HYDE ACOUSTIC CONCERT 2019 黑ミサ BIRTHDAY -TOKYO-
2019年1月23日(水)幕張メッセイベントホール
HYDEがアコースティックコンサート<HYDE ACOUSTIC CONCERT 2019 黑ミサ BIRTHDAY>を1月23日、24日に千葉・幕張メッセイベントホール、29日、30日に和歌山・和歌山ビッグホエールで開催した。ここでは、その初日となった1月23日、幕張メッセイベントホールで行なわれたコンサートの模様をお届けしよう。
L’Arc-en-CielでもVAMPSでもHYDEでも、ステージでは常に唯一無二の神々しい存在感で観るものを圧倒してきたHYDEが、舞台上で泣くのをこらえようともがき、あがいている。ステージに立つ彼の表情、仕草、歌、MCからはHYDEというひとりの男がこれまで背負ってきた音楽人生の紆余曲折や、それをともに過ごしてきたファンを想う温かい気持ちがストレートに伝わってきて、胸の奥が締めつけられた。ここまで人間味あふれる自分を開放したHYDEの生々しいライヴを観たのは、今回が初めてかもしれない。
会場に入ると、この公演のドレスコードである“スマートカジュアル”で着飾ったオーディエンスが静かに椅子に着席。賛美歌が流れるなか、無数のキャンドルの炎が揺れる舞台とアリーナ前方の床には、レッドカーペットが敷かれ、開演前から場内は厳粛な雰囲気が立ち込めている。6時66分、総勢17名のオーケストラとバンドメンバーが出てきて先にスタンバイ。最後にゆっくりとHYDEが登場すると、ライヴは冒頭から薄暗い会場内にあの退廃的な「JESUS CHRIST」がオーケストラアレンジで響き渡るという、衝撃的なオープニングで開幕。ステージ後方にはアンティーク調の額縁でかたどられた縦長のスクリーンがオープン。「A DROP OF COLOUR」からは舞台に用意されていた椅子に座って歌唱する姿が、画面に映し出される。この日のHYDEは黒い帽子をかぶり、髪の毛をナチュラルなウェーブにセット。それを着席スタイルでじっと見つめるオーディエンスたち。静謐で厳かな空間に“黑ミサ”ならではの緊張感がはりつめていく。
序盤、HYDEが“今回は<BIRTHDAY>ということで、これまでの音楽人生を振り返って、僕が歌いたい曲を歌います。永遠と暗い曲が続きますけど(笑)、覚悟して最後までご覧になってください”と本公演について説明したあとは、自身の音楽ヒストリーに想いを重ねながらHYDE、L’Arc-en-Ciel、VAMPSの曲を次々とアクト。“ロンドンの暗〜い空の下でレコーディングしました”と言って歌い出した「EVERGREEN」は、HYDEのソロのはじまりとなったメモリアルな楽曲だ。歌詞の世界観をつなぐように続けて「SHALLOW SLEEP」を歌い出すと、HYDEの目が潤み出し、ソフトな低音ヴォイスが喉につかえる。歌い終えたHYDEはマイクの先を右肩にちょこんと乗せ、はにかむようにうつむいた。なめらかなミックスヴォイス、ファルセットを巧みに使って歌ったglobeのカバー曲「DEPARTURES」は、最後の絶唱で観客を魅了。この曲は“メロディは変わらずにコードだけが変わっていくイントロがKen(L’Arc-en-Ciel)ちゃんが作る曲に似てるねって伝えたら、Kenちゃんはまんざらでもないって顔してた(笑)”と微笑ましいエピソードを公開してファンを喜ばせた。
“京都に遊びに行ったときに鼻歌で作って。最終的には「日本」がテーマになりました”という曲紹介で始まった新曲「ZIPANG」は、日本の美しい四季折々の風景を文語調で綴った歌詞が斬新だった。海外ライヴが多いHYDEだからこそ生まれたナンバーでもあるのだろう。そこから、弦楽器の音がどんどん重なり、ドラマティックなイントロを奏でるなか、HYDEが椅子から立ち上がる。音が消えたあと、彼がラルクのときと同じようにアカペラで「叙情詩」を歌い出した瞬間、客席からため息がもれた。ここからはラルクナンバーを3連発。ラルクの楽曲を歌唱し出すと、歌がドームクラスのスケールと奥行きを持ち出すところがHYDEのすごみだ。この曲ではサビの後半、ストリングスが一斉に歌と同じメロディを奏で出すと、それをも凌駕するスケール感ある歌を重ね、場内を高揚させていった。続けて懐かしの「LORELEY」が始まると、イントロでHYDEがサックスを吹くパフォーマンスも再現。これには客席のあちこちから喜びの歓声が漏れ、場内がざわついた。そして、もっと懐かしい「In the Air」はボッサアレンジで大人っぽくオシャレなナンバーに生まれ変わって登場。
HYDEはこのあと、今日は始まりから泣きそうになり、涙を我慢するあまり歌っている途中に鼻が鳴ってしまったことを正直に話し“それが自分でも面白くて。さすがにみんな絶対気づいてるんだろうなって思うと悲しいんだか面白いんだか(笑)”と言いながらステージでひとりクスクスと笑いが止まらなくなる。そうして、今日からBIRTHDAYウィークに入ったことを自ら宣言すると、ピアノの演奏が始まり、それに合わせてオーディエンスがバースデーソングを大合唱。HYDEはスタッフが運んできたケーキにガブリとかじりつき、お茶目な表情をうかべる。誕生日について“この年になると、年をとるのが嫌だと感じる方もいらっしゃいますけど。本来は1年生きてこられたというお祝いの日なので、僕は喜んで迎えたいと思います”とファンに伝えた。
そして、次はラルクの代表曲のひとつである「flower」へ。“ウィキペディアを見たら(そういうものをチェックしていること自体に客席がざわつく!)、当時「この曲が売れなきゃ嘘だ」って書いてあったけど、そんなこと言ってたっけと思って。当時は好きじゃなかったけど、最近すごく好きになりました”という衝撃発言(!?)に続いて、バラードアレンジを施した「flower」をゆったりと伸びやかな歌声で歌唱。クラシカルな「Red Swan」(YOSHIKI feat.HYDE名義でシングル発売したアニメ『進撃の巨人Season 3』OPテーマ曲)に続いて、VAMPS の果てしなくせつない世界観が凝縮された「VAMPIRE’S LOVE」が始まると、HYDEは一輪のバラを手に、聴き手の心を揺さぶるエモーショナルな歌を響かせていった。この曲について“誰も死んでないのに死んだ気になってすごく悲しいんです”というコメントを届けたあとは、唐突に“人って、こんなに長く生きられるんだから、肉体ってすごいなと思います”としみじみ語り出した。ここでHYDEは、年末から体調をくずしていたことを告白。“ラルクの(<L’Arc-en-Ciel LIVE 2018 L’ArChristmas>の)ときは、寿命が縮まった。いきなり声が出なくなったんですよ”という発言でファンを驚かせながらも“いまはすっかりよくなりました”という言葉が笑顔で伝えられると、客席は安堵の表情に包まれ、思わず拍手がわきおこった。
このあとは再びラルクナンバーを4曲続けて披露。yukihiroに歌い出しのギターリフを聴かせたら“いいんじゃない”と言われ、急ピッチで曲を完成させた結果シングルにもなり“作ったときから良い曲ができたと思った”という「HONEY」では、ボッサアレンジに乗せて甘くスイートな方向に振り切った歌を。パーカッショニストが叩くタンバリンから「X X X」が始まると、ここではHYDEが妖艶な歌声と色気を全開放。カメラ目線で歌う“KISS”でオーディエンスを一撃したあとは、場内に波の音が鳴り響き、マーチングドラムに迎えられ「forbidden lover」で緊迫した荘厳な歌で別世界へと連れ出していく。そうして「永遠」では満場の観客を包容力あるやさしい歌声で包んでみせた。
“もうあと2曲で終わりです”。そう言ったあと、HYDEはマイクのコードのねじれを直したり、膝を撫でたり、落ち着きがなくなる。“ちょっとね。まいったな……。次の曲歌う自信がない。思いのほか高まっちゃって。ちょっと休憩しててください”と告げたあと、HYDEは観客に背中を向けて、手をブラブラ。その場でぴょんぴょんジャンプしたり、しゃがみこんで体をほぐしたあと“えっとね、頑張ります”というのを何度もくり返し、コンサートを再開。“次の曲はすごくこのコンサートに歌詞がぴったりな曲なので、選んだんですけど”と話すと、また泣きそうになる。こんなHYDEはいままで見たことがない。何度も“ふぅー”と息を吐き、“よし。じゃあ頑張ります”と言って歌い出したのはVAMPSの「MEMORIES」だった。HYDEの瞳からは美しい涙の結晶が溢れ出し、そこで歌われる歌詞と歌声に、ファンも涙を流す。歌い終わると客席に背中を向け、そっと涙をぬぐうHYDE。
“はぁ。なんとか歌えました”と語る声は、あきらかに鼻声だった。“みんなといろんな時代を作ってきて。そういうのが歌詞と合ってるなと思ってね”と言ったあとも、ハハっと笑って涙を我慢するHYDE。そんな人間味あふれるHYDEを愛おしそうに見つめるオーディエンスたち。“最後(の曲)はみんなで照らしてください”というHYDEからの提案で、オーディエンスがスマホのライトを掲げる。“この半世紀、すっごくいろんなことがありました。いいこともいっぱいあったし、悪いこともいっぱいあった。それでも、ここまで続けてこられたのはみんながいたから”。そう言ったあと、HYDEは珍しく自分のファンのことを自慢げに語り出す。“いろんな人がいます。ライヴで「ウァー」って髪振り乱して盛り上がってるヤツもいるし、なに笑ってんだよってヤツもいるし。あとね、ネットで僕の悪口に対して戦ってくれる頼もしい人、いるよね(微笑)。「そうそう! 頑張れ」って思うこともあるし。あと、似顔絵! すっげーウマいやつもいるけど、すっげー下手なの送ってくるヤツもいて。よく送ってくるなって思うんですけど(笑)。そうやってイラストを描いてくれる人がいたり。あとは、同い年の子や若い子、おばあちゃんたちのなかには、毎年僕の誕生日を勝手に祝ってくれる人もいて。勝手にケーキ作って勝手に祝って盛り上がってる人とか(笑)。世界中、日本中、いろんなところで僕の誕生日を祝ってくれてて。メッセージや手紙をくれたり、ケーキ作って友達とお祝いしてくれた写真を送ってくれたり。僕はそういう愛すべき人に支えられて、今日を迎えられました。僕にとって、そういうみなさんの気持ちが最高のプレゼントです。来てくれてありがとうございました”と頭を下げるHYDE。“自分たちのこと、存在をこんなにも見てくれていたんだ”と感動したファンが、今度は場内のあちこちで鼻をすすり出す。最後に“年をとって、目が覚めたら争いが終わってたらいいなという思いを込めて歌います”というコメントに続けて、「星空」を届けたHYDE。
ステージ上も客席も涙でぐっしょりになってしまった今回の黑ミサ。それでも、HYDEがステージを去ったあとも客席の拍手は鳴り止まなかった。オーディエンスのスタンディングオベーションに応えて、再び舞台へ戻り“これからもよろしくお願いします。一緒に歩んで行きましょう”といって深々と頭を下げたHYDEに、オーディエンスは“分かったよ”と返事をする代わりに、惜しみない拍手喝采を送り続けたのだった。
HYDEはこのあと2月6日に本公演でもパフォーマンスした新曲「ZIPANG」をHYDE feat.YOSHIKI名義でリリース。3月20日には人気アクションゲーム『デビル メイ クライ 5』のイメージソングとなる「MAD QUALIA」を発売することも決まっている。そうして、3月23日、24日はZepp Tokyoでのソロ公演、5月からはIn This Momentのツアーに参加して海外での音楽活動もスタート。国内ツアーはどうなるのか、ニューアルバム発売はいつになるのかなど、この後もまだまだHYDEから目が離せない。
SET LIST
01. JESUS CHRIST
02. A DROP OF COLOUR
03. EVERGREEN
04. SHALLOW SLEEP
05. DEPARTURES
06. ZIPANG
07. 叙情詩
08. LORELEY
09. In the Air
10. flower
11. Red Swan
12. VAMPIRE’S LOVE
13. HONEY
14. X X X
15. forbidden lover
16. 永遠
17. MEMORIES
18. 星空