まずライブレポートの前に、現在、僕らハリーファン、そして往年のスライダーズファンはみんなパニックになっている。
ハリー、そしてストリート・スライダーズのデビュー35周年を記念して、スライダーズでハリーの相棒だったギタリスト、土屋公平とハリーとの伝説のユニット、JOY-POPSが突如復活して、全国ツアーをやる事が突然発表されたからである。
信じられない。僕も、多くのスライダーズファンも、こんな日が来るなんて夢にも思っていなかった。今もまだ気持ちの整理がつかないで落ち着かないままだ。
そして、このライブの翌日にこのニュースが発表された事を考えると、この日のライブは、その意味や中身や理由が凄く理解できる内容の凄いライブだったのだ。
という訳で、こんな大ニュースが発表されるとは何も知らず、ハリーのデビュー35周年記念ライブを見に下北沢に行った。
それで、これもライブレポートの前に結論から書くと、ハリーは今回、何もかもが変わっていた。もう別人のように生まれ変わっていたと言ってもいい位だった。
デビュー35周年というキッカケで、モードを切り換えた部分もあるだろう。
ただそれ以外にも、去年ハリーには様々な大きな環境の変化があったのだ。
まず、ご両親をご病気で去年続けて亡くされていた。大きなショックだったとハリーも言っていた。そして、あの昔から絶えずタバコを吸っていたヘビースモーカー・ハリーが、なんとタバコをやめて、さらにお酒も、ビールを少しだけ飲む程度になったという事だった。ある意味、昔タイプの不良ロッカーのように、ハリーは酒とタバコが最も似合うアーティストでもあったので、プライヴェートな色んな事も含め、去年からハリーの中でもきっと色んなものが大きく変化したのだろうと思った。
この夜は久し振りに本降りの大雨で、更に「風が強い日」だった。
そんな中でライブは開演したのだが、ハリーはステージに登場するなり、なんといきなりしゃべり始めたのだ。
「こんな春の嵐の中ようこそ。でもオレはこういうのキライじゃないけどね。」
ハリーはそう言って、客席が驚きすぎてあっけに取られる中、いきなりスライダーズの「So Heavy」を演奏し始めライブがスタートした。
昔、“日本一無口なロッカー”と呼ばれたあのハリーが、いきなりしゃべり始め、そしてスライダーズの曲をオープニングで歌い出したのだ。この最初の瞬間だけで、ハリーが今までと全く違うモードに突入してる事がわかり、これは「今夜は大変な事になる」という予感がした。
そのあとソロの「野晒れArgus」、そしてまたもスライダーズのファーストアルバムから人気曲「マスターベイション」を披露し、会場がどよめく。
それが終わり、またもハリーはしゃべりだした。それは今までハリーがもしかして一度もした事のないような「意識された明確なMC」だった。ハリーは「昔、自分達がストーンズとかに影響を受けて作った曲で・・・」、というような事をきちんと自ら語った上で、スライダーズを最も代表する曲「のら犬にさえなれない」を演奏し始めた。
この曲は、スライダーズのデビューシングルで、スライダーズファンの好きな曲ランキングでも必ず一位になる曲で、スライダーズが解散した武道館でも最後に演奏された曲だ。
現実感がなかった。この曲が4人のバンドスタイルで最後に演奏されたのはもう18年も前の事なのだ。夢を見てるような感じだった。きっとまわりの人達も同じ気持ちで、僕らと、そしてハリーも、お互いにとってあまりにも思い入れのあるこの曲が4人のバンドサウンドで18年振りによみがえった事で、会場は感動的な空気に包まれた。
ハリーの後ろでは、ZUZUがあの独特なハイハットのきざみ方でドラムを叩きながら、スライダーズファンの僕らの耳に今もこびりついているオカズ(フィルイン)を連発する。それを聞くだけでもう胸にグッとくるものがある。
ジェームスは、前回のツアーのドラムだった渡辺拓郎とのリズム隊タッグとはまた全く違うベースのアプローチで、しかも長年の相棒でもあるZUZUとスライダーズの楽曲を演奏しても、昔とは異なる新しいグルーヴを生み出してくるので本当に驚かされる。やはり「バンドは生き物なのだ」という事に改めて気付かされる。
そして真壁のギターは、もう水を得た魚というか、3人の鉄板グルーヴの上で自由自在に泳ぎまくってるような変幻自在の素晴らしい演奏を聞かせてくれる。
それはきっと昔、“日本最強のツインギターマジック”と呼ばれたスライダーズの楽曲の数々を、一人のギタリストとして演奏する事の楽しさも大いに関連してるだろうと思った。途中ジミヘンばりの背中ギター奏法まで飛び出し、客席を盛り上げた。
その後もスライダーズ楽曲が披露される中で、ハリーのソロ曲も次々と演奏された。
それを聞きながら凄く思ったのが、スライダーズの曲を挟んで、ハリーの今のソロ曲を聞いていると、そのソロ楽曲が、今までよりも更に際立つという事だった。
昔の思い出の曲達を聞く中で、今の曲を聞くと、その点と点がつながって、一つの物語へと変化して、説得力が倍増するのだ。
過去の楽曲がこうあるから、現在こうなのだという意味や理由が理解できて、そのソロ楽曲の素晴らしさにも改めて気付かされたのだ。
何度も言うが、ハリーは本当に変化していた。
1曲終わるごとに声援に応え「サンキュー」「ありがとね」「楽しんでますか」などととレスポンスしていた。
歌もギターも、前にも増してまた上手くなっていると思った。
そしてステージでもよく動いた。ヘタするとスライダーズの晩年よりもよく動いていた。ハリーには一番似合わない言葉かも知れないが、今ここにいるのは「元気なハリー」なのだ。ハリーはまた生まれ変わったのだ。
途中、ハリーはスライダーズの「Pardon Me」を披露した。お気に入りなのか、ソロになってからもよく歌ってる曲だ。ハリーには珍しい赤裸々めな歌詞で、自分の事を嘆きながら「おまえ」という自分の相手を求めている、という感じの歌なのだが、この日はなぜかいつもよりもリアリティを増して、その歌詞が僕の胸に響いたのだった。
その後に土屋公平とのJOY-POPS復活のニュースを知ったので、ただの僕の気持ちの後付けかも知れないが、この日の「Pardon Me」は、どこかハリーが何かから解放された、今の自分の気持ちを素直に歌っているような、そんな深い印象を僕に残したのだった。
ライブ後半も怒涛のスライダーズナンバーの連続で凄い盛り上がりでライブは終了。
盛大なアンコールに呼ばれ出てきた4人は、ライブでお馴染みの人気曲「ROLLしねえ」を披露したあと、なんと「Boys Jump The Midnight」を叩きこんできた。スライダーズのライブで一番盛り上がる最もハードでアッパーな代表曲だ。この曲も4人バンドで演奏されるのは18年振りだ。客席があの頃のように横に大きく揺れうねり始め、そのあと「Bun Bun」でみんながハリーと一緒に腕を大きくあげて人差し指を回しながらサビを大合唱してアンコールは終了。
再びアンコールに呼ばれたハリーは、この日にピッタリの名バラード曲「風が強い日」を歌い、最後はブルース「あんたがいないよる」で締めくくり、ライブは終了した。時計を見るまで気付かなかったが2時間を越える凄いライブだった。
ハリーはこの日MCで「最高だ」と何度も言った。そしてせきを切ったかのようにスライダーズナンバーを放出し、完全に振り切った新しい自分を僕達に見せてくれた。
そして、ここまで往年のスライダーズナンバーを連発されると、僕らファンというのも我がままなもので、もう一度、ハリーの歌にからんでくるあの土屋公平のコーラスと、そして伝説の二人のツインギターマジックがどうしても聞きたくなってくる。
それが本当に実現するのだ。
夢じゃないのだ。
村越“HARRY”弘明『35th Anniversary Live』下北沢GARDEN SET LIST
01. So Heavy
02. 野晒れArgus
03. マスターベイション
04. のら犬にさえなれない
05. マンネリ・ブギ
06. Frisky Freaks
07. カメレオン
08. 24 Hour
09. 道化者のゆううつ
10. 雨ざらし
11. King Bee Buzzin'
12. 落 陽
13. RUN SILENT,RUN DEEP
14. Pardon Me
15. MAKE UP YOUR MIND
16. Angel Duster
17. Let's go down the street
18. チャンドラー
19. Shake My Head
20. Back To Back
EN1
01. ROLLしねえ
02. Boys Jump The Midnight
03. Bun Bun
EN2
01. 風が強い日
EN3
01. あんたがいないよる