インタビュー/宮本英夫
【来し方行く末】。きしかたゆくすえ。通りすぎてきた方向と、これから行く方向。かつてないほど率直に過去を振り返り、強い願いをこめて未来を見据える、高橋 優の5thアルバム。喜びも悲しみも、怒りも笑いも、大きな時の流れの中ですべていとおしく思えてくる、これは紛れもなく高橋 優の最新傑作だ。12月からはツアー、2017年4月にはアリーナ公演も決まった。これから行く方向をしっかりと見つめる、その表情に迷いはもうない。
──今回のアルバムは優さんの“素”が見えると思ったんですね。怒るにしても、悲しむにしても、笑うにしても、肩の力が抜けているように感じてます。
そう言ってもらえるとうれしいです。肩の力が抜けてる感じに作りたくて、今の自分をちゃんと楽曲の中に出したくて、めちゃめちゃ悩みましたけどね。出すまでは。今ラジオをやらせてもらっていて、毎週土曜日1時間半の生放送で、全国に放送されてる番組で。片やスペースシャワーTVのほうでは、自分がVJをつとめる番組も始まっていて。元は歌じゃなきゃ自分の思いを表現できないようなタイプの人だった気がするんですけど、歌以外で自分を表現させてもらえる場がすごく増えたことが、この2年間で一番変わったことなので。
──ああ。なるほど。
その戸惑いというんですかね。テレビやラジオで、この人に興味あると思って入ってきてくれた人がいたとして、その人たちにあらためて曲を聴いてくださいとなった時に、毎週ラジオで言ってるようなことと同じ感じの曲を書いても意味ないなと。そこであらためて、じゃあ自分は何を歌いたかったか?ということを、この2年間で一番考えたんですよ。歌にするということを。しゃべりが上手になっちゃったら、しゃべり手になればいいじゃないですか。
──確かにそう。
ラジオ番組って何をしゃべってもいいし、ぶっちゃけとか言えちゃうんで。スペースシャワーTVもそうで、ばんばんしゃべれちゃう。しゃべりが上手じゃなくても許容してもらえるというか。だったらなおさら歌で何を歌えばいいのか?ってなるんですよね。
──ですね。歌がしゃべりに負けちゃしょうがない。
しゃべらせたほうがいいとか言われたら、転職するしかない(笑)。そこで曲作りで苦しんだ部分はありました。
曲を聴いてもらえば、ラジオでもテレビでもない高橋 優がそこにはある。
──それは結局、どういう突破の仕方をしたんですか。
結論から言うと、曲を聴いてもらったらきっとわかるというか。1曲目の「Mr.Complex Man」にしても、起承転結がはっきりしてるわけじゃない。会話としてはめちゃくちゃなんですよ。“自分のことが嫌い”って歌い出して、最後はなんだかわかんないけど“イエ~!!”って叫んでる(笑)。いちおう自分の中で筋は通してるつもりなんですけど、コンプレックスということと、でも叫びたいという思いを、会話でしたらおかしい奴だということになるので。曲作りで面白いなと思ったのは、あらためて自分はちょっと、歌でも歌ってないと変わった部分があるんだなと(笑)
──自覚しましたか(笑)
だからやっぱり歌で表現したいことってあるんだなって、なっていったんですよね。それはどの曲にも言えることで、最後に入ってる「BEAUTIFUL」という楽曲に関しても、語り口調っぽい感じでつらつらと言葉が並ぶんですけど、“君は美しい”というひとことを自分なりに順序立てて表現するのは、曲じゃなきゃできないなと思ったし。日常生活の中で“君は美しい”って上手に言えるようには、永遠にならないだろうし。と思うと、結論を言うと、曲を聴いてもらえば、ラジオでもテレビでもない高橋 優がそこにはあるというふうになっていくんですけども。どの曲も苦しみながら作りましたね。
──それはかなり意外。とてもナチュラルな聴き応えだったので。
うれしいです。でも苦しかったですね。客観的に自分を見ちゃってるというか、これだったら歌じゃなくても表現できるんじゃないか?ということもそうだし、逆に音楽でしかできないことにこだわりすぎちゃって、わざとらしく見られるのも嫌だし、自分がそう思ってるのも嫌だし。自然に出てくる言葉で、肩の力が抜けていて、本当に思っていることをしっかり歌っていくということが、今回は一番難しかったですね。
──でも伝わります。とても。
もともと僕、ラジオでしゃべってもテレビでしゃべっても、ちょっとこじれてるというか、めんどくさい人だなとか言われることがあるんですけど。ひとつの理由として、一個のことに対してすごく深読みしちゃったり、ピンポイントの部分をずーっと見つめてたりするところがあって。今回のアルバムも世間一般の大衆に向けてというよりは、すごくピンポイントを見つめて歌おうという歌が多いんですよね。「拒む君の手を握る」もそうだし。
──そうですね。ワンシーンだけにぐいっとフォーカスしてる。
そういうところにも答えはありましたね。ピンポイントとはいえ、自分の歌詞で歌った時に誰かの風景にもなるというか、誰かが想像した景色と僕が歌ってる景色はみんな違うと思うんですけど、そういうところに面白さがあるなあということにも気づけたので。
──その流れで言うと、特定の個人に向けた曲というのが、いくつかあるじゃないですか。「BEAUTIFUL」もそうだし、「悲しみのない場所」も、「産まれた理由」もそうだし。非常にピンポイントなメッセージだけど、そこを突き詰めると普遍的になるというか。
そこは、そうであってほしいなと思いながら。もしかしたら本当に自分にしかわからない曲が並んじゃう恐れもあったんですけど、無理に誰にでも当てはまる言葉を探すよりも、こうしたほうがいいと思ったので。自分にしかわからない強い気持ちを表に出すほうが、その気持ちだけでも伝わるとちゃんと血が通うというか、そんな気がしたんですよね。
過去の曲なんて書きたいと思わなかったんですね、今までは。でも今は、そういうものにも対応が利くようになった気がしますね。
──あとひとつ、聴いて思ったのは、いろんな時間が詰まったアルバムだなあということですね。「産まれた理由」のように人間の最初の時間から、おばあちゃんのことを歌った「悲しみのない場所」、過去のこと、子供の頃であったり、「明日はきっといい日になる」で歌ってる明日への希望とか、いろんな時間がここにはあると思っていて。それがアルバムタイトルにもつながってると思うんですけども。高橋 優はリアルタイム・シンガーソングライターとデビュー当時は銘打っていましたけど、それがオールタイム・シンガーソングライターになってきたんじゃないか?と。
去年がメジャーデビュー5周年イヤーということで、振り返る時間が長かったんでしょうね。この5年間はどうでした?って聞かれることも多かったし、ベストアルバムを出したり、地元の秋田でフリーライブをやったり、今年も秋田でフェスをやらせてもらったり。「さくらのうた」をリリースした時には地元の中学校の卒業式で、サプライズ・ライブをやらせてもらったり、秋田に帰る機会も多かったので。僕はあんまり自分の過去を“全部あってよかったね”って笑ってしゃべるほうじゃないんですけど、でも否定するのも変だし、きれいに肯定しすぎるのも変だし、そう思いながら過去を見つめることも有りなんじゃないか?と。なんで産まれたんだろうねというのはわからないけど、産まれた時にはこういう会話がなされていたのかもしれないなとか、逆に自分がこれから歩んでいく道の中でまたそういう景色に巡り合えればいいなと思うのであれば、それはきれいごとでもネガティブな発言でもないと思うし。そこでフラットな気持ちで振り返ることができたので、オールタイムみたいな曲にもつながってるんじゃないかと思います。タイトルをつけた所以もそこにあって、『来し方行く末』というのは今まで来た道とこれから行く道という意味なんですけど、過去の曲なんて書きたいと思わなかったんですね、今までは。でも今は、今年の自分は「産まれた理由」も、今年書いた曲で、「悲しみのない場所」も、「さくらのうた」は去年の年末ですけど、自分がそういうものにも対応が利くようになった気がしますね。
ライブでの新しい発見、“言葉を大事にするツアー”に