インタビュー/永堀アツオ
CDデビュー5周年を迎えたシシド・カフカにとって、2017年はどんな1年だったのか。2月にはコンセプト・ミニアルバム「DO_S」を発売し、リリースイベントを開催。NHK朝の連続テレビ小説「ひよっこ」(4〜9月)の久坂早苗役が大きな話題となったほか、ドラマ「視覚探偵 日暮旅人」(1〜3月期)とドラマ「カンナさーん!」(7〜8月期)にも出演した。そして、朝ドラの撮影を終えた10月からは3ヶ月連続となるコラボレーション企画をスタートさせ、第1弾となる横山剣(CRAZY KEN BAND)とのデュエットソング「羽田ブルース」のMVで、デビュー以来トレードマークとしてきたロングヘアを50cmもカットし、12月には東名阪を巡るライブツアー「そうだ、ライブやろう」の開催も決定した。ミュージシャンとして、女優として、多忙な日々を過ごした彼女にこの1年間を振り返ってもらった。
音楽の現場に戻ると、『ああ、やっと帰ってきたな』って感じるんです
──2017年はとにかくテレビでよくお見かけしました。
ドラマに3本も出て。よくわからなかった年でしたね。2月に出した『DO_S』のレコーディングもドラマの撮影と並行していたので、すごいスケジュール感でやって。どんどんやらなきゃいけないことが押し寄せている状況だったので、今年はものすごい勢いで、あっという間に年末まで来てる感じですね。
──ドラマの現場を数多く経験したことで、音楽に対してはどんな思いを抱きました?
例えば、久坂早苗という役を幅広い方々に愛していただけたのは、本当によかったなって感じているんですけど、やっぱり私は、音楽の現場に戻ると、『ああ、やっと帰ってきたな』って感じるんですよね。なおのこと、いろんなことがありがたく、しかも、新鮮に映って。改めて、噛み締めながら音楽をやったっていうのが、後半のレコーディングだったかなと思いますね。
──心境の変化がありましたか?
まぁまぁ、いろんな経験をしてきて。自分の中では、コンセプトアルバムで、客観視した自分を自分の中に取り込んで曲を作る、ライブをやるっていう試みをしたことが大きかったかな。書く歌詞も違ったものになってきてるし、自分ができる挑戦もこれまでとは変わってきてると思います。
──客観視した自分を取り込むというのは、アーティストであるシシド・カフカと素の自分を切り離すということ?
いや、もっと密接になったんじゃないですかね。日常生活での心境の変化もいろいろとありまして。より素直に、音符も聴いてますし、載せてる言葉も簡単になった。使ってるワードの選び方からもう違うような気がしていて。切り口も、歌い方も軽い感じになってると思いますね。
──ロングヘアのカフカさんは、哲学的でアートぽいイメージが強かったんですよね。
うんうん。髪を切ったのも大きいと思いますね。いま言っていただいたような、アート的、哲学的っていうのも、自分の中で守らなければいけないところだって凝り固まっていた部分があったと思うんですよ。でも、デビューして5年になるので、そこを1回、壊してみるっていう時期なのかなって思って。もしかしたら来年くらいには、また同じ髪型に戻ってるかもしれないですけど(笑)、1回、自分自身が作り上げたものを見つめ直して、何を壊し、何を残すべきかをチョイスするべき時だなっていうのは思っていて。めまぐるしい中でも、いろんな変化があった年ではありましたね。
──心境の変化というのは?
スタッフに21歳の若者が入ってきたんですよね。新人類きた!宇宙人きた!と思って(笑)。彼がきっかけで『DO_S』っていうコンセプトアルバムができたんですけど、求め過ぎて苦しくなることがあって。彼だけではないですけど、日常生活の中で、これってこうじゃないかっていう自分のルーティンとか決め事が当てはまらないことが多くなってきて。頑張って、ガタガタって当てはめようとしたんですけど、やっぱりうまくはまらないっていう状態になった時に、相手に変化を求めるよりも自分が変化する方が早いって思ってしまって。そこで自分のルーティンや決め事を1回壊して、自分自身の変化を見つめてみたら、いろんなことが楽になっていったという感じですかね。
──髪を切った理由も聞いていいですか?
飽きたからっていうのがあるんですけど(笑)、3年くらい前からずっと切りたい切りたいって言ってて。でも、このタイミングで切れたのは、今年、心境の変化もきて、仕事のタイミングも全て、綺麗に合ったから。この、3ヶ月連続のコラボが始まる前に、髪を切るっていうことは決まってたんです。そのことは言わずに、剣さんに楽曲のオファーをして。曲を書いてもらったら、男と女の別れの話だったので、これ、MVの中で切れちゃうねっていう話になって。もともと髪を切るっていうのは使いたかったから、なんとかMV でこじつけようとは思ってたんですけど。ものすごいマッチするテーマが決まって、それはそれで使わせていただいた感じです。
──MVの撮影はいかがでした?
髪を切るシーンはスッキリしましたね。勿体無いとか、切ないって思ったりするのかなって思ってたけど、全くなかった。スッキリとワクワクしかなかったですね。切る人の緊張も面白かったし。あとは、時間もかかりましたけど、剣さんの身振り手振りもものすごい可愛くて。きゅんきゅんしながら見てる、和やかな時間でしたね。
感覚的にも、何が必要で不必要か、今、すべて見つめ直したいんだと思います
──髪を短く切るとこれまで持ってた洋服も似合わなくなったりしますよね。
そういうのを手放せるっていうのもスッキリするんだと思う。感覚的にも、何が必要で、何が不必要であるかっていうものも、今、すべて見つめ直したいんだと思うんですよね。で、無駄だとわかっていることにもあえて手を出すようになりたいし、必要だと思うことにはちゃんとすぐに飛びつきたい。本当に体が軽くなった気がするので、そういうところに、ちゃんと手を伸ばせる、ちゃんと足を伸ばせるんじゃないかっていう期待が大きいんじゃないかなって思ってます。
──では、改めて身軽になったカフカさんに楽曲についてお伺いしたいと思います。3ヶ月連続リリースの第1弾「羽田ブルース」は横山剣さんとのデュエットソングになってます。
昭和歌謡が好きなんですっていう、ちょっとした会話の端を拾ってくださって、すごく面白い、平成のデュエットソングを作っていただいたと思います。打ち合わせの時には、剣さんに『話してみて感じたシシド・カフカの女性像で作ってもらっても構いませんし、今まで持っていたシシド・カフカの偏見をそのまま使ってもらっても構いません』ってリクエストしたら、偏見の方を……。
──あはははは。偏見というか、パブリックイメージですよね。
そうですね(笑)。強い女性像をはめてきたっていうところなんですけど、おそらく話してて感じたであろう、私の抜けてるところとかも要所要所にちりばめていただけたのかなって思います。
──レコーディングはいかがでした?
一緒にやらせていただいたんですけど、剣さんは、ずっと笑顔で『やったー!』っておっしゃってましたね(笑)。剣さんはすごく優しい方で。なぜ、ああいう形で立っていられるのかっていうバランス感覚の良さをまじまじと見せていただいた気がしていて。私の方も、きっと尖った方なんだろうなっていう偏見を持っていたんですけど、実際にお会いすると、すごく柔らかい方で、お茶目なところもあって。あの見た目であの声で、男男したかっこよさを全面に押し出しちゃうと、濃すぎて、たぶんお腹いっぱいになるんですよね。でも、普段の会話や楽曲にくすって笑えるところがにじみ出てる。ものすごく上手にバランスをとってるんだって、いろいろと学ばせていただきましたね。