やっぱりバンド・サウンドを録るべきだなと
──来年は結成20周年ということで、今作はそこに向けて制作されたそうですね?
猪狩翔一(Vo&Gt)はい、それを見据えて作りました。ただ、作品は毎回全力でやっているので、この作品だけ特別にどうこうというわけではないけど、このタイミングで出すものという意識はありました。20周年の総括的なサウンドを目指したけど、歌詞に関してはパーソナルな部分が強くなってますからね。サウンドについては、いままでの総括を意識しました。
──具体的に言うと?
猪狩作品ごとに音像が変わっているし、その都度自分たちのモードが反映されているんですね。「ここを突き詰めたい」、「ここはやり切った」とか、いろんな思いがあるから。今一度自分たちの作品を聴き返して、さらにアップデートしたかったんですよ。
小西悠太(Ba)アレンジやフレーズ作りも「もっとこうすれば良かった」と感じることはあるから。その気持ちを昇華しつつ、今回はそれを上手く作品に落とし込めたなと。
猪狩ここ何年かで過去作の再現ライヴをやっていて、それが制作にもいい方向に働いてますね。当時は当時なりにもがいて、あがいて、今の自分たちでは絶対やらないことをやっているから。過去の自分たちと対峙するというか、その作業は大事だなと。制作とライヴは対極なものだったけど、活動の中でその2つがうまくリンクするようになり、それを今作で落とし込めました。
──なるほど。
猪狩今作は「せーの!」で3人で録ったんですよ。楽器を一緒に鳴らすことで、曲に対して能動的になれるし、その意味でライヴ感も出たのかなと。過去に「せーの!」で録ったこともあったけど、ここ数年は別々で録ることが多かったんです。それはそれで音の分離感も良かったんだけど…今一度3人で録ると、新たな発見がありましたね。雑音って大事だなと(笑)。
──雑音、雑味みたいなものですか?
猪狩うん。「せーの!」で録ると、それぞれのマイクにそれぞれの音が入ったり、それが個々の音の接着剤になるんです。わかってはいたけど、改めてそれが大事なんだなと実感しました。
──それが今作から感じるオーガニックな雰囲気、人間味のある温かさに繋がっている気がします。小西さんはいかがですか?
小西曲を俯瞰で見られるようになりました。別々に録ってしまうと、些細なことも気になるから。3人で録ると、そのままバンドっぽさが出ますからね。1人で録っていたら直していたところも「むしろかっこ良くない?」って。ベースの弦がこすれる音も接着剤になり、3人で録る良さを再認識しましたね。
──今作ではバンド・サウンドを目指したかった?
猪狩それしか目指していなかったかも。それが20周年を意識したポイントかもしれない。バンドしかやってこなかったくせに、バンドじゃないことをやる意味って何かなと(笑)。やっぱりバンド・サウンドを録るべきだなと。間違っていようと、ヘタだろうと、雑味を取り除かないことの価値は考えました。僕の経験上、耳ざわりのいい音は一度聴いたら満足しちゃうんですよ。何か違和感があるものって、何回も聴きたくなる感じがあって。さきほど言っていただいた「オーガニック」という言葉もキーワードにありました。無駄に音を突っ込まなかったり、コンプレッションを必要以上に使わなかったり…凸凹であることを良しとしようと。
──今作から「物云わぬ物怪」が先行シングルとしてリリースされました。これは最初にできた曲なんですか?
猪狩そうなんですけど…これは話すと苦笑いされちゃうんですが、どう作ったのかよく覚えてなくて。デモ音源のファイルを開いたら、ある程度出来上がっていた曲があったんです。でも誰が歌詞を書いたのか、誰が弾いたのか、誰がドラムを打ち込んだのか、記憶に残ってなくて。不思議な曲ではあるけど、アレンジもそのままで録りました。アルバムの中では最初の方にできた曲ですね。
──おそらく猪狩さんが作った曲でしょうけど、自分の記憶から消えていた曲?
猪狩当時いいと思わなくて、そのまま置いていたのかなと。
──その曲がピンと来たきっかけは?
猪狩曲名かな。個人的なことですけど、妖怪に興味を持ち始めたときで、それですかね。
小西はははは。
猪狩字の並びを含めてしっくり来たんですよ。意識すると、いろいろ寄ってくるもので、妖怪をいろいろ調べていたら、ファイルからこういう曲が出てきたから(笑)。僕らFCサイトをやっていて、一つのコンテンツで自分たちが興味があることをやりに行こうと。それで今回はテラリウムを作ろうとなって。小さいガラス容器の中に庭を作るんですけど、教えてくれた講師の方から僕らのベスト・アルバム(『dear,deer』)のジャケは「御射鹿池(みしゃかいけ)ですよね?」と言われて。その池の隣にある森の名前が「もののけの森」と言うんですよ。あっ、これはすごい引きが来ているなと(笑)。
──はははは。「物云わぬ物怪」を聴いたとき、小西さんの印象は?
小西すごく不思議な曲だなと。既にベースも入っていたけど、自分が弾いた記憶がなくて。これ猪狩が弾いたんだっけ?
猪狩だから、それがわからないんだよね。
小西俺も弾いた記憶がないから。当時は本人(猪狩)がほかの曲もあって出さなかったんだろうなと。で、このタイミングで聴くと、アレンジ、フレーズ、曲調にもののけ感があるというか(笑)、ちょっと普通の曲とは違う感じがあるからいいなと。