「Live 2020 “beat the odds”」
2020年1月23日(木) マイナビBLITZ赤坂
もういきなり言うのだが、「凄いものを見てしまった」というライブだった。エラそうな言い方かもだが、大好きなハリー、そして日本のロックンロールはもうこんなとこまで来ていたんだ。そう思ったライブだった。
村越弘明(Vo&Gt)は一昨年のアラバキロックフェスの企画で、THE STREET SLIDERSの35周年を記念しスライダーズをリスペクトするメンバー達を集めた一夜限りのメンバーでスライダーズ楽曲を披露するライブを行った。今回はその時のメンバーだったフジイケンジ(Gt)、ウエノコウジ(Ba)、中村達也(Dr)、高野勲(Key)が何と再集結し、正式に“Harry and The Siegfried(ジークフリート)”と名前も名乗ってのライブであった。
このメンツを見たら、僕らのような昔からの日本のロックンロールバンドファンならみんな必ずどよめくだろう。そう、あの数々の伝説のバンドにいたメンバー達が同じステージに立つのだ。
ずっと村越を好きで、ずっとロックを好きでいてよかった。ずっとロックを聞き続け、ロックバンドのライブに通い続けていたら、こんな昔なら想像もした事もない奇跡のようなメンバーによるライブを現実に見る事もできるのだ。
そんな村越とジークフリートが奏でる日本のロックンロールドリームを是が非でもこの目で目撃する為に赤坂ブリッツ2デイズの初日に行った。
ライブは当然二日間とも完売御礼。客層は女性ファンがいつもより多く見えた。日本のロックンロールレジェンド達を見たいのだろう若いロックファンも大勢いる。2階の一番奥は立見だったがそれ以外は全席椅子席でのライブで、開演までのBGMも古いブルースがずっと流れていたので、今回はもしかしたら座ったままで楽ませるようなシブいライブになるのか?とか思いながら始まるのを待つ。客席全体もメンツがメンツなだけに何となく「どんな感じのライブになるのか」とどこか緊張した雰囲気の中、客電が落ち、まずバックのメンバー達が登場。フジイケンジ、高野勲、そして相変わらずめちゃくちゃスタイルのいいウエノコウジと刺青だらけの中村達也が現れた瞬間にやはり客席がどよめき、ステージに危険な匂いが漂いはじめ、最後に村越がステージに現れると同時に客席は大歓声と共に早くも結局全員が総立ちとなってしまった。カッコいいロックバンドというのはもう出てきた瞬間に会場の雰囲気を全部カッさらって、そこをヤバい空間に一変させてしまうが、まさにその瞬間だった。客席からの大きな歓声に村越はいつものように天を指さし腕を高くあげて応えながらギターを抱え、達也のカウントと共にスライダーズ後期のファンキーなナンバー「Can't Get Enough」からライブをついにスタートさせた。
百戦錬磨のメンバー達の演奏がいきなり一塊のグルーヴを生み出し、客席全体を踊らせ始める。そこに村越のあの太く響き渡る素晴らしい歌声(更に凄みも増してホント絶好調だった)が縦横無尽にノッかっていく。個性派揃いのバンドなので、音を聞くまでは正直どうなる事かと思っていたが、そこに現れたのはまさに「新たな本物のロックンロール」のその姿だった。
オープニングからいきなり驚かされたのはメンバー全員がコーラスを入れてきた事だ(達也もマイクは通してないがずっと歌ってた)。村越は実はソロになってからのごく初期以降、バンドでもユニットでもJOY-POPSの土屋公平以外ずっとコーラスは入れていないのだが、いきなりメンバー全員コーラスで村越に絡んできたので、これにはかなり意表を突かれたのと同時に、メンバー全員が楽しんでるという事と、何よりも「ああ、ハリーは今本当に自由自在なんだな...」というのを強く感じた。
村越のソロナンバーの数々と共にスライダーズのナンバーも次々とプレイされていく。この日ライブを見た多くの村越ファン達もきっと同じ事を感じたと思うが、ソロ曲もスライダーズ曲も、このジークフリートの演奏により、全てがまるで「新曲」のように聞こえた。アレンジをそんな変えてる訳でもないのに全部の楽曲が新鮮で新たな楽曲のように生まれ変わっていた。改めて「バンドは生き物なのだ」というリアルを目の当たりにし、僕はその演奏を楽しみながらも深く感動していた。
The Birthdayのギタリストで名立たる沢山のアーティスト達のギタープレイもこなしてきたフジイのギターがやはり素晴らしく、ロックンロール、レゲエ、サイケ、バラードなど、村越やスライダーズのどの楽曲にも完璧かつ愛の溢れる仕事をこなしていた。
同じく数多くのアーティストやバンドのサポートやプロデュースをこなすキーボードの高野も4人の楽器の音と村越の歌声の隙間をのびやかに自然に埋め演奏に華を添えていた。高野がメンバー紹介の時に村越に「バンマス」と紹介されたのを見て、僕は「ああ、やはりそうだったか」と思った。こんなコワモテの猛獣のようなメンバー達の並ぶステージをその演奏やコーラスやパフォーマンスで明るく彩っていたのが高野だったので、彼が今回のジークフリートを自然と引っ張っていったんだなという事に凄く納得できた。
ウエノは今までの村越のバンドには全くいなかった全然違うタイプのベーシストなのだが逆にそこがとても新鮮で、そのロックなルックスも手伝ってバンドにアグレッシブでカッコいい雰囲気を作りだしていて、村越のライブの昔からの常連達もウエノのその太くてゴツゴツした大きな蛇がステージをずっとうねり歩いてるようなベースの音とプレイパフォーマンスに圧倒されていた。
そしてドラムの中村達也だが、村越ファンは村越がドラムに対して昔から強いこだわりを持つ事を知っているので、このテクニック的にもキャラクター的にも日本を代表する屈指のドラマーでなおかつインプロヴィゼーション(即興)もガンガン入れてくる達也と村越が果たして本当に馬が合うのかが実は僕も個人的にも一番気になってドキドキしてたんだが、これがもう信じられない位に相性バッチリで、二人がきっとその精神的な部分でここにきて見事につながったというか、元々つながっていた二人というか、村越も達也も時に笑顔を交わし合いながら本当に楽しそうにその瞬間にしか生まれないグルーヴを作り出していた。
ライブが後半に差しかかり、スライダーズの「VELVET SKY」から「カメレオン」と怒涛のスライダーズナンバーのオンパレードが突如始り、昔からのオールドファンが一気に沸き立つ。そしてその後、スライダーズの代表曲でもある「のら犬にさえなれない」がおもむろに始まり会場全体がざわめいた。このいつもラストとかに披露する最も重要とも言える曲をここに持ってきたところに村越の解き放たれた気分と、今回のジークフリートのメンバーに対しての信頼と愛情を見ててひしひしと感じた。
その後もスライダーズの人気ナンバーの数々がこのメンバーにより新しく生まれ変わりながら惜しみなく次々と披露されていく。僕も途中マジでレポートするのを忘れてしまう位興奮してしまい、まるで10代の頃のように踊りまくってしまい盛り上がってしまっていた。
その怒涛のスライダーズナンバーのオンパレードでライブが終わり、メンバーがステージを去った後、興奮のるつぼと化していた客席全体からアンコールでなんと「ハリー!ハリー!」というハリーコールの大合唱が自然に巻き起こった。クールなファンが多い村越のライブでこんなエモいハリーコールの大合唱が起きるのを見たのは初めてだったので驚いた。新旧のお客さん達みんなが僕と同じくこのHarry and The Siegfriedというメンバー達がまた新たに生みだしたロックンロールの演奏に10代の頃のようなエキサイティングな気持ちになってしまい盛り上がっていたのだ。
そんな大合唱に呼ばれメンバー達は再び登場し、ソロ曲「サイレントノイローゼ」を披露し、最後にスライダーズ時代からのライブでのテッパン曲「BUN BUN」で、村越も両腕を飛行機の羽根のようにブンブンと揺らせるパフォーマンスで会場全体を盛り上げまくり、この最高のライブは終了した。
ステージを去る前に村越からJOY-POPSが3月から再び全国ツアーをする事が緊急告知され客席から悲鳴のような大歓声が上がる中、村越は最後にカーテンの袖口で自信に満ち溢れたようなピースサインと笑顔を見せステージを去って行った。
ライブが終わってから、村越が今回のメンバー達を神話に出てくる戦士の事である「ジークフリート」と名付けた理由が分ったような気がした。ライブを見てて途中から僕の気持ちも馴染みの村越ソロナンバーやスライダーズナンバーもイントロが鳴った時点で「この曲をこの5人でやると一体どうなるんだろう」というワクワクドキドキの期待感に変わっていき、日本のロックンロールの最高の通過点を目の前で目撃しているような気分になっていた。何とか今後もまたチャンスがあればこのメンバーでのライブをやってほしいと心から思ったライブだった。
そんな戦士達とまた新たなロックンロールを生み出した村越は、この刺激を兼ね備えたまま、すぐに土屋公平とJOY-POPSを再び始動する。
今年も年始早々アグレッシブで展開予想不可能な村越に一体何が起きるのか。
ああ、ヤバい。またドキドキしてきた。
SET LIST
01. Can't Get Enough
02. RUN SILENT, RUN DEEP
03. 今はこれでいいさ
04. Ready To Go
05. おけら人間もどき
06. 万引き小僧
07. King Bee Buzzin’
08. TIME IS EVERYTHING TO ME
09. Still Crazy
10. Baby, 途方に暮れてるのさ
11. VELVET SKY
12. カメレオン
13. のら犬にさえなれない
14. Baby,Don’t Worry
15. Back To Back
16. Let’s go down the street
17. Angel Duster
18. TOKYO JUNK
ENCORE
01. サイレンノイローゼ
02. Bun Bun