有安杏果 弾き語りツアー
"A Little Harmony Live 〜Summer〜”
2023年7月30日(日) ヒューリックホール東京(有楽町)
有安杏果の弾き語りツアー「A Little Harmony Live 〜Summer〜」の最終公演が7月30日(日)ヒューリックホール東京(有楽町)にて開催された。
コロナ禍に突入した2021年から自身の歌とギター、ピアノ演奏だけで構成する全編弾き語りのアコースティックライブをスタートさせ、昨年は毎年恒例の春ツアー「サクライブ」をピアノの宮崎裕介とのデュオ編成で行った。2023年に入り、アコースティックライブの継続を決めた彼女は「A Little Harmony Live」(通称:リルハー)という新たなツアータイトルを冠し、バンドセットによるライブとは異なる新シリーズとして明示。東名阪の3都市を巡る7月開催の本ツアーは、その第1弾であり、<Summer>というサブタイトルが付けられていた。
開演時間になると、スタンドマイクとアコースティックギター、そして、キーボードが置かれたステージに有安が姿を現し、総立ちで待っていた観客に向かって深々とお辞儀をした。続いて、アコギを抱えてかき鳴らすと、早くもクラップを鳴らし始めたフロアをじっくりと見渡しつつ、グループ在籍時の2017年10月にリリースした1stソロアルバム『ココロノオト』の収録曲「Another story」でライブをスタートさせた。<本当は叫びたい/そこから始まるanother story>というライブのオープニングにふさわしいフレーズを響かせた彼女は、「東京、一緒に楽しみましょう!」と呼びかけ、彼女が初めて一人で作詞作曲した「ハムスター」では、本当の自分を見失いそうになりながらも、一度立ち止まり、足元の幸せを見つめ直したいという正直な心情を吐露。多保孝一とギターを弾きながら共作した「feel a heartbeat」は<スタートラインに立って/始まりの予感>という歌い出しに大きな歓声が上がり、有安の「いくよ!」という言葉を合図に<Wow wow Yeah Yeah!!>の大合唱が実現すると、最後はマイクから遠ざかり、生声で熱唱する場面もあった。
有安にとっては3年ぶりとなる声出し解禁ライブで、冒頭の3曲での盛り上がりと大声援を受けた彼女は、「みんなのパワーがめっちゃすごくて。吸い取られた……。まだ3曲しかやってないのにどうしよう」と笑顔でステージ上に座り込みながらも、「今日はまたすごいライブになりそうですね。みんなの声が久しぶりに聴けて嬉しいです」と感謝の気持ちを述べた。そして、有安が作詞作曲し、Yaffleが編曲した「色えんぴつ」はフィンガーピッキングで演奏すると、風味堂の渡 和久による「愛されたくて」はストロークでスイングビートを刻みながら軽やかなスキャットも披露。小谷美紗子提供の「裸」はため息と涙が混じったような歌声でハミングをこぼしながらアルペジオとストロークを織り交ぜ、テンポやヴォリュームも自由自在に操るなど、ヴィーカルはもちろん、ギタリストとしての表現方法の多彩さや確かな進化がはっきりと伝わってくる時間となっていた。
各地で日替わり曲となっているカバーコーナーでは、東京公演のみ2曲をチョイス。「大学生の時に出会って、すごく好きで、たくさん聞いて。夏になると必ず思い出す曲です」と語った後、フジパブリック「若者のすべて」では遠い郷愁を感じさせる歌声で観客それぞれの脳裏にいつかの夏の風景を思い出させ、back number「高嶺の花子さん」では魔法のような夏のラブストーリーを鮮やかに描いた。
4本のアコースティックギターを楽曲ごとに持ち替えて歌っていた彼女は、キーボードに移動。この日の照明スタッフが2017年の夏に開催された初の東名阪ツアーで、彼女が初めて鍵盤を弾いた「ココロノセンリツ 〜feel a heartbeat〜 Vol.1」と同じであることを明かした。さらに、「続けてきてよかったなと思うし、みんながずっとついてきてくれて、心強いなと思ってます。あの時の挑戦があったからこそ、今日のライブに繋がってるんだなと思います」と語り、その6年前のツアーの時にアコギで初めて弾いたバラード「ペダル」に「しんどいことがあっても、頑張ったら絶対にいいことが待っている」という強い意志を込めて歌い、「遠吠え」では歌もピアノも弾ませながら、ジャジーなソロも展開した。
純粋にライブパフォーマンスに感動しながらも、別の部分でも強く心を動かされるものもあった。それは彼女の成長に対する感動にほかならない。ここまでは全て、1stアルバムの収録曲のみで構成されていたのだ。グループでのデビュー当時から歌とダンスのスキルには定評があったが、最初は楽器の演奏はできず、鼻唄で作曲をしていた大学生の彼女が自身の音楽に目覚め、没頭していく中で、ここまで観客を惹きつける演奏をするようになったこと——その鮮やかな成長の軌跡がとても眩しく映った。
その成長の理由は、高い壁が立ちはだかっても決して諦めないという芯の強さにあるのだろう。昨年春の「有安杏果 サクライブ Acoustic Tour 2022」で初披露し、今年3月に配信リリースされた「夢の途中」では、まさに「夢をあきらめない強い気持ち」をこめて、アコギを激しくかき鳴らし、川上洋平([Alexandros])提供の「Drive Drive」では、もがきながらも高い壁を乗り越える姿勢を体現し、フロアはタオル回しで一体となって盛り上がった。そして、「みんな、まだまだそんなもんじゃないでしょ?」という煽りを合図に、ソロアーティストとして活動していく決意を込めたロックナンバー「Runaway」でライブの熱気は最高潮に達した。
そして、新たなスタートを切った2019年3月に開催した東阪ツアー「有安杏果 サクライブ 2019 ~Another story~」の後に作った曲で、「夏が終わっていくときの寂しい気持ちと、ライブが終わっちゃう寂しい気持ちを重ねた」というピアノバラード「ナツオモイ」を情感たっぷりに歌い上げると、「ヒカリの声」では再びアコギを手にし、<あの夏の日>の光景を描くと、観客のクラップのボリュームが一際大きくなり、有安はその声援に応えるかのように伸びやかなロングトーンを高らかに響かせ、大きな拍手を浴びた。ラストナンバーは、昨年の「サクライブ」のために作った「オレンジ」。日常生活の中にある小さな幸せの大切さを歌った楽曲で場内を優しく温かいムードで包み込み、ライブ本編は締めくくられた。
アンコールの1曲目は、藤原聡(Official髭男dism)が提供した「TRAVEL FANTASISTA」。明るく軽やかなタッチでピアノを弾きながらさやわかな歌声を放つ有安のカラフルでポップなパフォーマンスによって、観客のテンションは再び上がり、クラップからのワイパーで会場全体が1つになって盛り上がると、「Catch up」はアコギに持ち替え、音の魔法を体現。久しぶりに聞く「アンコール」という声に「本当に嬉しい」と感慨深そうに話した有安は、何度も「ライブ楽しいね」と口にしながら、「まだまだやりたいこともあるし、もっともっと成長したいと思っています。次、みんなに会える時までにパワーアップできるように頑張ります」とさらなる成長を約束。最後に弾き語りツアーの原点の曲でもある「指先の夢」で、<この声枯れるまで歌い続ける>とパワフルに宣言。2年前、おうち時間中に一人ギターを抱えて孤独に陥っていた“過去”と、<将来の夢 今度会ったら聞いてくれる?>という願いが目の前で実現している“現在”を鮮やかに交錯させて体現し、「ヒカリの声」でも歌っていたように、<同じ光>を全員で浴びるなかでエンデイングを迎えた。
第1弾となる「A Little Harmony Live」を見事に成功させた彼女の笑顔と、うふふと漏れ続ける声からは今回のツアーに対する手応えと、楽しかったという充実感が伝わってきた。そして、この日のMCでは、10月から12月にかけて行われる全国アコースティックツアー「A Little Harmony Live」の秋冬公演の日程が発表され、場内からは大きな歓声と拍手が湧き上がり、バンドライブも調整中であることがアナウンスされた。歌、ピアノ、アコースティックギターだけでなく、この日は披露しなかったが、エレキギターやサックス、ドラムも演奏する彼女のライブアーティストとしてのさらなるステップアップに期待している。
SET LIST
01.Another story
02.ハムスター
03.feel a heartbeat
04.色えんぴつ
05.愛されたくて
06.裸
07.若者のすべて(フジファブリック カバー)
08.高嶺の花子さん(back number カバー)
09.ペダル
10.遠吠え
11.夢の途中
12.Drive Drive
13.Runaway
14.ナツオモイ
15.ヒカリの声
16.オレンジ
ENCORE
En1.TRAVEL FANTASISTA
En2.Catch up
En3.指先の夢