夏木マリと斉藤ノヴが進めている、途上国の子供たちと、働く女性たちを支援する「One of Loveプロジェクト」は、その活動の一環として、毎年「世界音楽の日」である6月21日にGIGを行っているが、今年は東日本大震災から5年ということもあり夏木マリ、華原朋美、シシド・カフカ、土屋アンナ、LiLiCoの5人のコーラスユニット「and ROSEs」を結成。ゴスペラーズ安岡 優の曲提供&プロデュースで「紅のプロローグ」を6月8日にリリースする。このプロジェクトの成り立ちから今年の6月21日のことまでうかがった。
インタビュー/兵庫慎司
撮影/近藤宏一
──そもそも最初は、夏木さんがおひとりで支援を行っておられたんですよね。
夏木 はい。知らない3つの国の子どもたちに、団体を通して支援していたんですね。エルサルバドルとエチオピアとバングラデシュ。その子たちに会いたいと思うようになった頃に斉藤と知り合って、楽器を持って音楽の旅をしようということになりました。色々視察をした結果、斉藤と友人たちと一緒に「One of Loveプロジェクト」を立ち上げました。
斉藤 僕も色々思うところがあり……。
夏木 それで話し合って動き出したんですけど、2011年に東北の震災があって…私たちが支援したパソコンで震災のことを知り、3月12日にそのパソコンで支援先の彼らがメールをくれたんです。『私たちの支援どころじゃないでしょう、今は東北を支援してください』と。私たちが初年度に寄贈したパソコンで、字が読めなかった彼らが、1年間勉強して字が読めるようになり、メールをくれたということが、私たちにとっては意味がありました。今回の「紅のプロローグ」は、震災から5年となり、東北への復興の想いを届けたい、ということで創りました。
──これだけ活動を続けてきたことで、わかってきたことなどはありますか?
夏木 たとえば、歌を歌う時は、自分のメッセージを伝えたいと思って歌うでしょ。こういう活動もそれと同じで、本当に自分の心をちゃんと伝えないと、人は動いてくれないんだな、っていう。形は違うんだけど、歌と一緒だなあと思っていてね。形だけでやっていたら、誰もついてきてくれないので。本当に、あの子供たちがひとりでも多く元気でいて、いい将来を迎えられたらいいなあ、という思いが私を動かしているんだと思うんですけど、それをみなさんにお伝えするのが、私とノヴさんなんです。「One of Loveプロジェクト」に参加してくれるアーティストも、増えてきて──。
斉藤 ありがたいよね。そこで、自分たちでちゃんとアーティストの方々に説明するようにしていて。事務所マターじゃなくて。間に人が入ったり、ものが入ったりすると、その分、透明感がなくなるわけです。僕らがちゃんと、納得してもらえるまでお話しして、というのは心がけていますね。そうするとすごく伝わるというか。それがうれしいですね。
夏木 だから、「One of Loveプロジェクト」をスタートしたことで、自分たちがすごく勉強しましたね。社会の勉強とか、世の中のこととか、海外のこととか、教育のこととか。勉強させていただいている、それがすごくありがたいな、と思っていますね。
──毎年6月21日に「One of Loveプロジェクト」のGIGをやっておられますが、過去に出演されたヴォーカリストでこのシングル「紅のプロローグ」を作られたんですよね。
夏木 はい、2013年に参加してくれた4人と、and ROSEsというユニットを結成したんです。この4人の女性アーティストの歌を聴いて、彼女たちと本気でハーモニーをしたら、何か大きな力になるんじゃないかな、と考えて。それで、ゴスペラーズの安岡 優さんに曲を書いていただいて。
──レコーディングはいかがでした?
夏木 安岡さん、すごくディレクションが上手ですね。
斉藤 ボーカルのね。
夏木 私たちは、コーラスっていうとハモるようなイメージがあったんですけど、『全員がメインです。それぞれがソロを歌うように歌ってください。それが5つ集まった時に、力強い、いい歌になるから』と。ゴスペラーズもそうなんですって。だから、全員がワンコーラス全部歌ってみて、誰がどこを歌うか、オーディションしてもらって。自分のメロディのようにコーラスを歌って、それがハモりになるという、そういうやりかたで。最初はみんな不安だったみたいで、『コーラスなんてできない』とか言ってたんですけど、最終的には楽しく終わって、力強いものができて。安岡さん、最高でした。
──ノヴさんはプロデュースには関わらず?
斉藤 はい、彼にまかせたので。『ああ、ディレクション、うまいなあ』と思いましたね。それでサウンド的にも、なるべく5人のハーモニーがきこえるように、あまり楽器の音を入れず、本当にシンプルに……この「One of Loveプロジェクト」を立ち上げた時の最初のメンバー、ichiroと、チャボ(仲井戸“CHABO”麗市)と僕の3人だけで、オケを作って。5人のハーモニーが、コード感だとかメロディだとかになるように、という意向を伝えてお願いして、僕らはいちプレイヤーとして参加して。そしたらすごくいい感じになったので。最後の歌入れが終わった時は、もう拍手でしたね。
──これはいつレコーディングしたんですか?
夏木 私のアルバム「朝はりんごを食べなさい」(4月13日リリース)のレコーディングよりも前なんですよ。去年の年末に録って、1月にトラックダウン。
斉藤 みなさん、スケジュールを合わせるの大変ですからね。
夏木 奇跡的に合わないんですよね(笑)。あのメンバーを全員揃えようと思うと、大変ですよね。
斉藤 だから早めにお願いして、やっとスケジュールが取れて。でもそこでみなさん、やっぱり『ちゃんと前もって練習してからレコーディングしたい』というのがあるから。だから、曲ができて、オケができて、メロディができてからちょっと時間をとって、それからひとりずつレコーディングに入っていった感じでしたね。
──じゃあライブも……6月21日じゃなきゃいけないわけじゃないですか? そこに全員に揃ってもらう、というのは、大変でした?
夏木 いや、揃います、揃います。毎年その日はもう、みんな空けてくれてますからね。『一生続くよ』って言ってありますから(笑)
──今年の6月21日はどんな感じですか?
夏木 今年もメンバーがすごいですよ。もちろんゴスペラーズも参加してくれるし、and ROSEs、BRAHMANのTOSHI-LOWも。
斉藤 我々のバンドでひとりずつ何曲か歌って、and ROSEsも集まって、ゴスペラーズも出てくれて……っていう構成です。もう、楽しみです。
──で、このand ROSEsの「紅のプロローグ」のレコーディングをして、そのあとすぐ夏木さんの「朝はりんごを食べなさい」をレコーディングして、そのリリース・ツアーに出て……あ、ドラマの撮影もありましたよね?(TBS金曜ドラマ「私結婚できないんじゃなくて、しないんです」出演中。 4月~6月放映)
夏木 ああ、そうですね。
──あの、夏木さんもノヴさんもですけど、年齡を重ねるごとに、仕事とか活動の総量が、どんどん増えていってません?
夏木 そうなんですよ。
斉藤 そうなんですよね
──失礼ですけど、だんだん減らしていってもいい年齡ですよね。
夏木 それがイヤなんですよ。年齡は記号だ、っていつも言ってるんだけど。この年齡だから仕事を減らしていく、っていう考え方がよくわかんないんですよ、私はね。年齡を重ねると声が出なくなるとかよくきくんだけど、年齡を重ねた方が声が出るんですよね、私の場合。だから自分では、今がいちばん音楽の旬だと思ってるんだけど、自分では。去年からライブハウス・ツアーも始めたし。時間がない、体力がないという現実はあるんですけど、確かに分量は増えてますね。
──サイクルってあるんですか?
夏木 私の個人的な中では、春から6月21日までは歌で、年の後半は自分の舞台、「印象派」をやったり、ドラマをやったり、っていうのが理想なんですけど。ただ、ドラマや映画は、いただく仕事なのでね、あんまり自分のペースでは進まないので。だから、時期が歌とかぶる時もありますね。それは確かに大変ですけど。できれば1年中歌だけ歌っていたいんですけど。個人的な夢はそうです……そんなこと言ってると、ドラマの人たちに怒られちゃうけど(笑)。でも、誤解を恐れずに言えばね。自分の舞台と「One of Loveプロジェクト」と歌、その3つを共有するのが理想ですね。
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→http://www.oneoflove.org/interview.html