──僕が最近見たライブは、今年の3月、『STARTING OVER』ツアーの横浜アリーナ。大会場に合う演出と、一対一で歌ってる親密な感覚が両方感じられて、とても良かったです。
ありがとうございます。『STARTING OVER』ツアーの心境として、いろんな人に協力してもらってはいるんだけど、あまり頼りすぎず、自分の経験値をステージ全体に行き渡らせるライブにしたいなと思っていたんですね。たとえば誰かがミスっても、「自分の歌があるから大丈夫だよ」と言える人でありたいというか、背負ってるものの種類が少し変わったかもしれない。
──そのツアーが終わったあと、8月から10月まで弾き語りツアー。ファンクラブ限定でしたっけ。
そうです。僕が路上時代からやってる「胡坐」というライブですね。僕は元々路上で歌っていた人なので、ハプニングが付き物という場所で歌ってたわけです。酔っ払いに絡まれたり、ギター取られちゃったり、聴いてる人がナンパされてそっちに付いて行っちゃったり、そんなことばっかり起こるんですよ。
──それは過酷な(笑)。
そういう経験をしてるから、「何が起こるかわからないのがライブの良さだ」という考え方が染みついちゃってる。ただ、あんまり音楽と関係ないハプニングが多すぎると楽しめなくなるので、室内でやりたいと思ったところから札幌のCDショップの一角を借りてライブをする形式で「胡坐」が始まったんですよ。だから気持ちは同じで、路上か室内かの違いだけ。ギター一本持って好きなこと歌って、見るほうもかしこまらずに見てもらう、それぐらいの距離感を大事にしてます。
──なんか、即興曲をやっているという噂を聞きましたが。
やってます。「どこから来たんですか?」「お仕事は?」とか、その場でお客さんとしゃべるんです。そこで出てきた話題をメモって、「じゃあ歌います」と言って歌う。広島では「ゴキブリ」という歌を歌いましたし、北海道では「俺のズワイガニ」という歌を歌って、完全にタイトル落ちですけど(笑)。でも楽しいですよ。会員1人につき1名の当選なので、みなさん1人でいらっしゃるんですよ。最初は緊張しているのが、だんだんくだけた感じになる空気をみんなで作っていく。みんなで胡坐をかいてダベるようなライブにしたいというのが「胡坐」のコンセプトなので、今後も続けていきたいと思います。
──9月には恒例の「秋田CARAVAN MUSIC FES 2019」もありました。秋田県の13市を順番に回る予定のフェス、今年が4回目。けっこう進んできたんじゃないですか。
でもまだ9都市ありますからね。毎年がゼロからのスタートなので。
──そうですよね。横手でずっとやるとかじゃなく。
よく、横手という場所をご存知ですね。
──そりゃ知ってますよ(笑)。横手=高橋 優じゃないですか。
嬉しいです。こうやって東京で取材をしている最中に、秋田の土地の名前が出てくることは、僕の中で一個の手応えなんですよ。今年は大仙(だいせん)でやらせてもらったんですけど、大曲の花火はご存知ですか? それが大仙市なんです。去年やらせてもらった仙北市には、田沢湖という湖があるんです。日本で一番深い湖。
──いいとこいっぱいありますね。
いいとこいっぱいあるんですよ。フェスで来てもらったアーティストの方々も「帰りたくない」ってみんな言いますもん。前日に秋田に入って、遊んで、フェスを2日間満喫して、翌日も遊んで帰るというスケジュールを組んでくれるお客さんが増えているのもすごく嬉しいです。秋田の人は奥ゆかしい方が多くて、「なんもなんも、うちで獲れたものなんて大したものじゃないから」って、普通にスーパーで売ってる食材が、東京では一級品のものだったりするんですよ。しかもものすごい激安で、それが県の経済を苦しめてるんじゃないかと思うぐらい(笑)。食べ物も空気も水も、文化もすごく面白いんですけど、それを「すごいだろ!」とは絶対に言わない。そういう秋田の奥ゆかしい文化も僕は好きですけど、「いやいや俺なんか」という血が僕の中にも入ってますけど、とは言いながらステージ立っている自分がいるように、「秋田CARAVAN MUSIC FES 2019」を続けることで、秋田の人が夢を持って「できるかもしれない」ということを信じるきっかけを作りたいと思ってます。
──「秋田CARAVAN MUSIC FES 2019」の今年の名場面は?
ゴスペラーズさんと一緒に歌わせてもらったんですけど、当日しかリハーサルの時間がなくて、しかも僕はアカペラを初めてやるんですよ。楽屋で1、2回合わせてそのまま本番だったので、あれは一番緊張しましたね。久しぶりに震える思いをしました。あとコラボレーションといえば、僕が同志と思っている阿部真央ちゃんと「ロンリー」を一緒に歌えたのも最高だったし、スカパラさんとも一緒にやれたことも、ふかわりょうさんが秋田のとんぶりをものすごく押していて、とんぶりの歌を一緒に歌って踊れたことも最高でした。
──まさに名場面だらけ。
最後に大仙市からのプレゼントで、サプライズで花火を打ち上げたんですよ。1日450発。大仙市のドヤ顔が目に浮かぶような、圧倒的な花火でしたね。天候にも恵まれて、最高のフェスになりました。来年の会場はまだどこかわからないですけど、来ていただければ、その土地の魅力を満喫してもらえるようにしているので、ぜひいらしてください。