福岡で結成された4人組バンド、ユアネス。2018年3月に初の全国流通盤となる1stミニアルバム『Ctrl+Z』をリリースし、時に激しく、時に美しさを紡ぐ繊細で緻密な音像、雄大なメロディをダイナミックに表現する黒川侑司(Vo/Gt)の歌声、世界観を丁寧に構築したソングライティングで、着実にリスナーの信頼を獲得している。ワンマンツアー、mol-74とのスプリットツアー、自主企画ライブなど精力的なライブ活動を重ねた2019年を経て、2020年1月からは最新作『ES』を引っ提げたワンマンツアー「One Man Live Tour 2020 "ES"」を開催。バンドの現在のモードを、黒川侑司(Vo/Gt)と田中雄大(Ba)に訊いた。
2019年のライブは、アーティストとしての在り方を考える機会にもなりました(黒川)
──2019年は自主企画ライブが盛んな1年になりましたね。
黒川侑司(Vo/Gt)2019年のライブは、アーティストとしての在り方を考える機会にもなりました。上京したての頃は僕らを知らない人たちばっかりだったので、そういう人に知ってもらうためにライブをしていたところがあって。それでどんどん、「期待に応えられるのかな?」「こういうことが聴きたいのかな?」とか、お客さんのことを考えすぎちゃうような時期があったんです。でもアーティストである以上は「お客さん先行」じゃだめだな、というのをmol-74や神サイ(神はサイコロを振らない)とのライブであらためて感じましたね。具体的に言うと「演奏中にお客さんの手が挙がらなくてもいいライブなんだな」というか。
──わたしがユアネスのライブを観たのはみなさんが上京する前、2017年の秋でした。時に激しく、時に美しく、じっくり心地いい緊張感のある演奏で聴かせるバンドだなと思っていたら、黒川さんのMCが等身大でほんわかしていて、そのギャップがとても微笑ましくて。
田中雄大(Ba)黒ちゃんはかっこつけられないんです(笑)。そこが良さなんですよね。でもじつは観ていただいた後くらいに、ちょっとMCで試行錯誤してた時期があって。黒ちゃんが喋らないライブをしてみたり、笑いが起きないようなクールなMCにしてみたこともあるんです。
黒川僕が喋るとマヌケになっちゃうんで(笑)。
──いやいや。あったかい人柄が見えたことで、「こういう人たちが作ってる音楽なんだな」とだいぶ印象に残ったんです。
黒川ありがたいです(笑)。最近やっとそう思えるようになりました。めちゃくちゃかっこつけてた時期、全然うまくいかんくて(苦笑)。僕はこのバンドで曲を作っていないので、僕のMCで全部台無しにしてしまうのがめちゃくちゃ怖くて……。それで「喋りたくない!」って喋らなくなったんです。でも唯一マイクを立てて声を出しているのが僕だから、僕の言葉で喋るべきだな……と思って。
──恐怖より、ボーカリストとしての在り方への意志の強さが勝ったと。
黒川相手の期待に応えるだけの存在だったら……それは僕らでなくてもいいことやから。やっぱり自分たちのやり方でやっていかないと意味がないと思う。ステージは心が出ちゃう場なので、嘘をつきたくないんです。それやったら変な喋り方やと思われてもいいかなと(笑)。正直に素直に、堂々とステージに立ちたい。
田中黒ちゃんが等身大の自分で喋るようになったから、リラックスして聴けるようになったお客さんも増えたと思うんです。MCはメンバーの人間性を出せるちょっとした間でもあるし、メンバーとしても黒ちゃんが頑張りすぎない姿で喋ってくれるを見ていると「うん、僕らもこんな感じだなあ」って気持ちで演奏できるので、すごくやりやすい(笑)。変なところを気にしすぎず、僕らが堂々としていればお客さんもステージに集中してくれる。いいスタイルが出来上がりました。
自分だけの力ではどうにもならない時にメンバーに頼れるのがバンドの良さ(田中)
──そうですね。田中さんはどんなスタンスでステージに立っていますか?
田中ボーカル第一でやっているバンドではあるので、それが黒ちゃんにとってプレッシャーにならなければいいなと思ってるんです。俺はいくらでもかっこつけられるくらいのプレイができるように磨きをかけている自信はあるし、自分だけの力ではどうにもならない時にメンバーに頼れるのがバンドの良さだから。黒ちゃんに対しても「ピンチな時や逃げたい時は逃げていいよ」という気持ちで横に立ってますね。極端な性格の4人が集まっているのでバランスを取るのが下手なんですけど(笑)、いいバランスを取れたらいいなと。楽しくバンドができています。
──最新作『ES』はユアネスという1個の生命体を個性がばらばらな4人で一丸となって作っている作品という印象がありました。どうやら次作への布石となる作品だそうですね?
田中そう……らしいです(笑)。僕らもソングライターの古閑(翔平/Gt)から詳しく聴かされるのは、制作に入ってからなんですよ。『ES』の制作に入る時も、事務所に集まった時に急に翔平がホワイトボードにバババッと書き始めて、「『ES』というのは……」と話し始めるっていう(笑)。彼は数学頭なので。
黒川いきなり勉強会が始まるんです(笑)。
田中構想は早い段階から彼のなかでできてるんですけど、曲に落とし込むまでに時間を要するっぽくて。おまけにデモをしっかり作り込むまで、ほかの人に聴かせないんです。リード曲の「紫苑」が届いたのは、レコーディング2、3日前でした(笑)。でも「紫苑」が届いた瞬間にスッと身体に馴染んだんですよね。
──作り込まれたコンセプトが事前に用意されていて、「紫苑」を待っている間にほかの収録曲を詰めていたから、なおさらかもしれないですね。「紫苑」は『ES』という作品を全部包み込むような曲だと思いますし。
田中ああ、そうかもしれない。おまけに「ES」はボーカルがポエトリーリーディングに挑戦していて、メロディというより感情で攻める部分があったから、小野ちゃん(小野貴寛/Dr)と僕はとにかく一直線で進むことに徹していて。「紫苑」でもそういう経験が生きていると思います。
黒川フレージングで楽曲の幅を広げるというよりも、1曲1曲の密度が高いよね。ボーカルの感情の声色と、全部の楽器が同じ方向にスッ!と進んでいってる。だから「1個の生命体」と思ってくださったのかなと思います。