オリジナル・ラブが4年ぶりとなる18枚目のアルバム『bless You!』を完成させた。長岡亮介やPUNPEEから渡辺香津美まで、実に幅広いジャンルと世代のゲストを招き、一発録りを多く含んだ楽曲は、「人生賛歌」というアルバム全体のテーマもあって、人間の持つ生々しい熱量を伝えている。2月から弾き語りツアー、6月からリリースツアーと、2019年も走り続ける田島貴男に話を聞いた。
──2016年にスタートした自主企画『Love Jam』で下の世代からも刺激を受けつつ、非常にライブ感のある作品へと結実しましたね。
『Love Jam』を始めたことで、周りからの見られ方も「バラードを歌ってるおっさん」っていうところから、広がりを持つようになったなって(笑)。あとは偶然ですけど、若いバンドたちと自分のやってることがリンクするようになってきて、一緒にライブをやりたいと思うバンドも増えたので、そういう影響も今回のアルバムには表れてると思います。まあ、客観的に見たらそう感じるけど、実際はただ一生懸命作っただけというかね。
一発録りもあるし、ゲストとの共作もあるし、ハイライトがいっぱいある制作でした
──今年の『Love Jam』にも出演していたPUNPEEが参加した“グッディガール”には驚きました。
『Love Jam』に出てもらうことは一年前から決まってたんですけど、アルバムに参加してもらうっていうアイデアはスタッフから出たんです。PUNPEEくんには曲選びからやってもらって、“グッディガール”はもともと歌だけで成立させようと思ってたんですけど、一旦真っ新にして、お互いアイデアを出し合って、作詞は完全に共作で作りました。アルバム全体に言えるんですけど、むちゃくちゃ熱いレコーディングでしたね。今回は一発録りもあるし、ゲストとの共作もあるし、ハイライトがいっぱいある制作でした。
──ジャムっぽいパートも多くて、生演奏の熱量を感じます。
ダビングでこねくりまわす感じじゃなくて、ライブレコーディングに近い形で、“bless You!”はリズム録りの日に完パケしたし、“アクロバットたちよ”はリズム録りで歌まで録って、一か所も直してない。最近70年代までのレコードをしょっちゅう聴いてるんですけど、当時のレコードはほとんど一発録りだから、ああいうホントの音楽演奏の緊張感を今回のアルバムには持ち込みたくて、先にライブで3曲くらいやって。
──去年の6月から7月に行われた『Wake Up Challenge Tour』で、先ほど話に出た“アクロバットたちよ”と“AIジョーのブルース”、あと“ゼロセット”というアルバム冒頭の3曲が演奏されていましたね。
“アクトバットたちよ”は、歌いながらギターのエフェクターのスイッチやピックアップのセレクトを切り替えて、しかもリフを弾きながらだったりするから、すごい大変だったけど、メンバー全員が一発で録った演奏なので何年経っても聴き飽きないテイクになったんじゃないかな。“ゼロセット”は曲は2年前にできてて、リズムは録ってあったんだけど、歌詞が一度書いたものがイマイチだったんです。でも、手応えを感じてたから、「この曲は大事に行きましょう」って、一回寝かせて、去年のツアーのときに「この曲を絶対ツアーでやるぞ」って決めて、歌詞を書かざるを得ない状況に自らを追い込みました。それでできたのがいい感じだったんですよね。
──<熱くなって いつまでも>という歌詞からは、文字通り今作の熱量が伝わってきますし、さらには長岡亮介さんの参加もポイントになっていますね。
去年の秋に僕のアトリエに来てもらって、レコーディングをしました。長岡くんとは一緒にツアーを回って、『SESSIONS』という作品も出したので、アルバムの曲に参加してもらいたいと思って、じゃあ、“ゼロセット”のギターソロをやってもらおうと。最初は間奏の部分も何も決まってなくて、長岡くんも「どう弾いたらいいかわかんないです」みたいな感じだったんですよ。いざレコーディングが始まったら、やっぱり素晴らしくて、パーッと何テイクかやってもらったら、すぐに「これでしょ!」っていうのが録れました。彼のカントリースタイルのテクニックのギターソロが、ソウル調の曲の中でちょうどいいコントラストを生んだというか、ちょうどいいずれ方っていうかね。
PUNPEEくんみたいな音楽と、香津美さんのソロが一緒に入ってる、このコントラストも面白いし、こんなアルバムないと思うね
──いい違和感がありますよね。ストリングスに対して、乾いた音色と細かなフレージングがまさに長岡節だなと。その一方で、“ハッピーバースデイソング”には岡安芳明さん、“空気-抵抗”には渡辺香津美さんも参加されています。
突然このアルバムのためにオファーをしたわけではなく、ここ最近出会った人たちに参加してもらった感じですね。香津美さんは一昨年の暮れに「2人でデュオをやりたい」っていうオファーをいただいて、ぜひやらせてくださいと。半年くらい準備期間があったんですけど、去年の9月に名古屋のジャズフェスに出て、最高のライブでした。香津美さんがすごいギタリストなのは前から知ってましたけど、目の当たりにするとホントにびっくりするというか、レベルが全然違うんですよ。サッカーのチームで言えば、レアル・マドリード。僕なんてJ2にも入れないくらいなのに(笑)。
──いやいや(笑)。
香津美さんもアトリエに来ていただいてレコ―ディングしたんですけど、試し弾きの時点で最高だったので、すぐに録音し始めて、ほんの10分くらいで終わっちゃって、「お疲れ様でした!」みたいな感じ(笑)。即興演奏なんだけど、すごく考え抜かれた、めちゃくちゃメロディアスなソロなんですよね。香津美さんは少年時代から神童と呼ばれたジャズギタリストですから。PUNPEEくんみたいな音楽と、香津美さんのソロが一緒に入ってる、このコントラストも面白いし、こんなアルバムないと思うね。
──ちなみに、近年の国内外でのヒップホップ/ラップの盛り上がりについては、どんな風に見ていらっしゃいますか?
あんまり詳しくはないです。ヒップホップに影響を受けたソウル、ディアンジェロとかは聴きますし、ケンドリック・ラマーとかチャイルディッシュ・ガンビーノとかチャンス・ザ・ラッパーとか、メジャーなやつは好きですけど、細かいところまで聴いてるわけじゃなくて。ただ、今回PUNPEEくんと仕事して、ヒップホップ面白いなって思い始めて、最近は耳に入ってくるものをいろいろ聴くようにはしてますね。ケンドリック・ラマーはやっぱりいいな。生も打ち込みも両方、あれはすごいですよね。進化したソウルミュージックみたいで。
──もはやジャンルの境界線は曖昧で、ソウルもジャズもヒップホップも一緒くたになっていますよね。
それってとてもいいことなんですよね。アメリカではそういうクロスオーバーが昔からあったのに対して、日本はこれまであんまりそういうのがなくて、くっきり分かれてたけど、混ざった方が面白くなるなっていうのはありますね。僕もジャズギターを習うようになって、そういう景色がようやく見えてきたんですよ。例えば、スティーヴィー・ワンダーがこれほどジャズの影響を受けたアルバムを作ってたんだってことに実際的には気づいてなかったんです。スティーヴィーが20代の頃に作った『Innervisions』とか、ジャズの手法が使われてることが今頃わかってきた。遅すぎるんですけどね。今回のアルバムでも、そういう手法はいろいろやってます。最近は日本でもceroとかSuchmosとか、ジャズの手法を使ったロックを作ってる人たちがいるので、そういう人たちの作る音楽は好きですね。面白い。
──今回、角銅真実さんが参加されているのも、おそらくcero経由ですよね?
そうですね。ceroには『Love Jam』の第一回に参加してもらって、『Obscure Ride』も『POLY LIFE MULTI SOUL』も最高だったし、ライブも何回も観に行ってるんですけど、サポートのメンバーチェンジがあって、ある日ライブを観に行ったら、角銅さんがヴィブラフォンを叩いてて。オリジナル・ラブも昔よく使ってたんですけど、最近はプレイヤーがあんまりいないんですよ。ヴィヴラフォンを若い人が叩いてるのをひさしぶりに観て、彼女はクラシックパーカッションもできるから、絶対アルバムに参加してもらおうと思って、やっと実現しました。
──角銅さんはソロも面白いですよね。
とてもいいアルバムを作ってますね。非常に繊細で、「ブリジット・フォンテーヌみたいだね」って言ったら、その後に聴いたみたいで、「すごいいいですね!」って言ってました(笑)。ヨーロッパの映画音楽のような、アメリカのオルタナティブな感じもあるし、クールな音楽だなって。