BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there
2023年2月11日(土・祝)有明アリーナ
BUMP OF CHICKENの音楽はいつも、我々を旅に連れて行ってくれる。楽曲の物語の中はもちろん、メンバー4人が集うことで生まれる空気感にも、ソングライター・藤原基央の思想にも、そして我々一人ひとりの記憶や心にも、奥深くまでいざなってくれる。つまり彼らの音楽は彼ら自身だけではなく、我々一人ひとりが逆風に揉まれながらも自分の足で歩いてきたこと、生きてきた時間を称えてくれるのだ。どんな状況でも自分たちの歌と音を鳴らし、道を切り開いていく4人の姿に、我々は鼓舞されてきた。
2022年は幕張メッセ公演&ライブハウスツアー「Silver Jubilee」を開催した彼らが、約5年半ぶりに行うアリーナツアー「be there」。2月11日の有明アリーナ公演はツアー初日であることに加え彼らの結成27周年記念日当日、さらに約3年3ヶ月ぶりの観客による声出しが許されたライブとなった。
客入れBGMが停止すると同時に場内が暗転。チャイムのきらめいた音色のなか、升秀夫(Dr)、増川弘明(Gt)、直井由文(Ba)、藤原基央(Vo/Gt)が順々に花道を通りセンターステージへと向かう。センターに就いた藤原がギターを掲げた瞬間に、1万1000人の観客の腕に巻かれたPIXMOBが一斉に光輝くと、客席からはそれを凌ぐ勢いの歓声が湧いた。
メンバーは観客に声を求め、それに応えるように観客もシンガロングやコールに興じる。観客の爛々とした視線と歌声の中心で音を鳴らす4人は、さしづめ惑星の中心にいる太陽のようだ。そして観客の声を浴びれば浴びるほど、演奏もより熱を帯びていく。その後も「天体観測」など20年以上愛され続けている楽曲を畳み掛ける。いま目の前にいる観客に向けて鳴らす彼らの瑞々しい演奏は、同曲と出会った当時の高揚を生々しく呼び起こした。今の自分の中にも、約20年前の自分が生き続けていることを実感すると同時に、BUMP OF CHICKENも27年間自分たちのポリシーを守り続けてきたのだろうと想像すると、僭越ながら彼らが同じ時代を生きてきた同志のように思えてきた。
4人がメインステージに戻ると、藤原は久々の観客の歓声に対して“もうマックスの感動になっちゃって、ツアーファイナルみたいな気持ちになっちゃってる”と笑う。口元が緩ませながら話す彼に、メンバーも優しい笑顔で応えた。
その後は同期を用いて爽やかなミドルナンバーを届け、前衛3人が升の元に集まるとドラムカウントから4人の音のみで力強さと焦燥感がない交ぜになったロックナンバーで荒々しく駆け抜ける。この日からちょうど2年前、結成25周年記念日当日にリリースした「Flare」は丁寧な演奏で徐々にスケールを大きくし、その様は夜が明けていくようなエモーションに満ちていた。藤原のギターから始まったロックバラードも27年間の信頼関係が作ったグルーヴが心地よく、楽曲に込められた真摯で切実な思いがダイレクトに伝わってくる圧巻の演奏。中盤のクライマックスだった。
再びセンターステージに移動しアコースティック色の強いスローナンバーを届けると、初めて訪れた有明アリーナに興奮した様子を見せる4人。“控室が綺麗”、“バスケやバレー選手のロッカールームみたい”と語る直井は、“(うまく言葉では伝えられないから)送るわ”とステージ上でTwitterへ画像をポストする。観客の多くが即座に該当ツイートをチェックし、イメージを共有するという2020年代ならではの微笑ましい光景も見られた。
藤原は“声を出して良くなったからこの曲もやれるってことだよね”と告げるや否やポップナンバー「新世界」を歌い出し、観客も即座に高らかにクラップを鳴らす。シンガロングを通じて観客とのコミュニケーションを楽しみながら再びメインステージに戻ると、華やかなレーザーが飛び交う空間のなかテンションの高いサウンドスケープで魅了。ライブで初披露する楽曲では少しずつ熱量を増していく演奏と歌声により、記憶の奥にしまいこんでいた大切な人から向けられた愛情が、その場に立ちのぼってくるようだった。BUMP OF CHICKENの音楽は、どんな時も忘れてはいけない大切なものを手元に差し出してくれる。それを確信する、とても崇高な音色だった。
優しく切ない音色と多数のミラーボールによる光の粉雪で会場を包んだ後は、エネルギッシュなファストナンバーや2本のギターの交錯がドラマチックな伸びやかなポップソングを届ける。ラストに藤原と増川が向き合いお互いのギターで締めくくりグータッチをした瞬間も胸を熱くさせた。ラストも伸びやかかつ堂々としたダイナミズム溢れるグルーヴを作る。4人の奏でる音と観客の歌声で意思疎通をする様子が非常に美しかった。
アンコールでバンドが27周年を迎えたことに触れた藤原は、“一言で言えば「ありがとう」なんだけど、一言で言えない、いろんな気持ちのある「ありがとう」です。全部の気持ちを込めて”と告げ、バンドの初期曲を演奏する。
演奏が終わり、増川、升、直井が順々にステージを後にすると、最後に残った藤原が観客に向けて改めて27年間支えてもらったことへの感謝を伝える。“最高に幸せな夜でした。ツアーファイナルみたいな気持ちになっちゃってます(笑)。ここからツアーに行けるのも幸せなことです。ベッタベタだけどひとつ言いたいことがあります。……行ってきます!”と告げると、客席からは大きな歓声と拍手が湧いた。
アリーナという広大な会場で華やかな照明演出、メンバーの姿がモニターに映し出されることはあれど、華美なステージセットや映像演出などは用いず、4人の演奏と佇まい、そしてBUMP OF CHICKENの音楽に焦点を当てたライブだった。目の前で音が鳴っているような、まるでライブハウスにいるような心持ちになった人も少なくなかったのではないだろうか。彼ら4人と観客が同じ場所にいて音を鳴らすことが、何よりも気高いことである。そんなことを考えながら、モニターに映し出された「be there」の文字をしばらく眺めていた。