2022年7月に、全国29本を回るワンマンツアー「VIOLET TOUR 2022」を完走したkoboreが、10月2日に新曲「STRAWBERRY」をデジタルリリースする。同曲はTVアニメ『デジモンゴーストゲーム』のエンディングテーマで、koboreにとって初のアニメタイアップ曲。アニメの世界観と優しいメロディ、硬派なロックサウンドが交錯するkoboreならではのミディアムナンバーに仕上がっている。10月31日からスタートする全国7箇所のライブハウスを回る対バンツアー「HOWLING TOUR 2022」を間近に控える彼らは、現在どんなモードなのだろうか。佐藤 赳(Vo/Gt)と田中そら(Ba)の2名にじっくりと話を訊いた。
──メジャー2ndフルアルバム『Purple』を引っ提げ、2022年4月から7月にかけて全国29箇所で開催された「VIOLET TOUR 2022」はいかがでしたか?
佐藤 赳(Vo/Gt)回りきった後の疲労感はすごかったです(笑)。いつまでこんなことをやっているんだろう?と思う瞬間もあったけど、実際に回り切って俺らにはこれしかなかったんだと思い知りましたね。今はだいぶ制限も緩和されてますけど、あの時期に自分たちのやりたいこと、かっこいいものを信じて、29本あるツアーを1本も飛ばすことなく回りきれたことは、自分たちにとって大きな1歩でした。
田中そら(Ba)ほんと最高なツアーでしたね。もちろんあのスケジュールで回るのは大変なんですけど、忙しくてツラいからこそ気持ちよくなるというか。そういう感覚になるときは結構いいライブになることが多いので、またそんな状態になれるツアーができたらいいなと思います。
佐藤春から夏にかけて、ちょっとずつコロナ禍に対する意識の変化が見えてきたじゃないですか。そのなかで自分たちがどうしたら自分たちの思う“かっこいい”をキープしたままライブを楽しめるか――そこにたどり着いていく過程を、直に自分の目で一つひとつ確認できました。ワンマンだから全部自分たちで決めていく感じとかも、インディーズっぽくていいなあ、インディーズっぽいことやってんなって(笑)。自分たちがフルアルバムのワンマンツアーを主要都市8本ぐらいで終えてたら、“kobore変わっちゃったな”とみんな思うと思うんです。実際にツアーを回りきったことで、自分たちの行動と信念が結びついた気がしてますね。
田中ツアーファイナルの後そのままライブが2日間続いたんですけど、そのライブもすごく気持ちよくて。ツアーの経験を自分たちのものにできた実感がありましたね。でもそれ以降ライブの本数が抑え気味になって、楽しみにしていた夏フェスも台風で中止になっちゃったりで。ツアーの達成感が大きかったぶん、今はライブがない日常に落差を食らってるところです。
佐藤でもあれだけのツアーを回った後なんだから、1ヶ月くらい休むのが普通なんだよ(笑)。観に来てくれる人たちからも“kobore最近ライブ少なすぎじゃない?”という意見がちらほら出ていて……いやいや待てお前ら! koboreはライブやってるほうだぞ!(笑)
──(笑)。
佐藤でもそれは“koboreはずっと全国でライブやってて当たり前”と認識してもらえてるということだから、割とうれしかったですけどね。そうやって言ってくれる人がいる以上、できる限り全国くまなく回りたいと思ってます。今はツアーを回っている最中ではできないことをやったり、秋の「HOWLING TOUR」に向けて整えているところなので、ライブがないのはしんどいな、でもいいリフレッシュになってるなっていう半々ですね。
──その最中にデジタルリリースされるのが、新曲「STRAWBERRY」。TVアニメ『デジモンゴーストゲーム』のエンディングテーマです。kobore初のアニメタイアップとのことですが決定しての心境は?
佐藤やっときたか、と(笑)。
──ははは。念願のアニメタイアップ書き下ろしだったんですね。
田中アニメのテーマソングはずっとやりたかったし、koboreはアニメに合うんじゃないかなとずっと思っていたので、めっちゃうれしいですね。
佐藤アニメタイアップが決まってもおかしくないぐらいのキャッチーさはもともと持ち合わせていたと思うよ?なんで俺らじゃねえんだ!とずっと皮肉言ってました(笑)。僕は漫画が大好きなので、好きな漫画をモチーフに曲を書くことが昔から多いんです。『デジモンゴーストゲーム』の皆さんには「見つけてくれてありがとうございます」っていう気持ちです。すごくうれしいですね。
──アニメもいろいろですが、『デジモン』シリーズは1999年にシリーズ第1作目が放送されてからというもの、子どもたちの休日とともにあるTVアニメですよね。それこそ平成生まれの方々からは、男女問わず『デジモン』の思い出を聞くことが多いです。
佐藤そうそう、そうなんですよね。僕も小学生のときの日曜日の朝の過ごし方は、7時ぐらいに起きてTVをつけて、『デジモン』とその後のアニメの再放送も観て、10時から外に遊びに行くっていうルーティーンがありました。デジモンのぬいぐるみも持ってたし、カードゲームして遊んでました。今回書き下ろすにあたって『デジモンゴーストゲーム』を初回から観たんですけど、僕らの頃の『デジモン』とは全然違ってびっくりしましたね。新しすぎる。
──物語も進化していると。
佐藤キャラクターも可愛いし、物語もしっかり練られていて、みんなが共感できるものになっていて……大人でも楽しめるくらい難しい。だから子どもたちはこれ理解できんのかな?と思ったりもして。でも今の時代を生きている子たちと、僕ら世代が子どもの頃に感じてきたことって、まったく違うと思うんです。今の子たちに「STRAWBERRY」がハマってくれるかちょっと心配なんですけど(笑)、学校で口ずさんでくれたらうれしいなーと思ってますね。
田中デモの時点でめっちゃいい曲だったので、それが活きるアレンジを考えていきました。久しぶりに(伊藤)克起と一緒にベードラのフレーズを考えたのも楽しかったです。“面白いことやれたね”とふたりで話してましたね。
──『デジモンゴーストゲーム』はこれまでもWiennersやBye-Bye-Handの方程式、藍色アポロなどロックバンドがテーマソングを担当しているパターンも多いですが、そちらを踏まえたりもなさったのでしょうか?
佐藤ひと通り作品を観て、ほかのバンドやアーティストさんが書き下ろしてる楽曲は爽やかな感じの曲が多いなという印象を持ちました。だからkoboreでは『デジモンゴーストゲーム』のテーマソングは爽やかというイメージを壊したかったというか、音の質感から違う良さを見せられたらとも思ったんです。ギターの安藤(太一)に“もっと音をひずませろ! みんな爽やかで純粋なんだから、俺らぐらいはひずもうぜ!”と要望を出しました(笑)。
──その結果、いつものkoboreよりもひずんだ音に(笑)。
佐藤音が割れるくらいのごりごりのロックを目指しましたね(笑)。テーマソングの書き下ろしって、自分のなかでは“歌詞”なんです。まず作品に沿った歌詞を書いていくと、それに合うメロディがついてくる。そういう作り方は書き下ろしならではですね。『デジモンゴーストゲーム』で描かれている“目に見えないもの”みたいなテーマに沿っていけたらなと思って書いていったものが、いい具合にはまったかな。アニメの製作サイドさんから特にオーダーもなく、曲に合わせて絵コンテも書いてくださるとのことで、自由に作りました。
──優しいメロディとロックな音のコントラストがkoboreの二面性を実現させていると同時に、可愛らしさとメカ感が共存する『デジモンゴーストゲーム』にも合っていると思います。
佐藤ミドルテンポだといいメロディが作りやすいし、キャッチーな言葉もしっかりはめ込めるんですよね。速い曲はインパクトがあるけど速さに頼っちゃうところもあるし、ミドルテンポでもロックはできるし、今はそんなに速い曲を作らなくてもいいのかなと思ったりもしてます。
──“STRAWBERRY”という言葉が出てきたのにはどんな背景があるのでしょう?
佐藤んー、なんだろう。キャッチーだからですかね。あと子どもってイチゴが好きなイメージがあって。僕自身はイチゴみたいな酸っぱい果物があんまり好きじゃないんですけど、小学校の時に好きだった子からすごいイチゴの匂いがしてたり、ケーキ屋さんになりたいって子もたくさんいたりして、僕のなかで“未成年=イチゴ”のイメージがすごく強いんです。『デジモンゴーストゲーム』は構成がしっかりしていて難しいストーリーだし、今のアニメはすごいなあと驚いたと同時に、甘酸っぱさや甘い匂いを感じて。それを軸に書いていきました。
──わたしが頂いた音源はフルサイズでしたが、アニメサイズだとまた印象も違うのでしょうね。
佐藤そうなんですよ、全然印象が変わるんです。アニメサイズは『デジモンゴーストゲーム』に合う歌詞だけがつままれているから作品に沿った仕上がりになっているし、フルサイズだと2サビとラスサビの間にちょっとした展開が入ってるからそれ以外の視点でも聴こえる。そういうところも楽しんでもらえたらなあ……と思う一方でこういうのは自己満でいいなと思うんですよね。気付いてほしいとは思っていないんです。 “なんかいい!”って直感的に思ってもらえるの超うれしいし、音楽ってそういうものだと思うんですよ。自己満の工夫に気付いてもらえるのも、もちろんうれしいし。感じ方は人それぞれだけど、みんなただただ音楽好きなやつらってだけですよね。
──koboreは制作面において、その時その時の自分たちがやりたいことに自由にチャレンジしているイメージがありますが、その一方で1本しっかりと筋が通っている印象もあって。皆さんのなかに“これはやらない”という線引きもあるのかなと思ったのですが、いかがでしょう?
田中どうなんだろう。“これは嫌だな”みたいなことも全部取っ払って制作してるかもしれない。
佐藤でもやりたくないことはやってないじゃん。“こういうものを書け”と命令されたら“はぁ?”ってなるし(笑)。おっしゃっていただいたとおり、その時その時の自分たちがやりたいものを作ってるだけですね。
田中実際koboreのお客さんもミディアムテンポの曲が好きな人もいれば、速い曲が好きな人もいて、二極化してるのかなと感じるんです。でも自分たちはどっちもやりたくて……というのは今の悩みでもあるんですよね。いろんなジャンルに手を出しすぎると“結局このバンド何がしたいの?”と思われちゃうし、ピアノを入れた曲ならピアノロックバンドを聴けばいいとも思うし……でもジャンルにとらわれずに制作するのがすごく楽しいんです。だからどう思われても別にいいやってなっちゃう。まずいなとは思ってます(笑)。
──いやいや。ただただひたすら制作欲求に忠実に、ということですね。
田中そうですね。もしかしたらマーケティングとか考えると、いろんな音楽に手を出すよりTikTokに力を入れたほうがいいのかもしれないし、MVで踊ったりしたほうがもっとたくさんの人に届くのかもしれない。でもそれをkoboreでやりたいとは思っていないし。
佐藤そういう意味では、koboreは制作以外のところで“これはやらない”がはっきりしてるかもしれないですね。ひとりでも納得していないことはやってない。ツアーグッズひとつ取ってもちゃんと意見は言うし、それ以外の活動においても“これならこっちのほうが良くないですか”と話し合ったり、高頻度でミーティングはしてるかな。たとえば今ならライブをネットで配信することが主流になっているけど、スタッフさんから“koboreでもライブを配信しよう”と言われたことがなくて。
田中“提案してもやらないって言うだろうな”とわかってくれている……というか諦められてるんだろうね(笑)
佐藤頑固だからいくら言っても無駄とは思われてるね(笑)。だからやると決めたことにはちゃんと筋を通してるつもりではありますね。さっきそらが“いろんなものに手出しすぎてまずい”と言ってたけど、もう今更だよ(笑)。対バンだってジャンル問わず好きな人たちを呼んでるし、俺らはそもそも“好き”って気持ちから物事が始まっていく人間なんだから。だから制作でも動き方でも何より大事なのは“koboreが何をしたいのか”がちゃんと見えることですよね。
──たしかに。そうですね。
佐藤自分で納得して決めたものを批判されるなら、その意見も自分なりに消化できると思うんです。でもやりたくないことやって批判されたら“やっぱそうだよね”と思うだろうし、そんな自分のダサさに悲しくなっちゃうと思う。配信ライブをやらないと決めたからにはライブをめっちゃやりたいし、みんなが会場に来てくれるようなライブをやりたい。プラス今は、配信ライブをやってみんなに観てもらうより、俺らがみんなに会いに行った方が話早くね?っていうところにたどり着いたんですよね。
田中もちろんもっとおっきいステージ立てるバンドになりたい欲はあるけど、曲を作る動機がそれになるのはちょっと違うというか。結局自由な制作がしたいという思いが勝ってますね。でも親をラクさせたいし、お金も大事なのでそこが悩みどころです(笑)。