Caravan LIVE EXTRA SPECIAL 2016 “Lonesome鎌倉”
2016年6月11日(土) 鎌倉芸術館 大ホール
TEXT:兵庫慎司
PHOTO:susie
Caravan、毎年6月は日比谷野外大音楽堂でワンマンをやるのが定例になっていて、本人もファンもそれを楽しみにしている。が、今年は野音がとれなかったので(人気が高いのにライブをやれる時期と曜日が決まっていて、本来とるのが大変な会場なのです)、代わりにこんなライブをやります──と、1/31川崎クラブチッタでのワンマン『新年祭』(こちらも恒例)の時に発表された、スペシャルライブ。Caravanの地元から近い(らしい、MCによると)鎌倉芸術館の大ホールにて、最初から最後まで、まったくひとりきりの弾き語り。
ただし、1曲目の「Message」を、まずメトロノームを鳴らしてから、それに合わせてスタートしたのを皮切りに、ギターをループさせてそれにさらに重ねて弾いたり、バスドラを踏んだり、ハープを吹いたり、虫の声や風の音などのSEをじわっと響かせてからギター&歌に入ったりと、終始「歌とギター1本だけ」なわけではなく、曲によってバリエーションありで聴かせていく。13曲目の「Folks」の後半では、ギターを置き、ループに合わせてハープを吹き鳴らした。
ステージ中央よりちょっと右にCaravan、左にはあの、ほら、ネイティブ・アメリカンのあの三角のテント……そうだ、ティピだ、ティピが建っている。で、ただオブジェとしてそこにあるんじゃなくて、曲によってその中で炎が燃えたり、数々の星が投影されたりする。その他も、時々ミラーボールが使われたり、後方スクリーンに森や空の風景が映し出されたり、などなどの演出あり。ここ数年のライブのハイライトのひとつになっている、16曲目「サンティアゴの道」の時には、世界各地の地平線まで続く一本道が、次々に映し出される。
という、濃い選曲、濃い歌と演奏、濃い演出によって作られた、とてもとても濃い時間だった。Caravanというアーティストのイメージや曲調などからすると、「濃い」という言葉は似つかわしくない気がするかもしれないが、基本的にこの人は濃いことしか歌わないし、言葉にしないし、伝えてこない。ということは、グレーゾーンや「なんとなく」みたいな人が皆無の、いわば「全員真っ黒」な、この会場を埋めたファンなら、ご存知なのではないかと思う。
そもそも、都心にあってどこからのアクセスも容易で、駅からすぐ着く日比谷野音と違い、この鎌倉芸術館は、JR&湘南モノレールの大船駅から徒歩10分なのだ。いや、自分が歩いた感じでは、もうちょっと早く着いた気もするが、それにしたってまずうちから渋谷まで出て、湘南新宿ラインの快速に乗ってから大船まで44分かかって、そこから徒歩10分弱なのだ。大船駅から歩く途中、繁華街を通るんだけど、よさそうな居酒屋が何軒もあるのだ。いや、そんなことは関係ないしここに書く必要もないが、その会場でバンド編成ならまだしもたったひとりで弾き語りで、1500人キャパを売り切ってしまうのである。
MCによると、売り切れたのは公演の3日前だそうで、そのあたりもいかにもCaravanのファンらしいが、にしても。とっくの昔に自分の意志でメジャーからドロップアウトして、CDをインディー流通にすらのせておらず、ライブ会場と公式サイトのネット通販と本人が知っている店でしか売っていなくて、気がつけばフルアルバムはもう3年近く出ていなくて、メディアへの露出もほとんどないアーティストである。
そんな人が、渋谷駅から快速で44分の大船駅から繁華街を……くどいのでやめるが、そんな会場を超満員にしているのだ。これがいったいどういうことなのか、一応音楽のまわりをウロウロして仕事をしている身としては、考えずにいられない。
一回ファンになったら離れないような、日本各地からライブに集まってくるような、コアなCaravanフリークが多いから、というだけではない、たぶん。そんな状況で活動しているのに、むしろこれ動員増えてねえか? と、一心に彼の歌に聴き入る会場を観ながら思ったので。1/31の川崎クラブチッタも満員だったが、そのさらに数年前のチッタは、「ありゃ、売り切れてはいないなあ」という時もあった、実際。その頃より、目に見えてファンが増えている実感がある、今のCaravanは。
あ、それから、歌も演奏もすばらしかったが、正直言って、いつどこで観ても、大きなライブハウスでも小さなお店でも、ロック・フェスでもそのへんの空き地みたいなとこでやってるイベントでも、バンド編成でも弾き語りでもいつもすばらしいので、正直、これまでとの差異はわかりませんでした。ただただよかった、というくらいです、言えるのは。
なお、アンコールで、「これはうれしいことなんだけど、でも、申し訳ないことでもあって……」みたいな言い方で、10月1日に日比谷野音でワンマンをやることが発表された。Caravanのバンドメンバーであるicchie(トランペットなど)がMr.Childrenのサポートをしているというので6月4日の日比谷野音を観に行っていた時に、マネージャーの携帯に「10月の日比谷野音にキャンセルが出ました!」と電話があったそうです。今年は日比谷野音ないから、今日こうしてここに集まってくれたのに……とすまなさそうな本人だったが、もちろんオーディエンスは大喜びの歓声で応えた。