現役を引退後も絶大な人気を誇るフィギュアスケーター、髙橋大輔が初めて氷上ではなく、舞台上でパフォーマンスを披露する。初舞台となるダンスショー『LOVE ON THE FLOOR』で演出・主演を務めるのは、米国の人気プロダンサー、シェリル・バーク。スターが社交ダンス勝負を行うリアリティ番組「Dancing with the Stars」で、指導者として多くのダンス未経験者を優勝に導いてきた彼女のもと、髙橋やクリスティ・ヤマグチら世界のトップスケーターが集結する。6年も前から構想を温めていたというシェリルが語る、本公演のビジョン、そして髙橋に出演をオファーした理由とは──。
フィギュアとダンスの共通点
──本公演のコンセプトは、6年も前に生まれたものだそうですね。
そうなんです。私は4歳からバレエを、11歳から社交ダンスを習ってきて、31歳になる今までずっと、ダンスを通じて自分を表現してきました。つまり私にとって、ダンスは人生そのもの。ダンスショーというと、ダンサーの技術や一つひとつのナンバーをフィーチャーしたものが多いけれど、私は全体を通してひとつのストーリーを伝えるような舞台が創りたい、とずっと思っていました。そのストーリーのテーマを、世界中の人々にとって普遍的な感情である“LOVE”にしよう、と決めたのが2010年のこと。それから今まで、自分自身さまざまな愛を経験しながら構想を温めてきました。それが今回、こうして日本で花開くことになって、信じられないぐらい興奮しています(笑)。
──フィギュアスケーターをキャスティングする、という発想はどこから?
今回出演してくれる4人のスケーターのうち、オリンピック金メダリストでもあるクリスティ・ヤマグチとメリル・デイヴィスは、ともに「Dancing with the Stars」の優勝経験者。メリルとアイスダンスでペアを組んでいるチャーリー・ホワイトも、2014年に5位に輝いています。番組を通じて彼らと知り合い、フィギュアスケートとダンスには多くの共通点があることに気づいて、ぜひ一緒にやりたいと思うようになったんです。もちろん技術的には、ふたつは全く別のもの。私にスケート靴をはかせてもただ転ぶだけですが(笑)、音楽性や優雅さ、そして情熱が大事である点は同じだと思っています。
──でも番組では、シェリルさんはクリスティさんやメリルさんを指導していたわけではなく、言ってみればライバル関係でしたよね…?
そうですね、間接的にではありますが競い合っていました(笑)。クリスティが優勝した時、私が指導していたスターは確か3位で、メリルの時は…ひどい結果だから思い出させないで(笑)。でも当時から、私たちは助け合ってもいたんです。みんな同じスタジオでリハーサルをしていましたから、クリスティやメリルからアドバイスを求められることがよくありましたし、私もいつでも応じていました。彼女たちは私にとって、子どもの頃から憧れていたスターでもありましたから。
──なるほど。では、髙橋大輔さんが参戦されることになった経緯は?
私がずっと彼のファンだったの(笑)。氷上であれだけ素敵なタンゴを踊っていた彼ならきっと、フロアの上でもどんな感情だって表現できるはずだから、ぜひこのショーに出てほしいと思いました。自分が今までやってきたこととは離れた分野での挑戦になるにもかかわらず、オファーを承諾してくれた彼には、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。パフォーマーとして素晴らしいだけでなく、自分の限界を押し広げていこうとするところもまた、彼の大きな魅力ですね。彼は今回のメインキャストのひとりなので、新しい彼の姿を皆さんに観てもらえることを、私自身とても楽しみにしています。
アギレラの振付師も参戦
──髙橋大輔さんとは、既にお話をされたのですか?
ええ、とても素敵な方でしたよ! 彼にとっては新しい挑戦ですから、やはり不安もあるようで、今から準備できることがないか彼のほうから聞いてきてくれました。でも私が伝えたのは、ヨガかピラティスにでも通って体を柔らかくしておいて、ということだけ(笑)。ダンスについては、この作品の振付を通じて学んでいってもらえればいいと思っています。ほかの指導者から習った人に教えるのは、かえって難しくなることがありますから。
──その振付というのはやはり、社交ダンスが中心?
いいえ、そうではないんです。既に出演が決まっているスケーターのほかに、これからオーディションで出演者を決める予定なんですが、社交ダンサーを採用するつもりはありません。コンテンポラリーやジャズなど、いろいろなジャンルのダンサーを集めた上で、皆それぞれが新しいスタイルにも挑戦するようなショーにしたい。振付は、クリスティーナ・アギレラのツアーなどで国際的に活躍している、ジェリー・スロッターとポール・モレンテが手掛けます。私がアメリカでショーをやった時に監修をしてくれたふたりなんですが、出演者一人ひとりをきちんとリスペクトしてくれる人たちですし、経験も豊かなので適任だと思って、公演の実現が決まってすぐに彼らに依頼しました。
──おふたりとは、どのようなコラボレーションになりそうですか?
『LOVE ON THE FLOOR』は、喜び、悲しみ、怒り、不貞…ダンスを通じて、男女間・家族間・友人間のさまざまな愛の形を描く舞台です。単なる振付ショーにはしたくないので、まずは私がストーリーを創って、それを彼らと一緒に振付の形にしていくつもり。その作業は、全ての出演者が決まってからになると思います。一人ひとりに輝いてほしいから、例えば「怒りを感じたり見せたりはしたくない」というメンバーに、そうしたシーンを押しつけるようなことはしたくないんです。キャストが固まり次第、LAでリハーサルに入るので、できれば大輔にも早めに合流してもらいたいですね。
──音楽や衣装については、どんなプランをお持ちなのでしょうか。
何しろ6年前から考えているから、私の頭の中には完璧なビジョンがあるんだけど…観て確かめてほしいから、具体的なことはあんまり言いたくないんですよね(笑)。でもそうですね、音楽に関して言えば、観ている皆さんが自分と関連付けることができるよう、誰もが一度は耳にしたことのある曲を使う予定です。日本の皆さんの好みが知りたくて、実は大輔にも好きな音楽について質問したんですよ。「何でも好き」って言われちゃったので、あまり参考にならなかったんですが(笑)。衣装はストーリーを際立たせるためのものなので、よくある社交ダンスのショーのように、ラインストーンとラメばかりということにはなりません(笑)。全体として、観ていて心地よい舞台にしたいと思っています。
──では最後に、日本の観客にメッセージをお願いします。
私が長年温めてきたショーを、ここ日本で初演できることを本当に光栄に思っています。今後、例えばほかの国で上演することができた時にも、始まりがここ東京だったことは絶対に忘れません。日本は既に、私の心の中の特別な位置を占めていて、まずは日本の皆さんに喜んでいただきたいという思いで今も取り組んでいます。足を運んでいただければ、きっと「また観たい」という気持ちで帰っていただけることと思いますので、ぜひ観にいらしてください。
シェリル・バーク、髙橋大輔よりコメント到着
インタビュー/町田麻子