会場に染み付いたミュージシャンの愛情を感じながら、一人一人に対して糸がつながるような感覚
──初めて渋谷公会堂のステージに立ったときのことは憶えていますか。
岸谷 めっちゃくちゃ緊張して、3曲目にはもう演奏がめちゃめちゃになっちゃったんですよ。バンドが間違えて、裏と表が逆になる、くらいの感じになったんです。とにかく緊張してたし、一生懸命やらなくちゃということしか頭になかったですね。そのときは1曲目が「19 GROWING UP」で、イントロが流れると手動でドアみたいに幕が開いていってわたしたちが現れるというセットだったんだけど、怖くて見れなかったんですよ、客席が。
──怖かったんですか!?だって、お客さんはプリプリのファンばかりで満員なわけじゃないですか。
岸谷 それはわかってましたけど、でもなんだか直視できないんですよ。だから、わたしは上を向いてたんですけど、それでスタッフに注意されましたから。「ちゃんと前を見てろ」って(笑)。それくらい、特殊な場所だったんですよね。でも、その後は何回もやらせてもらって、毎回落ち着いてやれて、堪能しましたよ。本当にいい会場だなと思ったし。それで渋公がなくなる寸前に「岸谷 香」でやらせてもらったときに、1回目の渋公は本当にうれしかったし、憧れだったんだけど、でもひとつも憶えてないから「今日はその日の1曲目で終わります」という話をして、最後に「19 GROWING UP」をやって終わったんです。そのときもじつは、ちょっと涙が出てきそうなくらい、一人で感動してました(笑)。
──「本当にいい会場だなと思った」というお話ですが、コンサート会場としての渋谷公会堂は何がいいんでしょう?
岸谷 楽屋がすごくきれいだとか、そういうわけでもないし(笑)、全体的にもなんかゴチャゴチャしてるんだけど、でもなんかいいんですよ。なんかいいんです。それは、歴史というか、あそこに染み付いたミュージシャンの愛情なんじゃないかしら。ステージに立つと、全部見渡せるし、程良い距離感で、程良い凄みもあるんですよね。こんなところでできるって凄い!みたいな。それに武道館も似たような感覚があるんですけど、あれだけの人が入ってるのにみんなで一緒みたいな感じがするんですよ。それがドームになると、そういう感覚はちょっと感じにくくて、だから“自分のためのがんばろう”みたいに思ったりするんだけど、渋公だと全部見渡せるその一人一人に対して“わたしとあなた”、“わたしとあなた”というふうに自分から糸がつながるような感じがあるんですよ。そういう作りになってるし、大きさもそういう感じで、そこが多分みんな好きなんじゃないかと思うんですよね。誰のために歌ってるのか、誰のために演奏してるのかというのがすごく明確なんです。渋公では。
──ということは、2回目以降はちゃんと客席を直視できたんですね。
岸谷 (笑)、そう“あそこまで人がいる!”って、ちゃんとわかりました。
──それから、プリプリを解散して、最初にやったソロのコンサートも渋公ですよね。
岸谷 そう、3デイズやったと思うんですけど、そのときも「渋公でやりたい」ってことで押さえてもらったんじゃなかったかなあ。やっぱり渋公が好きなんですよね(笑)。だから、なくなると聞いて、本当にショックでした。
──ある意味では苦い思い出になった1回目のことも含め、渋公に鍛えてもらったという感覚はありますか。
岸谷 すごくあると思うし、だからこそ“そこに立ってる自分って、すごい!”みたいな。“こんなになっちゃったんだ”ということも感じさせてもらいました。
──香さんは武道館も東京ドームも経験されていますが、それと比べても渋公での経験というのは大きいものですか。
岸谷:初めてそこでやる喜び、ということでは一番大きかったかもしれないですね。武道館も「女の子のバンドでやるのは初めて」と言われて、確かにうれしかったですけど、でも渋公のときは“やっとわたしたちもバンドの仲間入りをしたんだ”みたいな、そんなうれしさがありました。わたしたちは、あの頃ロックにすごくこだわってやってましたけど、いろんな部分で賛否両論あったんですよ。例えば、「ボーカリストはギターなんて持つ必要ないんじゃないの?踊ればいいじゃない」と言われたこともあったし、「ロック・バンドなのに、リボンなんてつけてるの?」と言われたり。確かに、思いっきりつけてましたけどね(笑)。あと「ミニスカートはいちゃって」とか、いろいろ賛否両論。でも、そういうすべてに対して、「ほらね」っていうか(笑)、「渋公をやれるバンドになったんだよ」という気持ちは大きかったかもしれないですね。曲がヒットするというのは、偶然の部分もすごく大きいじゃないですか。たまたまいろんなことが重なってそうなる、みたいな。そういうのとは違って、自分たちがやってきたことに間違いはなかったということに確信を持てたのが渋公なんだと思います。
新人バンド・Unlock the girlsのメンバー4人の目標を渋公ということにさせてください!
──最後に、一応の予定では来年、新しい渋谷公会堂がオープンするんですが、そこでもやりたいですか。
岸谷 やりたい!なるべく昔の匂いが残ってる形になってればいいですよね。
──では、ニュー渋公でのコンサートにエントリー1番乗りということでよろしいですか。
岸谷 いや、わたしは今回 Unlock the girlsとしてスタートをきったばかりなので、その新人バンドの目標が渋谷公会堂ということにさせてください(笑)。メンバー4人で“それを心に強く思えば、必ずかなうゼ!”と思ってみんなでがんばります。
「渋谷公会堂物語」次回の公開まで楽しみにお待ちください!