BUMP OF CHICKEN TOUR 2024 Sphery Rendezvous
2024年12月8日(日)東京ドーム
東京ドームの内部が天体空間であるとするならば、PIXMOB(LEDリストバンド)を腕に装着した観客ひとりひとりは、宇宙でまたたく星のような存在かもしれない。そんな想像をしてしまったのは、ツアーのタイトルに“Sphery Rendezvous”(意訳すると、球体でのランデブー)という言葉があったから、そしてまた、バンドと観客とが同じ時間・同じ空間で出会うことの“かけがえのなさ”を強く感じる夜となったからだ。全国10か所19公演を回るツアーのファイナル公演となる東京ドーム2日目の12月8日のステージ。
円形のステージに藤原基央(Vo, Gt)、増川弘明(Gt)、直井由文(Ba)、升秀夫(Dr)が登場。「窓の中から」の間奏のコーラス部分が響き渡り、最新アルバム『Iris』の1曲目である「Sleep Walking Orchestra」へと繋がっていくオープニングだ。<窓をくぐった>という言葉が使われている「Sleep Walking Orchestra」は、コンサートの始まりを告げるのにふさわしい曲だろう。藤原の伸びやかな歌声がドーム内に響きわたると、観客がハンドクラップで参加。互いに出会えたことを祝福しあうような、歓喜の空気が会場内に満ちていく。躍動感あふれるグルーヴに客席が揺れる。増川、直井、升のコーラスが曲に浮遊感を与えている。世界各地の民族音楽の要素を融合したサウンドは、バンドの新境地でもあるだろう。4人の歌と演奏からは“生命力の発露”と形容したくなる、みずみずしいエネルギーがほとばしっていた。
続いての「アンサー」は2016年に配信で発表された曲だ。今回のツアーは『Iris』の楽曲が軸となっているのだが、既発曲が最新アルバムの曲たちと共鳴しあって、大きな流れを形成していると感じた。アルバムタイトルの『Iris』には“虹彩”という意味がある。その“虹彩”とどこかでシンクロする“光や色彩のイメージ”を喚起させる曲が目立っていたからだ。例えば、「アンサー」にも<虹の始まったところ><虹の辿り着いたところ>などのフレーズがある。ステージ上では光を発するリングが上昇していた。円形のステージと光るリングが“虹彩”や“窓”を連想される瞬間が何度かあった。歌の途中で藤原が「届いているか~!」と問いかけると、客席から大きな歓声が起こった。推進力を備えたバンドサウンドが気持ちいい。藤原のアコースティックギターで始まったのは「なないろ」。この曲も“虹”がモチーフとなっている。4人の奏でる音がどこまでも優しく響き、客席が七色の光を発しながら揺れている。音楽と光とによる交信と形容したくなった。
「東京のみんな、ただいま~。(ツアー初日の)ベルーナドーム、暑かったですよ。いろいろな季節をくぐり抜けて、寒い東京ドームまで来れて、感慨深いです。僕ら4人とも全力で音楽を届けるので、最後まで楽しんでください」と直井。増川からは、「ファイナルやってきました。始まったからには終わっちゃうんで、最後まで楽しんでください」との挨拶があった。さらに、「要は僕ら、感極まっちゃっているんです」と直井が補足説明。このファイナル公演で、メンバー4人は、胸の中にこみあげるさまざまな感情のすべてを、音楽エネルギーに変換しているのだろう。
深遠なストリングスの調べで始まったのは「pinkie」だ。藤原が言葉のひとつひとつに思いを込めるように丹念に歌っている。直井はステージの下手へ、増川は上手へと歩きながら演奏している。バンドの要(かなめ)の位置で、升がパワフルにリズムを刻んでいる。力強さと儚さとが共存する世界をバンドが見事に描き出していく。結成から28年の歳月の中で磨き上げてきた今の彼らの表現力の豊かさを堪能した。都会で咲く花の映像をバックに演奏されたのは「記念撮影」。藤原が指で四角形のフレームを作る、シャッターを切るなどのポーズを取りながら歌っている。瞬間を切り取っていくような歌声だ。この曲の歌と演奏はまるで風の中で揺れる野の花みたいだった。儚さの中に宿るしなやかな生命力の確かさを感じたからだ。
エモーショナルな藤原の歌声に胸を揺さぶられたのは「邂逅」。喪失感や孤独感、悲しみや懐かしさやいとしさなど、さまざまな感情が詰まっている歌声なのだが、最終的に浄化と救済をもたらしてくれる。そのボーカルに呼応するような、増川と直井と升の渾身の演奏も胸の中の深いところに届いてきた。“邂逅”は“ランデブー”という言葉ともどこかでリンクしている。「邂逅」は時空を超えて、再び出会うことを誓う歌でもあるのだろう。可変式のリングが下降して円形ステージの外周と重なりあう演出が“Sphery Rendezvous”という言葉をシンボリックに表していた。曲が終わった瞬間に、客席から多くの感極まった声があがった。
「聞こえているぜ、ありがとう。ツアー最終日になってしまった。全部音符に込めて、君に届けたいと思います。ちゃんと受けとめてくれ」と藤原。
歌とキーボードで始まったのは「strawberry」だ。R&Bやソウルのテイストもあるナンバー。もともとBUMP OF CHICKENは多様なジャンルの要素を融合したボーダーレスな音楽を展開してきたバンドだが、最新作『Iris』ではその幅はさらに広くなっている。グルーヴィーでソウルフルな演奏に体が揺れる。曲の途中で、「千葉県佐倉市から長い旅をして、今夜、君に会いに来たバンド、BUMP OF CHICKENです。会えてうれしいぜ」との藤原の言葉もあった。すぐそばで歌が鳴り響いているような、近さと温かさを感じさせる歌と演奏だ。ギターのつまびきと囁くような歌声で始まったのは「太陽」。スクリーンには大きな太陽が映し出されて、客席が赤いライトで照らされている。藤原の包容力を備えたボーカル、増川の丹念なアルペジオ、直井の温かみのあるベース、升の懐の深いドラム、4人の温かな演奏に包まれていると、陽だまりの中で日向ぼっこをしているような気分になる。
4人がセンターステージへと移動しての演奏となった「メーデー」では、疾走感と開放感あふれるギターサウンドが全開となった。この4人だからこそ、生み出せるグルーヴが気持ちいい。客席からハンドクラップが鳴り響き、観客の腕の光が輝いている。直井が飛び跳ねながら演奏している。藤原がピースサインを出しながら歌っている。バンドと観客とがお互いの存在を確認しているかのような濃密な時間が流れていく。続いての「レム」は、増川のアコースティックギターでの始まり。途中から藤原のエレキギターが入る構成。緩急自在の歌と演奏の中でゆらゆらとたゆたっているのは至福の瞬間となった。床からの赤いライトに照らされながら演奏する姿は、まるで4人でひとつの生き物のようにも見えた。
「みんなに会えてめっちゃうれしいです」と直井。「みんなの笑顔を見られて、最高の年になりました」と増川。「ツアーを総括して」と求められた升がマイクなしの状態で何やら語り、直井が「すごく楽しかったぜ、みたいな」と通訳する場面もあった。すると、おもむろに升が立ち上がり、生声で「最後まで楽しみましょう!」と大きな声で叫び、大きな拍手が起こった。寡黙な升の生声はとても貴重なのだ。「やる気満々」と藤原。続いての「SOUVENIR」は、その言葉どおり、4人はエネルギッシュな演奏を展開。観客もやる気満々で、シンガロングとハンドクラップが起こり、ステージ上と客席による“お土産の交換会”と形容したくなるような熱くてフレンドリーな一体感が漂った。スクリーンに曲の歌詞が映し出されていて、その文字が下に降り積もっていく映像が楽しい。映像や照明などの演出では随所に工夫が凝らされていて、曲を届けることと楽しませることとが両立するステージとなった。「出会えていることを確かめる僕と君の歌だ」との藤原の言葉に続いて、「アカシア」。ここからはまたメインステージでの演奏だ。直井と増川が向き合って演奏している。藤原が「行くぞー!」と客席に叫び、コール&レスポンスが起こっている。ここでも、ステージと客席との双方向のコミュニケーションが成立していた。
続いて、「Gravity」へ。この曲でも歌声の近さが際立っていた。観客全員ではなくて、ひとりひとりに向かって、歌を届けていると感じたからだ。藤原と客席とのコール&レスポンスによって、うるわしい光景が出現した。みずみずしい歌と演奏が鮮やかに届いてきたのは「木漏れ日と一緒に」。木漏れ日そのもののような輝きと温かさをもたらしてくれる歌と演奏だ。「ray」では、花道へと移動した直井のベースのリフを合図に銀テープが発射され、銀色の光が輝く中での演奏となった。「声を聴かせてくれ」との藤原の言葉に応えて、ドーム内がひとつになって、シンガロングが起こった。こんなにも多くの人間が同時に、<生きるのは最高だ>と歌う場面が訪れるのだから、この世界は捨てたものではないのかもしれない。歌詞のこのフレーズとバンドの思いと観客の思いとが完全に一致する瞬間があったのだ。
「“生きるのは最高だ”って簡単に言えるものじゃないよ。でもさ、今夜、音楽を介してオレたちは待ち合わせをし、その待ち合わせが成功して、こんなに素敵な時間を一緒に過ごせて、うれしかった。今のオレの全部、ちゃんと届いているかい?」との藤原の問いかけに、大きな歓声が応えている。歓声と拍手の嵐の中で始まった本編最後の曲は「窓の中から」。藤原の凜とした歌声からは、歌を届ける意志や覚悟までもが伝わってくるようだった。増川、直井、升の奏でる音からも、確かな思いが滲みでていた。観客も一緒になっての<La La La>という歌声がドーム内に鳴り響いていく。曲の終わりは藤原の自在のフェイク。窓の中から発された光がドームを満たしていくかのようだ。惜しみない歓声と拍手がステージ上の4人に降り注いでいた。
「窓の中から」で始まり、「窓の中から」で終わる構成。“窓”とは、家の中と外とを繋ぐものであると同時に、人間の内面に広がる宇宙と外に広がる宇宙とを繋ぐものでもあるかもしれない。“目は心の窓”という言葉もある。つまり虹彩も窓のような役割を担っている器官だ。ステージ上で上昇・下降・回転などの動きを見せていた光るリングが窓や虹彩のイメージを増幅していた。緻密に練り上げられた映像・照明・舞台セットなどの演出が歌の世界をより立体的に広げていた。今回のツアーのステージは、バンドとチームとが総力を結集して作りあげたものでもあるだろう。すべての曲が連なった大きな物語のようでもあった。その物語を読むのではなく、その中の登場人物として、ともに生きるようなコンサートでもあったのではないだろうか。
「アンコール、ありがとう。まだやっていいの?」との藤原の言葉に続いて演奏されたのは「You were here」だった。直井の温かなベースで始まり、藤原のいとしさの詰まった歌声が加わり、さらに増川の優しいアコースティックギター、升の柔らかなドラムが加わっていく。<会いたいよ><会いに行くよ>と歌われるこの曲は、再会への思いを伝える歌でもあるだろう。さらに彼らが10代の頃に作った歌、「ガラスのブルース」が演奏された。当時と比べると、バンドはあらゆる面で飛躍的に成長している。取り巻く環境も大きく変わっている。だが、音楽に向かっていく姿勢は変わっていないことが、この日の歌と演奏からは伝わってきた。途中でバンドの演奏がブレイクすると、シンガロングが響き渡った。初心も初期衝動も握りしめたまま、バンドが歩み続けてきていることの証が、この日の「ガラスのブルース」に刻まれていた。演奏が終わると、4人は肩を組み、笑顔を見せた。その4人に対して、あちこちから「ありがとう!」との声がかかっている。
感謝の嵐による感動的なフィナーレだ。だが、まだ終わりではない。アンコールの2曲が終わっても、藤原はまだ歌いたがっていたからだ。メンバー3人も同じ気持ちだったのだろう。そして、彼らの歌も歌われたがっていたに違いない。予定外のアンコールとして最後に演奏されたのは「花の名」だった。藤原のアカペラの歌声での始まり。ソウルフルな歌と演奏が染みてきた。一緒に過ごした時間のかけがえのなさ、その時間を胸に刻むことの尊さが伝わってくる歌と演奏だ。コンサートが終わっても、体の中に留まり続けているものがあることを、藤原、増川、直井、升の奏でる音が雄弁に示していた。なんとヒューマンなエンディングなのだろうか。終演後の藤原の別れの挨拶にも胸を突かれた。
「BUMP OF CHICKENの音楽は1曲残らず、1音残らず、1休符残らず、全部幸せです。生まれてきた世界に君がいたからです。また会いにきてね。バイバイ、またね」
この東京ドーム公演は、バンドにとっても、大きな節目のステージとなったのではないだろうか。出会いがあれば、別れがある。だが、別れとは再び出会うために必要な時間でもある。離れる時間があるからこそ、ランデブーが成立する。別々の時間が流れるからこそ、ランデブーのかけがえのなさが際立っていく。今という瞬間を積み重ねたその先で、また出会う喜びや繋がる喜びを感じる瞬間が訪れるだろう。その日が来ることを、メンバーとともに、BUMP OF CHICKENの曲たちも心待ちにしているに違いない。
SET LIST
01.Sleep Walking Orchestra
02.アンサー
03.なないろ
04.pinkie
05.記念撮影
06.邂逅
07.strawberry
08.太陽
09.メーデー
10.レム
11.SOUVENIR
12.アカシア
13.Gravity
14.木漏れ日と一緒に
15.ray
16.窓の中から
ENCORE
17.You were here
18.ガラスのブルース
19.花の名
東京ドーム公演本編のプレイリストを公開中!
≫ 詳細はこちら