Psycho le Cémuのツアー『RESISTANCE~領域拡大~』が、8月26日に恵比寿LIQUID ROOMでファイナルを迎えた。雨が降り続く世界を舞台にした“RESISTANCE”というシリアスなコンセプトを掲げつつ、彼らの多方面に渡る魅力をたっぷり盛り込んだこの夜(終演後にはサプライズまで!)。2022年の夏現在のPsycho le Cémuというロックバンドの魅力を最速レポートでお届けする。
「我々こそがレジスタンスだ!」
DAISHIの高らかな宣言から「Revenger-暗闇の復讐者-」が始まると、緊張感に満ちたサウンドに相応しいメンバーの気合いがステージいっぱいに満ちる。特にYURAサマの大きなアクションが目を引いた。色鮮やかなサイリウムがフロアに広がるのは、Psycho le Cémuのライヴのいつもの光景。さらに無数のこぶしを掲げ、激しく体を折り畳み、「摩天楼カオス」では頭を振り乱し、オーディエンスも気合いで応える。
「バラバラの記憶…あなたの悲劇に別れを告げたあの日からこの雨が降り出したんだ」の言葉から始まった「NEO」でドラマチックな世界を描き出すのは、艶やかなDAISHIの歌声。さらに2本のギターが美しく寄り添い、ソロを織りなす。序盤から派手なパフォーマンスを繰り広げるseekに対し、黙々とプレイに集中するAYAだがギターは雄弁だ。
「抱かれる覚悟で来たか!」
DAISHIらしい呼びかけに続いて始まった「妄想グラフィティー」で改めて認識したのは、DAISHIのクリアな発声。歌詞の一言一句が聴き取れる彼の歌声が、彼らの楽曲のキャッチーさを倍増させている。“生物学的にはあなたが好きで もっとそばにいたいけど 物理学的には手のとどかない 想像描いてる”という独特の言葉のセンスあふれる歌詞がまっすぐ胸に飛び込んでくるよう。
ピアノの穏やかなSEを挟んで、Lidaの美しいアルペジオから「凛〜愛する者のために〜」が静かに始まる。曲が進むに連れて、静から動への大きなうねりに身をゆだねた。
「オッハー!!!」
曲の世界に包み込まれた会場へ、沈黙を切り裂くAYAの元気いっぱいの声が響き渡る。おなじみのMCが始まって、みるみる緩む会場の空気。恒例のMCもツアーでバージョンアップしたようで、最近DAISHIが運転免許を取得したという話題も入れ込み、きっちりオチをつけたあと『この世界が愛で包まれますように…』というAYAの言葉の後DAISHIと仲良くタイトルコールして(この2ショットがかわいかった!)、「激愛メリーゴーランド」へ。
センターでダンスするAYAとYURAサマが振りまくアイドル性とスター性。ここまでのキラキラした輝きは、間違いなく特筆に値する。ただしここで強調したいのは、ロックバンドとして音楽を創り、ミュージシャンとしてステージでパフォーマンスしている土台の上にその個性があるという点だ。
静寂に満ちた深海か宇宙空間を彷彿とさせるようなSEを切り裂くように「Mind Core」が始まる。「至福の時に包まれた日々、雨、憂、降る夜にさよならを」というLidaの言葉の後にseekが「行くぞ、LIQUID!」と吠えたて、オーディエンスが力強く応える。いつもキュートなAYAがギターソロで男前なところを見せ、さらにノリノリでLidaに絡んでいった。ライヴを楽しんでいる気持ちが手に取るように伝わってくる。
ライヴ前半の張り詰めていた空気が動き出すように、躍動感あふれる「ノスフェラトゥ」。YURAサマの小気味いいリズムに流麗なメロディが流れる。ロックバンドらしいカッコよさを見せつけた後にラップを散りばめた「one day」と、幅広い曲調も彼らの手にかかればどこまでもナチュラルに続く。
「アカツキの旗のもとへ。旗を掲げろ!」
seekの言葉から始まった「Murderer・Death・Kill」でフロアに登場するのは、赤い旗。ステージは赤く照らし出され、会場内の空気がどんどん高揚し、狂気が満ちていくよう。「LOVE IS DEAD」でオーディエンスのノリはますます激しさを増し、会場は熱気に包まれる。
高まった熱が、「愛の唄」で温かいぬくもりに変わる。会場いっぱいに光が満ち、幸せな空気が広がっていく。AYAもYURAサマも笑顔がこぼれ、ノリノリで楽しむLidaにseekがじゃれつく。そんなメンバーをみつめるファンが笑顔にならないはずはなく、Psycho le Cémuは本当に笑顔が似合うバンドだと改めて思った。
「もう一度行こうぜ」という言葉で始めた「アカツキ」を、歌詞を噛みしめるように歌うDAISHI。自分たちの世界を取り戻そうと高らかに歌うこの曲は、コロナ禍でたくさんのものを奪われた自分たち自身やファンを鼓舞し、前へ進み続ける勇気をくれる。そんな進行形のPsycho le Cémuを示すように、新曲「もう一度、くちづけを」を最後にプレイ。ラテンのリズムに乗せた大人の色香漂うこの曲をツアーで育て、さらに進み続ける未来までも匂わせ、「世界が終わる夜まで変わらぬ愛を…」というメッセージを残して本編が終了した。
ツアーTシャツ姿で再びステージに登場した5人はすっかりリラックス。楽器陣が赤い旗を手にステップを踏んで楽しくはしゃいだ「ファイティング!」から、口々に感想を語るMCへ。そして、この季節にぴったりの夏の夜を描いた「BLUE AGAIN」がツアーの最後を飾る。この曲はツアー途中からセットリストに組み込まれ、楽器陣によるセッションのイントロから始まるアレンジに変貌を遂げていったという。それもあってか、互いにアイコンタクトを交わす姿がライヴの最後に強い印象を残した。
演奏を終えた5人の表情からは、バンドとしての充実感がひしひしと感じられた。それが自己満足でないことは、MCでも触れられていたように男性ファンが増えていたことからも明らかだ。彼らは歩みを止めることなく進化し続け、聴く人を魅了し続けている。
何よりも、Psycho le Cémuのライヴに行けば幸せな時間が過ごせること、元気をもらえることを、LIQUID ROOMに足を運んだオーディエンスは強く感じたことだろう。そしてそれはなんと終演後にも続いていた。ホールを出ると、ガラッとイメージを変えた新しいヴィジュアルのポスターが、ロビーにも通路にも大量に貼り巡らされていたのだ。
「え?」
「ヤバい!」
「すごいすごい」
一瞬呆気にとられたようなリアクションもありつつ、ライヴの余韻に浸っていたファンの興奮が再び高まると、撮影大会がスタート。彼ららしい粋なサプライズは、ファンを思う気持ちと常に工夫を凝らして前向きに活動に取り組む姿勢の現れにほかならない。
今年は、Psycho le Cémuのメジャーデビュー20周年記念でもある。10、11月と新曲「もう一度、くちづけを」のリリースが続き、クリスマスにファイナルを迎える全国ツアーも決定している。色気漂う大人な雰囲気のヴィジュアルも含め、次はどんな彼らの魅力を振りまいてくれるのか。気が早いと言われようと、ツアーファイナルが終わった今、すでに楽しみになっている。