──先ほどおっしゃってた「この期間だからこそ聴いて欲しい言葉」とは?
タイトルの<乗り越えてみせよう>になりますね。でも、この歌の中で一番意識していたのは、医療従事者の方々のことですね。コロナ禍でも頑張って仕事に行って、不安と戦いながらも自分の仕事を全うしてる人たちがいる。自分はそうじゃないので、あまりにも主観的に書いてしまうと、その人たちの気持ちなんて知らないでしょうって思われてしまうかもしれない。だから、出来るだけわかったような口を聞かずに、でも、今、一番大変なのは医療従事者の方々だよなっていうことはちゃんと書いた上で、<乗り越えてみせよう>につなげられたらいいなって。ちょっと距離を置いた立ち位置で、決して押し付けがましくはないんだけど、ちゃんとその人たちに面と向かってありがとうって言いたいっていう思いがありましたね。
──どうして「乗り越えてみせよう」だったんでしょうか。
メロディと歌詞が一緒に出てきたんですよね。<乗り越えてみよう>とか、<乗り越えていこう>よりも、ちょっと乗り越えるのが大変なようにも感じるからかな〜。
──橋口さんの“個”の思いというか、自分も含めた能動的な意思も感じたんですよね。
まさにそうだと思います。ツアーが延期になったことが発端になって書いてるので。今の自分たち——音楽をやっている身として、音楽は本当にこういうときは無力だなって毎回、感じるんですね。でも、その中でも、また笑顔で会える日まで、今、この状況をみんなで一緒に乗り越えてみせるんだ、一緒に乗り越えてみせようっていう思いを重ねつつ、みんな同じラインで同じ目線に立ってるような、背中を押すというよりはみんなで肩を組んでるような視点で歌ってる気がしますね。
──歌声はこれまでと違うように感じました。特にサビのハイの部分が。
家だからと思いますね。あはははは。あんまり(声を)張ると壁ドンが来るかなって。家でできる優しい感じで、これくらいだったらいいかなっていうのをそのまま出してるので、結果、そういう風になってます。
──(笑)ファルセットと地声の中間くらいのニュアンスだったので、ミックスボイスを会得したのかと思ってました。
ミックスボイスがいつまで経ってもできないので、もしかしたら家で歌ったことでちょっと片鱗が見えてきたりして。今後、生かされるかもしれないですね……そういうの、みんないっぱいあると思うんですよね。音楽に限らず、この期間だからこそ気づけた、自分の新しい部分だったり。僕にとってはそれが歌になればいいなと思います。
──音楽以外でも発見はありました?
女装して、スナック橋口の洋子ママっていうキャラでインスタライブをやってるんですけど、結構、楽しくて。
──あはははは。目覚めた?
目覚めかけてます(笑)。洋子ママを心待ちにしてくださってる方もいて。毎回、お店を開けるたびに800人くらい来てくれるので、新しい発見でしたね。そんなの発見するつもりなかったんですけど。
──洋子ママのビブラートやコブシの効かせ方も新しい部分の1つだと思います(笑)。新曲を発表して反響も大きかったと思います。
今、届けたい曲として出したので、もうちょっと広がって欲しいですね。ただ、とにかく聴いてくださった方がちょっとでも元気になってもらえればいいなと思うし、各ラジオ局の人が『これは今、かけなければ』っていう使命感でかけてくださってる方もいて。音楽を通じて同じ目線に立って、乗り越えようとしてくれているパーソナリティーの方もいるんだなって思ったし、音楽の力を感じましたね。
──リモートライブTAKE映像に関してもひと言いただけますか。
みんなの部屋が映ってるのは新鮮だなと思いました。あと、みんな1カメなのに、僕だけ2カメで。それをFM福岡でバンバンバザールの黒川さんに言われて、すごく恥ずかしくなりました。自分だけ意識が高いみたいな、この顔でって(笑)。
──この顔でってことはないですよ!ヴォーカルだし、バンドの顔ですから。
そうですそうです。フロントマンですからね!最近、ラジオでこういう自虐を言ってたら、<そんなことないですよさん>みたいなキャラが作られて。僕が自虐を言うと、<そんなことないですよ>って言ってくれるのが、すごく楽しくなってます。
──(笑)もう1曲、4thアルバム『Empathy』に収録されていた問題作「元カノの誕生日」が……橋口さんの元カノの誕生日にリリースされましたねぇ。
あはははは。もう呆れちゃってるじゃないですか。最初は冗談だったんですよ。『ちなみに6月3日は僕の元カノの誕生日ですけどね』って言ったら、『それいいじゃん』ってなって。まさか、あんなに押されて、ニュース出しされると思ってなかったので、ちょっと辛い……やだ。
──(笑)元カノの誕生日、本当に覚えてるんですね。
僕、歴代全部覚えてます。……向こうは覚えてないですけどね、きっと。
──<そんなことないですよ>。……歌詞にある通り、「いつまで経っても特別な日」ですか?
デジタル時計で並びを見た時に、あ!っていうのは、僕はいまだにありますけどね。僕、もともと人の誕生日をぜんぜん覚えないので、逆に彼女の誕生日は絶対に覚えていなきゃっていう危機感、恐怖感みたいなところからずっと覚えてるのかもしれないですね。
──改めて、どんな思いを込めた曲といえばいいですか?
何の思いも込めてないですね。<男は元カノの誕生日を覚えていがちじゃない?>っていう、1行で済むようなあるあるを何行かに膨らませて歌ってるだけです。その薄さを楽しんで欲しい。でも、音はかっこいいと思うし、ライブでも楽しい曲なので。本当のニュース出しとしては、<ライブでカップルに大不評の曲>っていうふうにしたかったんですよ。でも、それだと曲に対して後ろ向きすぎるってことで、こうなりました。
──ライブはカップルの方も多いですよね。
そうですね。でも、この曲はカップルにはきついですね。やっぱり、元カレ元カノで揉めてるカップルはたくさんいますから。そんな中で、一緒にライブに来て、「感情」のような曲が聞けるかと思いきや、「元カノの誕生日、忘れられないよね」みたいなこと言われたら、たまったもんじゃないと思う。そういう意味では、申し訳ないなと思いつつやってますね。
──どうしたらいいですか。そこで、「あなたも覚えてるの?」って聞かれたら。
<覚えてるけど、あの歌みたいな未練はないよ。あの歌、気持ち悪いよね>でいいと思います。
──あははは。制作者としてそれでいいの?
はい。僕、こういう歌を書く時が一番楽しいですね。女性目線の失恋ソングか、男性目線ののび太系ソング。一番楽しいし、10番くらいまで書けます。
──「感情」や「東京」など、名バラードも多いですが。
そうですね。「感情」や「東京」みたいな曲も書きたいんですけど、どうしても楽しい方に逃げてしまう自分がいるので、ちゃんと向き合いたいと思います。
──(笑)この曲のMVの制作もリモートで、各メンバーが自宅で演奏するシーンやSNSを模した映像などで構成されていますね。
リモートでできる限界に挑戦してますね。これもドラムの横山(祐介)が編集したんですけど、どんどん編集技術が上がっておりまして。コロナ期間で得た技術のひとつかもしれないですね。
──映像ではラッパがー登場します。
あれ、なんですかね? 思いついちゃったんじゃないですか。あそこは横やんが決めた絵コンテにはなくて。ケージくん(Gt. 村中慧慈)が勝手に送ってきた素材がそのまま採用されてる。逆にいうと、誰も止めなかっただけってことですけど、ま、バンドメンバー総出演で楽しい映像になってるのでぜひ観て欲しいです。あと、最近の「別カノ」とか、広がっていってくれてる曲はメンバーがMVに出ることはあんまりないので、出たらこうなるんだぞ、だから、出すぎも良くないでしょっていうところまで楽しんでもらえたらいいなと思います。
──(笑)今後はどう考えてますか。
早く収束して、また会えた時に、最高のライブができるようにしっかりと準備しておきたいですね。ただ、同じような日常は戻ってこないのかなと思っていて。だから、新しいことにもたくさん挑戦していきたいなと思ってます。逆にいうと、今はそれが許される期間だと思うので、今までのいいところは踏襲しつつ、新しいwacciをちゃんと見つけていきたい。いい楽曲は揃っていると思うので、それを生かして、また新しい形でたくさんの人に届けられる方法を毎日一生懸命考えて、探しながら過ごしていきたいなと思います。ライブがどういう形になるかわからないですけど、もうちょっと世の中の状況が落ち着いたら、無観客で出たりするかもしれないし。状況に応じて、臨機応変にみんなで話し合いながら最善策を取っていきたいなと思いますし、来年あたりにまた、大きなことができたらいいなと思ってます。
──最後にツアーを楽しみにしていた方々にメッセージをお願いします。
「乗り越えてみせよう」という歌にも書いたんですけど、僕らは、楽しみは先に延びたと思うようにしてて。逆に、延びたからこそ、もっともっといいライブを持っていけるんじゃないかなと思うし。ホールツアーはずっと夢だったので延期は残念ですけど、この期間にも意味があったなって、お互いに思えるようないいライブを用意して、ホールツアーで皆さんを待っていたいなと思ってます。ずっと待ってくださってる方、今、曲が届いて聴いてくださってる方、どうかこれに懲りずに待っていていただけたらいいなと思います。