ライブが、成底ゆう子の歌の世界観を知っていただくきっかけになればいいなと思っています
──最近のライブについても聞きたいんですけどね。成底さん、ライブハウスはもちろん、インストア、お祭り、デパート、居酒屋まで。歌う場所を選ばずと言いますか。
基本的に断らない性格もあるんですけど(笑)。居酒屋ライブとか、お客さんが近いぶん勉強になることが多いですし、インストアライブもすごくリアルな場所なんですね。そこでどれだけ人を集められるか?ということで、自分でも根性すわってると思うのは、人が少ないと燃えるタイプなんです。キングレコードでは“インストアの女王”と言われてるらしいですけど(笑)。勝負師なところがあるんです。
──面白いなあ。だって成底さん、もともとは音楽大学でアカデミックな教育を受けて、オペラ歌手としてイタリアまで行った人じゃないですか。ストリートライブとかもやったことないはずだし。
一回もないです。ないんですけど、インストアライブは反応がリアルにわかるから好きなんですよ。“この人の歌はお金を払って聴く価値があるか?”という勝負なので、そこが面白いなと思います。わかりやすいじゃないですか。
──引っかからなければ、そのままスッと行ってしまう。
そこでどれだけ飽きさせず、CD販売にどれだけ並ばせるか。それが面白いんです。
──すごく舞台向きな性格。昔からですか。
そうですね。昔から負けん気が強いというか、逃げるということはしなかったと思います。
──もともとの夢はオペラ歌手?
歌は歌いたいと思ってましたけど、歌手になろうとはまったく思っていませんでした。とにかく何もない、サトウキビ畑と牛小屋しかない石垣島から本当に出たかったんです(笑)。ちょっと村を歩けば“ゆう子、おかえり~”ってみんなに言われる、あの状況から抜け出して一人になりたかった。私は長女なんで、父には可愛がってもらったんですけど、それが本当にうざくて、早く家を出たい!と思ってました。でも沖縄本島だったらすぐ来れるから、絶対来れない東京に行ってやる!と思って、そこで自分が勝負できるものといったら歌しかなかった。高校に入ってから、音大の受験のためにソルフェージュとかを習い始めたんです。
──それはだいぶ遅いですよ。
まったくもって遅くて、幼稚園の頃からやってる人がいるわけだから。だから受かるとは思ってなかったんですけど、負けん気が強いもので“どうにかしてやる!”と(笑)。東京に出ると決めたら出て、受かると決めたら受かって。最初は仕送りも全部遊び代に使って、親の目もないし、何時に帰っても怒られないし、最高だったんですよ。でも2年間ぐらい遊んでると、ちょっと大人になるじゃないですか。これじゃヤバいと思っていた頃に、あるプログラムの中にオペラの研修生の制度があって、たまたまそこに選ばれて、またちょっと調子に乗って(笑)。それでオペラを勉強したんですけど、そこまでふわふわ来ちゃったので、本場のイタリアに行った時にベキッ!と鼻を折られました。プレッシャーでまったく声が出なくなって、それで帰ってきたんですよ。二度と歌えないと思って。
──挫折しましたか。
神様はちゃんと見てて、調子に乗って今までやってきたけど“本場に来て通用すると思ったら大間違いだぞ”みたいな。ピアノの音がわからないぐらいパニックになっちゃって、声の出し方もわからなくなって、それが公演の前日だったんですよ。監督と演出家に“明日歌えるのか?”と言われて、“歌えますよ!”と言ったけど全然歌えなかった。舞台を台無しにして、シュンとなって、逃げるように東京のアパートに帰ってきたんですけど。両親にこんなにお金を出してもらって、今さら島に帰りますとも言えず、“この先どうしよう”と思いながら8ヵ月くらいバイトして過ごしていたら、親はなんとなくわかるみたいで、小包が届いて、ポークの缶詰や米と一緒に手紙が入ってて、“元気にしてる?”みたいな。それを見た瞬間にボロボロ泣いて、これは言わなきゃ!と思って、電話をかけて母親が出た瞬間に泣くしかできなかったんです。何もしゃべれなかった。そしたら“島に帰って来なさい。大丈夫だよ”って。そのあと、あんなに大嫌いで話もしなかった父親が“代われ”とか言って電話に出て、“おまえの歌は世界一だから何も心配するな。お金も心配するな。絶対歌えるから”みたいなことをガン!と言われたんです。そしたら涙がすーっと消えて、翌日ピアノを開けてポーンと弾いたら、歌えたんですよ! その時、小ちゃい時に自分で作詞作曲するのが好きだったことを思い出して、その体験を歌にしたのが「ふるさとからの声」という歌なんです。それがそのままメジャーデビューに繋がったんです。不思議ですよね。
──なんと言えばいいか……不思議というか必然というか。挫折がすべての始まり。
そんなふうにいろんなところで、何かに支えられて、気づかされてここまで来てるんですけど、その中でも「ダイナミック琉球」はすごく大きいです。あの曲がなかったら、“絶対メジャーデビューする!”とは思わなかったので。この曲が私を救ってくれたので、この曲に恩返ししたいんです。
──3月21日に東京・下北沢GARDENで、4月27日には大阪・南堀江knaveでライブがあります。ライブのタイトルは<ダイナミック琉球~あやぱにの舞い~>。あやぱに(綾羽)は美しい羽。
そうです。カンムリワシの美しい羽。去年のライブが<ダイナミック琉球~南風(ぱいかじ)の宴~>だったので、今回は羽ばたいてる感じがいいかなと思って<あやぱにの舞い>にしました。風に乗ってどこまでも飛んで行くという意味で、一応繋がってるんです。編成はキーボード、ドラム、ベースで、私がピアノと三線を弾きます。ギターがいないんですよ。ちょっと面白いですよね。
──初めて成底ゆう子のライブを観る人に、どんなライブをしてると説明しましょうか。
初めて来るお客さんは、たぶん「ダイナミック琉球」で私を知って、そのミュージックビデオの世界観を持って観に来ると思うんですけど。それも裏切らず、「ふるさとからの声」みたいなハートフルな曲も作ってる人なんです、ということを伝えたいです。“これだけじゃなくて、こういう振り幅もあるんだ”ということを知っていただいて、成底ゆう子の歌の世界観を知っていただくきっかけになればいいなと思ってます。