、1本の物語を実際に体験したような臨場感だった。
その後はSUZUKAの台詞から「恋ゲバ」「毒花」と情念渦巻く歌謡風の楽曲を畳みかけ、鬼気迫る歌と身のこなしで引き込む。シリアスなのにシリアスになりきらない、絶妙ないびつさが楽曲の切なさをより際立たせた。ミドルナンバーの「知りたい」は歌詞に連動した映像を用い、シュールなムードに徹する。彼女たちの持ち味のひとつである、心地好い違和感が美しく花開くセクションだった。
2023年に初めて自分たちを知ったという観客が多いことを受けて東西南北それぞれの観客に異なるパターンで自己紹介をすると、ウェルカムな環境でライブができることへの感動と、「まだ慣れていません!」と率直な気持ちを吐露する。協力しながら様々な困難を乗り越え、少しずつシンパを増やして活動範囲を広げてきた彼女たちである。感極まった様子の口調と強い眼差しから、9年間の思いがひしと伝わってくる。
観客とのコールアンドレスポンスや、RINのビートメイクに乗せた青春ラップで場を盛り上げ、「Freaks」や「NAINAINAI」などのリミックスメドレーで4人のダンスの表現力の高さをあらためて印象付けると、Beastie Boysの「Intergalactic」カバーでは、パロディMV同様に工事現場のアイテムを装備して登場する。誘導棒を持って交通整理を取り入れた振り付けもキャッチーで、グループコンセプトの“学校”然り、モチーフを面白く料理するスキルの高さに舌を巻いた。
再びいつもの衣装でステージに舞い戻った4人は、「最終人類」などで観客にクラップを煽るなどエネルギッシュに会場を巻き込み、「最高な青春で締めましょう!」と呼びかけると本編を「青春を切り裂く波動」で締めくくる。SUZUKAが天井にある日本国旗目掛けて上履きを高く蹴り上げたり、絶叫混じりのボーカルを響かせるなどフルパワーのパフォーマンスを見せ、「青春襲来」を実現させる熱演に会場が大きく沸き立った。
アンコールではライブTシャツ姿で登場し「オトナブルー」と「ケセラセラ」を披露すると、新ファンクラブ「新しい学校の青春部」の設立と全国5ヶ所のZeppを回るファンクラブツアーを発表する。「みんなにいちばん気持ちよく恩返しできるのはライブ。新しい学校のリーダーズ進化してる!というわくわくを共有することが恩返しだと本気で思うんです」と、ライブハウスでの再会を切望した。
SUZUKAは昨年初の海外ツアーを回り日本のカルチャーが海外から愛されていると実感したことに触れると「レぺゼンジャパンとしてみんなで盛り上げていきませんか!?」と喉を嗄らしながら訴える。さらに感情が高ぶった彼女は「自分らしく生きるのは簡単じゃない」と話し出した。注目を集めたことは喜ばしいことだけではなく、そんな4人の励みになったのがメンバーの存在だった。「ひとりで答えを出そうとせずに、4人で答えを出してきた。それが本当に美しくて、本当に心の支えになった。みんなありがとう」とSUZUKAが腕を広げて叫ぶと、RIN、KANON、MIZYUがその中に飛び込む。ステージで抱き合う4人の目には涙が溢れていた。
「みんなも迷いそうになったら、リーダーズのライブ、動画、何でもいいからわたしたちに頼ってください」とSUZUKAが情熱的に呼びかけると、「歌うたびにこの曲が大切になっていきます。この気持ちをみんなと噛み締めたいです。日本、世界、そしてここに集まっているみんな、新しい学校のリーダーズへリスペクトを込めて!」と続け、最後に感情を解放するように「迷えば尊し」を全身全霊で届けた。その様子は青くさくて粗削りで、手なずけられないほどの情熱がほとばしっていた。
青春とは「自分を信じて無我夢中で駆け抜ける信念」「老若男女問わず失うことのない情熱」「躊躇することなくチャレンジする勇気」「つまり今という瞬間を全力で楽しむこと」と彼女たちは言っていた。初の日本武道館公演で見せた熱演はそれを体現するものであると同時に、もうひとつ、青春とは伸び盛りであると教えてもらった気がした。あれだけの完成度を誇りながらも、一切手を抜かずにもっと上を目指していく4人の姿が、とても美しかったのだ。彼女たちはこの9年間、自分たちの発してきた言葉に突き動かされながら成長し続けてきた。この日言葉にしていた多数の野心も、遠くない未来で実現させるだろう。4人の伸びしろは、雲ひとつない青空のように眩しかった。
SET LIST
01. Tokyo Calling
02. Giri Giri
03. Toryanse
04. Pineapple Kryptonite(Yohji Igarashi Remix)
05. 試験前夜
06. 席替ガットゥーゾ
07. 透明ボーイ
08. 恋ゲバ
09. 毒花
10. 知りたい
11. Freaks
12. NAINAINAI
13. Fantastico
14. Pineapple Kryptonite
15. Intergalactic
16. 最終人類
17. じゃないんだよ
18. BORN TO BE FREE!!!!
19. 青春を切り裂く波動
ENCORE
01. オトナブルー
02. ケセラセラ
03. 迷えば尊し