デビュー25周年の米倉利紀が明かした「音楽、歌人生の表と裏」

──このツアーはニューアルバム『smoky rich』を引っさげて開催したものでしたけど。こうして新しいアルバム、ツアーを更新し続けていることもすごいことだと思うんですよ。

変な表現ですが、僕の中で朝起きて寝るのとあまり変わらないんですよ。（笑）もちろん大変ですよ？　でも、人間って起きるし寝るし、疲れたら休憩するじゃないですか？　僕の中でそういったリズムと音楽活動が似ているんです。実際、活動を休憩した時期もありましたしね。根底にあるのはそんな感じ。十分寝たなと思ったら自然と目が覚めて起きるでしょ？　いい感じに心の中に思いがつまってきたなと思ったら曲を書く。そんな感じなんです。

──それでも毎回違う作品が生まれてくる。

いろんなジャンルの音楽に興味があります。様々なジャンルの音楽に自分の声や心を乗せることの楽しさ。ただ、それは僕にとって音楽という“洋服”でしかないんです。何をやっても米倉利紀ですから。

──なるほど！

だからと言ってその洋服がなんでもいいとは思ってはいなくて、“今日、必要な洋服”を選ぶというように、音楽のジャンル選びも“求める気持ちに正直に”というのが拘りです。なので、アルバムのコンセプトとライブのコンセプトはいつも同一。アルバムのレコーディングに行くときの気持ちも、ライブ会場に行くときの気持ちも何も変わらない。かっこよくいうと、その日に起こるハプニングを楽しみたいということ。あまり作りすぎたり考えすぎたりしないようにしようと心掛けています。

──だから、歌唱力はあんなにすごいのに、その肩肘張ってないナチュラルさがあるから、リスナーはリラックスした状態で米倉さんの歌に入り込めるでしょうね。

例えばツアー中、レコーディング中はもちろん風邪ひかないようにとか、本番前に声を無駄に使いすぎない。そんなことは当然のこと。それらのことを僕は無理なく普段からやっているから、直前に気張る必要がないんでしょうね。

──あー。米倉さんのナチュラルさもまた、先ほどの大変さの上に楽しさがあるのと同じ構造なんですね。

良そうですね。話が大きく飛ぶかもしれませんが、僕は家の中の水回りをめちゃくちゃ綺麗にしているんですよ。キッチン、洗面所、シャワールーム。水を使ったあとは必ず水滴を拭き取るんです。なんでそんな面倒なことを毎回やるかというと、大掃除が面倒くさいから。（笑）大掃除で2〜3時間かけるよりも1分にも満たないことを毎日コツコツやる方が僕はいい、楽。僕の歌に対する考え方も、本番前に楽屋に一人閉じ篭って集中する時間を作らなきゃいけないという心の負担よりも、普段から出来る小さな積み重ねでステージに立つ自分を作っています。普段からの体力作りもそうですね。

──つまり、日々コツコツのほうが自分には向いてるからこそ、こういう米倉さんの歌人生のスタイルが生まれたんですね。

そう考えると、25年歌い続けられたことと、毎日水回りを綺麗にしていくことはとても近い気がしてきました（微笑）。“いつもの心掛け”が僕の性には合ってるんだと思います。もちろん、いまやってるライブの規模を大きくしたいという目標は持っていますよ？　でも、そんなことで無理をして疲れるよりも、日々の積み重ねや頑張りの方が100倍心の充実感がある。無理はしない。

──米倉さん、ライブはお好きですか？

好きで嫌いです（微笑）。＜“smoky rich”/“extra smoky rich”ツアー>は約4ヶ月間あったんですが、例えばその間、風邪をひかないようにすることも大変なことですしね。“そろそろ暑くなってきたな、パンツ1丁で寝たいな”と思っても、ホテルのエアコンは切らなきゃいけない。冬でも暖房は切って厚着して寝なきゃいけない。そういう小さな大変さがたくさんあります。でも、ステージに出ていって、最初の第一声で会場の空気を変えられたり、お客様の表情がどんどん変わっていったり、帰るときにお客さんが「楽しかった」って笑顔で会場を後にされている話をスタッフから聞くと、やっぱりライブって最高！！　大好きですね（笑）

──では最後に。よくこれも皆さんから聞かれる質問だと思うんですが。「どうやったら米倉さんのように歌が上手くなりますか？」と聞かれたとき、米倉さんはどんな風に応えてらっしゃるんですか？

いつも僕がいうのは、どれだけ歌を愛せているかというのと、もう一つは心次第。何を伝えたいかということ。技術が必要なのはプロとして当然のことなのですが、それ以上に心模様を感じることが出来る声を大切にすること。人と人とのコミュニケーションもそうですもんね？　何を伝えたいかが明確じゃないと、ただ喋ってるだけになってしまう。歌うときの原動力になる心を大切にすること。技術の始まりも心だと僕は思ってます。上手くなりたいと思う心があるから上達する。上達がゴールではない。伝えたい心、想いが声になる。声が裏返らずに、掠れずに上手く歌えることも大事。でも、そんなことに囚われた歌でお客さんの心をふくよかにして帰してあげられるのだろうか？　と疑問に思います。僕はもっと違うところに歌の意味を感じています。

──手ぶらではお客さんを帰らせないというところも、25年間歌い続けてきた歌人生が生み出したスタイルですね。

MCでは初めて僕を観るお客様がドン引きしてしまうのではないか？　とギリギリ。（微笑）それは年齢を重ねて来たあなたたちの経験があるから、想いがあるからこの歌詞を理解できますよね？　ってこと。年齢を重ねることの美しさを伝えられたら僕は幸せです。僕もいいおじさんです（笑）。でも、いいおじさんだから書ける歌詞があり曲があり、この年齢になったからこそ話せること、歌える想いがある。誰だって若くいたいでしょうけど、でもそんなの無理な話。皆、歳を重ねますよ。男も女も歳を重ねればシワはできる。そのシワの温かさをシェアできるくらい大きな器の人間になりたいですよね。僕は年相応に歳を重ねていきたいし、年相応に若くいたいと考えてます。いま44歳、30代後半に見えたらいいかなという程度の頑張りはしたい（微笑）。20代に見られたいというのは無理がある。でも、30代後半なら頑張れるかな？　という程度。（笑）無理をしていない感じでファンのみなさんと音楽を楽しみたい。ライブを見に来ていただいた後、「なんか分かんないけどめっちゃ楽しかったー！」って思ってもらえた時、きっとライブを観る前より5歳は若返ってると思うんです。

──あー、うんうん。たしかにそうですね！！

デビュー当時の19歳に戻るのも無理ですし、永遠に19歳も無理です。（笑）身の丈にあった、地に足のついた若返りを目指したいと思ってます（微笑）

──こちらも米倉さんのライブを観て、5歳若返りを目指したいと思います。

■アルバム『smoky rich』収録曲「SMILE AGAIN」MV