tricotのメンバーそれぞれがラインナップおよび会場をセレクトする『MUNASAWAGI 2018』。初回2月28日(水)の渋谷WWW X公演は中嶋イッキュウ(Vo&G)によって、ドミコ、きのこ帝国を迎えて企画されたが、今回はヒロミ・ヒロヒロ(Ba&Cho)がbacho、LOSTAGEを招くという、関西オルタナ勢集結のコアで最高すぎる一夜となった。
喧騒を切り裂くように北畑欽也(Vo&G)が「孤独な戦い」を歌い出し、気迫十分でスタートしたbachoのステージ。生きている証しを鋭く叫びながら、“俺はカラオケで歌に力をもらう、浜ちゃん(浜田雅功)にな”と笑顔を見せ、H Jungle With tの「WOW WAR TONIGHT」の一節を口ずさむ場面も。“tricot、呼んでくれてありがとう。しかもLOSTAGEと一緒ってことで、めっちゃ面白くなりそうやね。帰り道で「今日、bachoが良かったなぁ」って感想を必ず言わせますよ!”――そんな北畑の宣言から「これでいいのだ」へ雪崩れ込み、三浦義人(G)、伊藤知得(Ba)、高永和裕基(Dr)も前かがみになって、持ち味のポストハードコア色が強いエモーショナルな爆音を猛然と掻き鳴らす。
“tricotのヒロミちゃんに初めて会ったのは、ヒロミちゃんが前のバンドやった時かな。京都のソクラテスってところ。そのあと何回か共演する機会もあってね。楽しいなと思うことをお互いがやってきた結果、今日につながっただけ。またこの先もあるやろ。そう信じられるし、信じてたらホンマに現実になったんで。音楽は今日も最高です”という北畑のMCにしっくり続いた、今年1月にリリースした「萌芽」「全てはこれから」。明るく灯りっぱなしの照明の中、焼けつくようなヴォーカルにむせかえるような激情のサウンド、希望、逡巡、哀愁が入り混じった言葉に、思わず手をギュッと握りしめてしまう。bachoの楽曲に自分を重ねたオーディエンスは、次第にその拳を突き上げていくのだった。
“老若男女いろんな人がいますね。男女比50パーセントくらいじゃないですか? そういうライヴは世界の割合と一緒やから、ホンマに音楽がいいってことなんですよ”と笑う北畑。メンバーと顔を付き合わせて演奏する表情もたまらなく良い。その場にいる全員に音楽の恩恵を感じさせつつ、ラスト「最高新記憶」で更新する未来を誓い、大歓声を背に受けてbachoはステージを降りた。
続いて登場したのは五味岳久(兄/Vo&Ba)、五味拓人(弟/Gu)、岩城智和(Dr)からなるLOSTAGE。新作のツアー中とあって一層脂が乗った、このバンドならではとしか言えない、オルタナティブロックの真髄が滲む強靭な3ピースサウンドが繰り出され、「さよならおもいでよ」「窓」など、まずはニューアルバム『In Dreams』のナンバーを軽快に聴かせる。最初のMCでは、“tricotのヒロミちゃんに誘ってもらって嬉しいです。女の子を誘うのって簡単やけど、誘われるの難しいんで(笑)”と五味兄が冗談交じりに感謝を告げた。
最近作ったというミッドテンポの新曲然り、イントロで歓声が沸いた「ポケットの中で」然り、中盤ではやわらかでメロウなギターの残響が心地良く、シンプルなリズムが際立ち、どこかホッとするヴォーカルに浸らせてくれる。曲終わりに五味兄が“…良い曲ですねぇ”なんてポツリとこぼす瞬間も。聴くたびに身の引き締まるようなアンダーグラウンド~DIY気質がありつつ、胸にスーッと沁み込むほんのりとしたポップさも併せ持つのがLOSTAGE。観客の盛り上がりを見るに、やっぱりこの日は音楽フリークから信頼されるバンドが揃っていたのだと思う。
沸々と熱量が上がっていき、よりマッチョに音圧を増した後半。「My Favorite Blue」「ひとり」「手紙」を烈火の如く畳み掛け、絶叫、轟音とともに感情を爆発させるパフォーマンスは圧倒的だった。“bachoとLOSTAGEを呼ぶってどうかしてるよな。ステージが欽也くんと俺の汗でベショベショになってるよ!”と五味兄。bachoとスプリット盤を夏くらいに出す予定との嬉しいお知らせもあり、最後は渾身の「2:50」を届けてtricotへつないだ。