佐野元春 & THE COYOTE BAND CLUB CIRCUIT TOUR 「ソウルボーイへの伝言 2019」
2019年10月15日(火) マイナビBLITZ赤坂
東京スカパラダイスオーケストラのホーン4人が参加した佐野元春 & THE COYOTE BANDのデジタル・シングル『愛が分母』を8月14日に、これまでに配信リリースされた4曲と新曲4曲からなるミニアルバム『或る秋の日』(佐野元春名義)を10月9日にリリースしたばかりのタイミングで回る、佐野元春 & THE COYOTE BANDのツアー「CLUB CIRCUIT TOUR『ソウルボーイへの伝言2019』」の東京公演。この日はツアーの2本目だったが、1本目の10月12日 川崎クラブチッタが台風19号の影響で中止を余儀なくされたため、実質的に初日、ということになった。
というわけで、セットリストについては一切触れられないのだが、それでも何か書きたい!と思わずにはいられないライブだった。
まず、初日?ファイナルでは?と言いたくなるほどいきなり仕上がっている、THE COYOTE BANDの音。だってあちこちで活躍している凄腕揃いのメンバーじゃん、と思われるかもしれないが、それぞれが凄腕であることと、バンド・サウンドとしてガシッと固まることがイコールかというと、必ずしもそんなことはないわけで。「凄腕が集まってすばらしいセッションをやっている」というよさではなくて、「凄腕が集まってバンドをやっている」すばらしさであるところに、耳を持っていかれるのだ。何ひとつ奇をてらうことなく、オーソドックスなロックをストレートにやっていて、こんなにも「なんじゃこれ!」と言いたくなる音を出すバンド、国内で僕が知っている限りでは、佐野元春 & THE COYOTE BANDと、奥田民生のMTR&Yだけだ。惚れ惚れする、耳を傾けているだけで。
次。佐野元春のパフォーマンス。歌といい、ギターといい、アクションといい、ちょっとしたふるまいや一瞬の表情といい、なんでこんなにロッカーとして(とあえて言う)瑞々しいままなんだ、この方は。「太らない」とか「老けない」という見た目の変わらなさもあるんだろうけど、それだけじゃなくて、なんて言うんでしょう、ロックンロールという概念が当初持っていた新しさや初々しさや生々しさが、人間の形になって目の前に存在しているというか。もう目が釘付け、一挙手一投足に。「俺が初めて知った時のまんまの元春じゃん」と言いたくなるような(私、51歳です)。嘘や虚飾を感じる瞬間は一切ないのに、ただただ正直にステージに立っているのに、存在自体に「こんなことありえるの?」と言いたくなるような。そんなマジカルな時間だった。
で、最後、三つ目。オーディエンスがめちゃくちゃいい。ライブってオーディエンスの力で大きく変わるものだという自覚があるのか、単に元春を観れてうれしくてたまらないのか、その両方なのかはわからないが、こんなオーディエンスで満員になってたらそりゃあ演者テンション上がるわ、いいライブやるしかないわ、と思わされる、熱い熱い空気だった、最初から最後まで。
特に圧倒されたのが、何十年も耳になじんできた名曲も、最近の……最近っていつだ、ええと、じゃあここ5年ってことにしよう、ここ5年の間に発表されてきた新し目の曲も、ほぼリアクションが変わらない、あっついまんま、という事実。長年大好きなあの曲も、最近セトリに加わった曲も、どっちもうれしいのだ、みんな。これ、佐野元春くらいキャリアがあって、ヒット曲も有名曲もいっぱい持っているアーティストとしては、稀有なことだと思う。ただ、自分が「ああ、佐野元春のファンはそうなんだなあ」みたいにそのさまを見ていたかというと、そんなことはなかった。自分もそういうリアクションだった。懐かしいあの曲がめちゃくちゃうれしいのと同じように、大好きな近作のあの曲のイントロが鳴った瞬間に血が沸騰する。ということは、オーディエンスの側だけじゃなくて、本人にもその原因があるということですね。
そういえば、中盤である曲を演奏し終わった時、オーディエンスを見て、「みなさんこんなに喜んでくれて、うれしいです」と言っていた時に、何か、「ああ、こういう人なんだなあ」と思った。シンプルな物言いだけど、本当に心からそう思った、だからそう口にした、ということが伝わったので。
佐野元春 & THE COYOTE BAND は、11月30日に大分でこのツアーが終わると、12月には恒例のクリスマス・ライブ『ロッキン・クリスマス』でツアーに入る。12月29日には幕張メッセで、フェス『COUNTDOWN JAPAN 19/20』に出演。そして40周年を迎える2020年には、佐野元春 & THE COYOTE BANDのニューアルバムをリリースすべく、今、制作に入っている──と、MCで言っていた。楽しみに待ちたい。