埼玉発のミュージック&カルチャーフェス『ぐるぐるTOIRO 2016』が、12月10日・11日の2日間にわたって<さいたまスーパーアリーナTOIRO>にて開催される。
都市型フェス黎明期から異彩を放ってきた『ぐるぐる~』だが、その代表である川瀬拓さんにインタビューを依頼したところ、「普通の内容じゃ面白くない」ということで、“ぐるぐると縁が深いアーティスト”との対談形式で行うことが決定。そこで川瀬さんに提案していただいた対談相手は、今なにかと話題のラッパー、DOTAMAさん!
これまで5度出演しているという、まさに『ぐるぐる~』シリーズとともにキャリアを築いてきたとも言えるDOTAMAさん。今回は川瀬さんと共に『ぐるぐる~』の変遷を辿りつつ、過去出演時のエピソードや今年の展望、さらに現在のヒップホップシーンや、社会現象と言っても過言ではないムーブメントを巻き起こしている「フリースタイルダンジョン」に至るまで、ざっくばらんに語ってもらったので、前後編に分けてお届けする。
TEXT&PHOTO:有賀 誠文(Captain And Me Inc.)
『ぐるぐるTOIRO』代表・川瀬拓×ラッパー・DOTAMA対談[前編]
「もうラップを辞めてもいい」ワンマン公演ですべてを出し切ったDOTAMAに声をかけた『ぐるぐる』
川瀬 DOTAMAさんにはぐるぐるTOIRO2015年にも出てもらいました。
DOTAMA 僕、去年出させていただいたのが本当に嬉しくて。その年の8月にアルバムを出して、活動10数年で初のワンマンライブをやらせてもらったんですよ。大げさ ですけど、僕個人としてはそこに活動の全てを集約したので、「もうラップを辞めてもいい」くらいのテンションだったんです。正直、今まで自分の表現を研ぎ 澄ましてやってきたつもりでしたが、求めている評価が得られていないと思っていて。色んなアーティストさんが抱えてるジレンマだと思うんですが、それは正 直僕にもあって。そのタイミングで『ぐるぐる~』さんがオファーをくれたのが本当に嬉しかったんです。
川瀬 ありがたいですね。けっこうDOTAMAさんとはゆるめるモ!の現場とかでもちょいちょいお会いしてて、「実力派だな」「盛り上げてくれるな」と思ってたので、常に呼びたいんですよ。正直、今みたいな(引っ張りだこの)状況になるとは思ってなかったですけど(笑)
DOTAMA 『UMB』(ULTIMATE MC BATTLE)っていう、全国で開催されているMCバトルの大会に2005年の第1回大会から出てて。去年は東京予選で3回目の優勝をしたんですけど、それもワンマンライブ後で「もうラップ辞めてもいいや」みたいなテンションだったから、ヤケクソでやったんですよ。その後『フリースタイルダンジョン』という番組が始まってオファーをいただいて。それも開き直って「テレビでボロクソ言ってやろう」と思って出させてもらったんですが、色んな反響をいただいて。
川瀬 状況が色々と変わってく中で、不思議ですよね。ご本人は変わってないのに。
DOTAMA その都度自分では完璧なものを出してたつもりでも、お客さんにはそう思われてなかったかもしれない。自分の力不足もありますし。あと、自分で勝手に思い込んでいるのは、歳を取ることでしか研磨されない部分もあったのかなと。今年は半年で80本くらいライブをやらせていただいて、色んな場所でやったことで得たものがある反面、足りないと思ったこともたくさんありました。
川瀬 バンド(FINAL FRASH)も始めましたけど、どうですか? やっぱり(勝手が)違うものですか?
DOTAMA 声の出し方から動き方から、何もかも違いますね。FINAL FRASHが僕にとっての初めてのバンドで。the telephonesのリズム隊(Ba.:長島涼平、Dr.:松本誠治)と、ROSE RECORDS(曽我部恵一が主宰するレーベル)からリリースしていたTHE SUZANのRIEさんというキーボード、それにheというバンドの大谷武史さんにサポートギターで入ってもらって。皆さんが各々バンド活動してきた人たちで、バンド経験がない自分を色々と助けてもらっています。
川瀬 それも、ワンマン公演でリズム隊の2人が参加したことがきっかけなんですよね?
DOTAMA そうです。「いつかバンドをやりたいね」っていうのが形になって。あと、今20代後半〜30代前半の人たちって、(90年代に)ミクスチャー(バンド)からラップに入った人が多いと思うんですよ、僕もその世代で。
川瀬 麻波25とか山嵐とかが出てきた頃ですよね。
DOTAMA そうです。これは個人的な意見ですが、今でこそSNSやYouTubeがあって、色んな表現のミックス文化がありますよね。でも十数年前に行われていたんですよ。ミクスチャーバンドという形態で、ヒップホップと、違う畑の音楽のミックス文化があったんです、それが復活という訳ではないですが、色んなものを雑多に混ぜて新しい感性を生むことが楽しまれている。
このあいだ『東京STREET』(新宿LOFT 40TH ANNIVERSARY FES)に出させていただいて、ラッパ我リヤさんや餓鬼レンジャーさん、他にも色んなバンドさんが出られていて、語弊があるかもしれませんが、言うなればハバナイ(Have a Nice Day!)さんもミクスチャーと言えますよね。
川瀬 そうですよね。NATURE DANGER GANGとかはアイドルっぽい部分もあると感じていて、パフォーマンスもそうだし、コラボが上手かったりとか。そういうところは良いなあと思ってます。ハバナイ(Have a Nice Day!)も、それをやり続けたことによって今すごく盛り上がってる。
DOTAMA ラップという点に関しては、これも個人的な意見ですが、当時のヒップホップと今のヒップホップの盛り上がり方は違うと思うんですよ。当時はファッションの意味も含めた、最先端の音楽としての“カッコイイ文化=ヒップホップ”という盛り上がり方だった。今の盛り上がりは、それもありますが、バトルに象徴されるように「ここの文脈がここにかかってて」とか「こことここで韻を踏んでて」みたいな、“言葉のパズル”というか、俳句とか大喜利を楽しむゲーム感覚に近いというか。
川瀬 ここ全然カットしてもらっていいですけど、僕たまに笑っちゃう時あるんですよね、フリースタイルとか観てて。それってわりとお笑いに近いのかな? っていうか、要はダジャレみたいな……。
DOTAMA おっしゃることは分かります。エミネムが「Rap God」っていうシングルを出したんですが、それがギネス記録になっているんですよ(※2014年に「もっとも単語数の多いヒット・シングル」に認定)。6分の長さの曲に入ってる単語の数が世界で1位なんです、シングルサイズの曲の中では。“俺はラップの神になった気分だ”って歌ってる、BPM80くらいの曲なんですけど、4分過ぎ辺りからものすごい早口でラップしてて。調べてみたらその区間は1秒間に6単語ラップしているらしく(笑)、ネイティブの人もついて行くのがやっとなんだそうです。MCバトルも含め、そういった言葉遊びの面白さ、楽しさでの盛り上がりが今のラップシーンの中心にあります。
川瀬 トラックがどうこうっていう人が多かったですよね、昔は。
DOTAMA 洋楽寄りのアプローチの方はそうでしたね。今でもそうですが、どれだけ言葉が音に溶け込めるかが重要視され、ボーカルとトラックの音の調和を最優先にしていた。もちろん、そういう考えで作られたヒップホップも、さっき言った言葉遊びのようなヒップホップも、どちらもカッコイイと僕は思います。ただ、昔よりさらに、とんちを効かせた言い回しや、変わったテーマを楽しんでもらえる時代になった。それだけラップに対する理解を一般の方にも深めてもらえたんだと思います。
川瀬 例えば、サイプレス上野とロベルト吉野とCreepy Nutsを比べてみても全然違うんでしょうね。
DOTAMA Creepy Nutsは不良ではないし、どちらかというとサブカル寄りのアーティスト。ただラップとDJが死ぬほど上手い。でもサ上&ロ吉さんと、僕と、Creepy Nutsは、同一線上にいるというか、理想とする表現がすごく近いと思います。登り方が違うだけであって、最終到達点というか、目指してるパフォーマンスの頂上は近い。だから、この3組が出る今年の『ぐるぐるTOIRO16』は、恐縮ですがその方向をばっちり理解されていると思います。