佐野元春 & THE COYOTE BAND 特別なメッセージを込めたコンサートを開催。「舞台は、僕たちの場所。みんなの希望になるように」

ライブレポート | 2020.12.24 18:00

佐野元春 & THE COYOTE BAND「TOUR 2020 ‘SAVE IT FOR A SUNNY DAY’」
2020年12月15日(火)LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
Guitar, Vocal:佐野元春 Drums:小松シゲル Guitars:深沼元昭, 藤田顕 Bass 高桑圭Keys:渡辺シュンスケ Piano, Organ:Dr.kyOn Percussions:大井スパム

佐野元春 & THE COYOTE BANDが、東京、神奈川、京都、大阪、名古屋を回る5公演のホール・ツアー『TOUR 2020 ‘SAVE IT FOR A SUNNY DAY’』の2本目である東京公演が、2020年12月15日(火)、LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)にて行われた。
本ツアータイトルの「SAVE IT FOR A SUNNY DAY」は、佐野元春がこの夏に始動した40周年記念オンラインイベントのテーマでもある。「コロナ禍が明けた後の新しい日のために、今ある夢や計画を大事に」というメッセージが込められており、この状況で表現しうる特別なライブにチャレンジするツアーとして開催が発表された。

バンドは、今年で結成15年目になる(とMCでご本人も報告した)THE COYOTE BAND、今回は、小松シゲル(Ds)、深沼元昭(G)、藤田顕(G)、高桑圭(B)、渡辺シュンスケ(Key)、大井スパム(Per)に、THE HOBO KING BANDで佐野と活動を共にしたDr.kyOnがピアノ/オルガンで加わった布陣。客席は一席飛ばしで歓声や合唱はNG、入口で手の消毒・検温・名前と連絡先の記入等、新型コロナウイルス感染予防に配慮したオペレーションで開催された。

開演予定時刻の19時きっかりに客電が落ち、さっきから続いているBGMが流れる中(スティーヴィー・ワンダーにさしかかったところだった)、まずメンバー7人が登場。はじかれたように立ち上がるオーディエンス、持ち場につく7人を見ながらドーッと拍手。
長く続いたその拍手がだんだん手拍子に切り替わったあたりで、黒いマスクを装着した佐野元春がステージに表れ、「Ladies and Gentleman――」とアナウンスが流れ、逆光の照明がステージ後方から放たれ、それが消えると同時に1曲目「禅ビート」のあのギター・イントロが鳴り響き、その8小節後にバンド全員の音が加わってステージが明るくなる──という、鳥肌もんのオープニングだった。オーディエンス、誰も声を発さない(発せない)にもかかわらず、その瞬間に客席の温度がウワッと上がった気がした。

佐野がマスクを外し、シェイカーを振りながら歌った「ポーラスタア」。「こんな時ですが、みなさん集まってくれてありがとう。少しでも、(世の中に)活気が戻ればいいと思って。僕らのコンサートを楽しんでください」という短いMCをはさんでからの「荒れ地の何処かで」。「君がここで倒れるわけにはいかない 君がここで壊れるわけにはいかない」というラインが、新しい意味を持ったように生き生きと響いた「Us」。スタンドマイクで歌いながら手を叩く佐野に触発されて、客席にハンドクラップが広がった「いつかの君」──と、キビキビと進んで行く……いや、ライブの進み方を形容するのに「キビキビと」というのは変かもしれないが、でもそう言いたくなるくらい、緩みが一切ないストイックな音の表情で、次々と曲が放たれていく。本当にいいバンドだと、つくづく思う。

La Vita é Bella」を歌い終え、THE COYOTE BANDは今年で結成15年目になること、こんなに続いたのはファンのみんなのおかげであることに感謝の意を示し、「僕らが最初にレコーディングした曲です」と「星の下 路の上」へ。そして、佐野がカウベルを叩きながら、そしてパーカッションがもうひとり加わりながらの「バイ・ザ・シー」のあと、この日のライブのピーク・ポイントが待っていた。いや、ここまでも何度も個人的なピーク・ポイントはあったのだが(「紅い月」「東京スカイライン」)の流れとか、「星の下〜」「バイ・ザ・シー」の連打とか)、そういうことではなく、2020年に彼らが発表してきた曲が披露されるゾーンに入った、ということだ。
デビュー40周年のアニバーサリー・イヤー、その幕開けとなるべく書かれた、そして緊急事態宣言の最中(4月22日)に配信リリースされることになった「エンタテイメント!」。その14日前に、「佐野元春とコヨーテバンドはこの曲で、コロナ禍で疲れた世界中の人たちを応援します」というメッセージと共に公開された、メンバー全員リモートでレコーディング&映像撮影を行った「この道」。そして、このツアーのタイトルにもなっている、10月30日に配信リリースされたばかりの「合言葉 - Save It for a Sunny Day」。
「この道」が終わった時の客席からの拍手、おそらく声を出せない分だろう、すごいボリュームだった。「ありがとう。こうしてコンサートをやるのは1年ぶりです。舞台は、僕たちの場所」という佐野の言葉に、それ以上に大きな拍手が沸き起こる。
「合言葉」の「合言葉はそう 夢を節約しとこうぜ save it for sunny day」というラインは、配信で聴いてた時以上に、深く、温かく、オーディエンスに刺さったように感じた。というか、自分はあきらかにそうだった。

そしてステージは、後半のハイスパート・タイムへ。まずはライブの鉄板中の鉄板、「愛が分母」でオーディエンスのステップを巻き起こし……って今書いから気がついたが、「鉄板中の鉄板」って、この曲、2019年に発表されたばかりですよね。それがもうオーディエンスにとって超重要な曲になっている(あんなに長いキャリアなのに)、というのも、佐野元春というアーティストの特異性だ、などと、リズムに合わせて身体を揺らしながら思う。
そして「純恋」「誰かの神」「空港待合室」と、2015年・2017年発表の曲を続け、本編ラストは、出た、「優しい闇」。
「なんだろう ひとはあまりに傲慢だ 帰り道をなくしているのも知らずに なぜだろう ひとはあまりに残酷だ 約束の未来なんてどこにもないのに」を経て「なんだろう ひとつだけ言えること この心 どんなときも 君を想っていた」に辿り着く、2010年代の佐野元春の数ある名曲の中でも屈指のこの曲で、本編が締められた。この日最大ボリュームの拍手がLINE CUBE SHIBUYAを包む。

「大変な状況は続きますが、みんなの希望になるように、この歌を歌いたいと思います」
 という言葉で始まったアンコールの1曲目は、最新アルバム『或る秋の日』から「みんなの願いかなう日まで」。2019年の作品だから、当然、コロナ禍の前に書かれたはずなのに、前述の「Us」と同じように、今、この世の中で、この場所で歌うために、書かれたように響く……とか言い出すと、そもそもそんな曲だらけなのだが、佐野元春は。
 ここまでで、「昔の曲全然やらないじゃん」という不満を感じていた人、はっきり言って誰もいなかったと思うが、というか自分はもう「佐野元春クラシック曲、今日はなくていいわ」と思って大満足していたが、彼が赤いストラトを抱えると「おっ」と思うし、そして「インディビジュアリスト」が始まるとさらに「おおっ!!」と興奮する。あのステップが1Fと2Fのフロアに広がっていく。オーディエンス、声は出せないが楽しそう。ステージの上も楽しかったようで、曲が終わり、メンバーがもう楽器を下ろしているのに、佐野、「もう1曲いこう」。それぞれが再び楽器を持ち直す。
そして追加されたのは「ニュー・エイジ」だった。佐野元春クラシックであり日本のロックのクラシックである、しかし36年も前に書かれていながら今の世の中の今の人間の今の気持ちを描いたようなこの曲で、とんでもなく濃密で果てしなく幸せなこの時間は、終了した。

SET LIST

01. 禅ビート
02. ポーラスタア
03. 荒地の何処かで
04. ヒナギク月に照らされて
05. Us
06. 私の太陽
07. いつかの君
08. 紅い月
09. 東京スカイライン
10. La Vita è Bella
11. 星の下 路の上
12. バイ・ザ・シー
13. エンタテイメント!
14. この道
15. 合言葉 - Save It for a Sunny Day
16. 愛が分母
17. 純恋
18. 誰かの神
19. 空港待合室
20. 優しい闇

ENCORE
01. みんなの願いかなう日まで
02. インディビジュアリスト
03. ニュー・エイジ

  • 兵庫慎司

    取材・文

    兵庫慎司

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