筋肉少女帯 ツアーセミファイナルの東京・豊洲PIT公演!愛と感謝にあふれた幸福なステージをレポート

ライブレポート | 2025.11.21 21:00

筋肉少女帯ツアー2025秋!
医者にオカルトを止められた男がサーチライトを照らす!
2025年10月25日(土)豊洲PIT

10月7日(火)のCLUB CITTA’を皮切りに、名古屋、大阪、東京、そして仙台と1ヶ月にわたり行われた『筋肉少女帯ツアー2025秋! 医者にオカルトを止められた男がサーチライトを照らす!』。10月14日(火)に発売された大槻ケンヂ(Vo)のエッセイ集『医者にオカルトを止められた男』ともタイトルが重ねられた今回のツアーは、筋肉少女帯の“ドグラでマグラな”世界観を存分に提示すると同時に、今の筋少だからこそ為し得る、愛と感謝にあふれた幸福なステージとなった。

全会場がソールドアウトとなり、10月25日(土)の東京・豊洲PIT公演も始まりからフルスロットル。ヘヴィメタルな「くるくる少女」をBGMにメンバーが登場すると、満員の客席から拳とペンライトが振り上げられ、楽器陣が音を鳴らして大槻が「イエーイ!」と声を上げるや、サポート・長谷川浩二が猛烈なドラムを叩き込み、いきなり名曲「サンフランシスコ」でライブの幕は上がった。橘高文彦&本城聡章の分厚く、色鮮やかなギタープレイに、内田雄一郎の時に不気味にうねるベース、サポート・三柴理(Pf)の荘厳な鍵盤と、序盤から出し惜しみのないプレイに全オーディエンスは沸騰必至。そして爆音の中央では、堂々たる佇まいでマイクを握る大槻が貫録たっぷりに君臨するという、ゴールデントライアングルならぬゴールデンヘキサゴンが形成されていく。アウトロでは鍵盤を流麗に鳴らす三柴の横へと上がり、高速ギターで掛け合う橘高の姿も。筋少ファンならば何回、何十回と見たかわからない、いわば“様式美”とも言える光景だが、だからこそ、今、変わらずに目撃できることが、どれだけ尊いことであるのか、きっと誰もが知っているだろう。大喝采を受けると、続いて昭和のUFOスペシャルを彷彿させるイントロから、ツアー&書籍の表題曲でもある「医者にオカルトを止められた男」をドロップ。サイコパスな物語をグルーヴィーなバンドサウンドとポエトリーな語りで綴れば、サビではクラップが湧く一方、フロアから上がるペンライトは橘高のギターソロで彼のカラーである青一色に。ロックの熱とアイドルの手法を見事に融合させ、オーディエンスとの一体感をここまで多彩かつ愉快に実現させられるバンドを、筆者は他に知らない。

ここで「豊洲PIT、ありがとう、嬉しい!」と想いを迸らせた大槻は、「ツアー回ってきて、年相応に感謝の気持ちが湧いてきましたよ! 特にボーカルのオーケンは、よほどのサイコパスで、ぜんぜん人への感謝の気持ちとかなかったんですけど、ちょっとサイコパスが治ってきて。みなさんが笑顔でライブを楽しんでおられるというのは、このツアーで特によくわかってきました。嬉しいよ、ありがとう!」と告げて、オーディエンスを喜ばせる。また、新刊のサイン会で、多くのファンにセットリストの要望を伝えられたが「やらない、やらない! もう、このツアーセトリを組んじゃってるの!」と言い切り、「次の曲がわかるって人は結構いるんじゃないのかい? もう4本もやってきたからね!」と「オカルト」をプレイ。タイトル通りのムードを彷彿させるエキゾチックとヘヴィネスが同居するツインギターに、さらなる重厚感を与えるベースが前にせり出す間奏は見ごたえ聞きごたえ十分だ。そして物語は少女へと主人公を変えて「再殺部隊」へ。真っ青に染まったステージでスポットを浴びた橘高がラティーノなギターを爪弾き、艶ある低音で歌い始めた大槻のボーカルは、やがて少女の悲しい想いを歌い叫んで、その切ない心情を音色豊かなギターフレーズとランニングベースが表していく。大槻の紡ぐ詞世界と弦楽器陣の絶妙に過ぎるマッチングは数十年にわたる共闘の賜物であり、少女の慟哭を表すようなドラミングを受けて大槻が放った“血まみれだって抱いてくれるワ”の絶唱にも感涙するほかない。さらに「孤島の鬼」では重厚なバンドプレイと静かな狂気の垣間見える大槻の歌声がミステリアスな空気を醸し、正体不明な“孤島の鬼”の禍々しさを苛烈にアピール。得体の知れない存在や世界、いわば“オカルト”を音楽で描くことにおいて、彼らのセンスはズバ抜けすぎている。

大槻ケンヂ

内田雄一郎

橘高文彦

本城聡章

それでも「なんでソールドアウトになったのかよくわからない」と謙虚に首をひねり、同日、東京ドームにはオアシスが来ていたことに触れて「オアシスに行けなかった人が今日来てるのかな?」と笑わせる大槻のMC力もさすが。楽屋にハエが出てキンチョールを渡されたと語り、キンチョールを掲げて懐かしのCMソングを歌ったあげく「オアシスは今、東京ドームで歌ってるんですよ!? 負けられないだろう! ココを俺たちのオアシスにしようぜ!」とオーディエンスを笑い交じりで沸騰させた。また「MCで叫んで、そろそろ疲れてきたから、みんな歌って! もっとオアシス感を出して!」という、なかなか無茶な要望も。しかし、それに応えて「香菜、頭をよくしてあげよう」を大合唱した客席に、大槻は「俺たちのオアシス!」と両腕を広げてみせたのだから熱い。

もちろん、バンドでもしっかり「香菜、頭をよくしてあげよう」を演奏したあとは、いったん退場した大槻に代わり、ベースの内田がMYマイクを握って「元KISSのエース・フレーリーさんが亡くなりました。R.I.P.なんですけど……この曲は古いKISSみたいに作ったら面白いんじゃね?って言って、ピャッと作った曲です。歌います!」と「モコモコボンボン」を歌唱。その言葉を王道ロックなグルーヴで納得させ、本城のギターリフをクラップで煽った橘高が、センターでマイクスタンドを構える内田の足元に跪いてエッジィなギターを鳴らすなど、超ハイレベルなパフォーマンスを繰り出していく。なのに、歌っているのは着ぐるみの話……というギャップが、また筋肉少女帯の個性であり魅力だ。そして太鼓が打ち鳴らされるおなじみのイントロが鳴り、再登場した大槻がバンドカラーである赤に灯ったペンライトを掲げて「イワンの……イワンのばか!」とタイトルコールすれば、場内は一気に狂乱の宴へ。ツインギターは激しくフロアを煽り、内田は緑に光るペンライトでベース弦を鳴らして、オーディエンスは憑りつかれたようにペンライトを振りたくる。その光景に「いい感じ! とてもありがとう。俺たちのオアシス感、出てますよ!」と大槻が呼びかけると、怒涛のような歓声を返した客席は爆音に身体を揺らし、大きく左右にペンライトを振って生み出していくカタルシスは、なんと壮絶なものだろうか。ステージの上も下もひとつになって“ハイハイハイ!”と腕を振り上げて割れんばかりの拍手が湧き上がった瞬間、涙が出るほどに胸を揺さぶってくる訳のわからぬ感動は、35年以上にわたりバンドの歴史をファンと共に重ねてきた筋肉少女帯でしか味わえないものだ。

内田雄一郎

本城聡章

5分間の休憩を挟んで後半戦を幕開けたMCでは、ツアータイトルにある“オカルト”にちなんで『ノストラダムスの大予言』の話題になり、橘高は「彼のおかげでミュージシャンやってる人多いですよ」と証言。「1999年にこの世が滅亡するなら人生は長くないから、それなら好きなことをやろうって、ミュージシャンや格闘家になったやついっぱいいるの!」(大槻)、「俺、36で人生終わるって思ってたから、そこから先のことなんて1ミリも考えてなかった!」(本城)という発言も、20世紀を生きてきた人間なら納得だろう。内田も「暗唱するくらい読んだ」とのことで、さらに大槻からは、筋肉少女帯の初代ドラマーは『ノストラダムスの大予言』を信じ込んで「ノストラダムスをぶっつぶせ」という曲を作っていたという秘話まで明かされた。そんなユルい空気のまま「筋肉少女帯というのは、こんなカッコいい曲をやってるバンドなんだ!って拡散してほしい」と、撮影許可が出された1曲は「ドンマイ酒場」。「あなたたちの芝居心が命運を分けますからね!?」と大槻がメンバーに呼びかけたとおり、紫のライトに染まったステージで、弦楽器隊の3人は台詞パートで情感たっぷりに見事な芝居心を発揮した。酒場の似合うムーディーな曲調で最後は4人でユニゾンして、クスリと笑えるコミカルなムードを振りまくが、若くして人生の終わりを覚悟していた彼らの体験を聞いたあとだと、曲に秘められた“生きているのなら それでいい”というメッセージが不思議と胸に沁みる。

そのまま「少女の王国」と優しく、穏やかな楽曲を続けるが、クライマックスで大槻が放ったエモーショナルな歌声は圧巻。続く「喝采よ! 喝采よ!」でも、長年、歌いさすらってきた彼だからこそ知る情緒たっぷりに“アイツを許しておくれ”と朗々と歌いあげてみせた。直後「今夜は素敵な夜を、みなさんありがとうございます!」と大槻は客席に感謝したが、それはこちらの台詞。また「喝采よ! 喝采よ!」については「この曲、大好き! 歌ってるとすごく気持ちよくて自分がジュリーになったような気分になる。筋肉少女帯で武道館とか、もういいや!とか思ってたんですけど、この曲を歌うためだけに武道館押さえたい気がするね!」と伝えて、場内に喜びと賛同の拍手を招いた。さらに、今年2025年のライブファイナルを12月21日(日)に恵比寿LIQUIDROOMで行うことを発表し、オーディエンスとタイトルをコール&レスポンスしたのは「50を過ぎたらバンドはアイドル」。メンバー4人のユニゾンに合わせて左右に振られるペンライトは、歓声が禁止されていたコロナ禍に窮余の策として導入されたものだが、今や筋少のライブには欠かせないものとなっている。ポップに振り上がるペンライトに合わせ、一緒に跳びあがる橘高のキュートな様など、まさにアイドルそのもの! 50を過ぎて“天国へ連れてくよ”という歌詞はなかなか皮肉が利いているが、実際のところ50というのは死が日常になる年齢でもある。そうした、いつ消えるかわからない状態でバンドを続けていること自体、最高にロックなことではないだろうか。

橘高文彦

そんな実は“深い”メッセージを込めたナンバーで、ライブはクライマックスへ。鉄板曲の「踊るダメ人間」では、大きなダメジャンプを繰り出し、向きを合わせて身体を振るフロアの一体感に圧倒され、最後に大槻も含めた全員が腕で作った×を掲げるが、そこで発せられる“それでも生きて行かざるを得ない”というラストフレーズこそ、この曲の肝である。そしてライブ本編を締めくくったのは「サーチライト」。「医者にオカルトを止められた男」と共にツアータイトルに引用されているタイトルで、“医者にオカルトを止められた男”というのが大槻の実体験であるのと同じく、この曲の歌詞も読み解けば大槻自身と重なる部分が多々ある。そこで注目すべきは“俺が照らすからお前が行け”と、聞き手の背中を押すメッセージが、実は仕込まれていること。メンバーもオーディエンスも一緒になって大合唱しながら、サーチライトに見立てた黄色のペンライトを大きく振り、楽器隊も渾身のコーラスを入れつつ、それぞれの見せ場で存在を誇示。全員が全身全霊のパフォーマンスを贈るなかで、大槻が歌う“なんとかなる”の力強いリフレインは、ファンに対する大いなる愛の発露に思えてならない。

大槻ケンヂ

アンコールでは「ライブレポ―トが入ってるから」(橘高)と、まずは客席をバックに記念撮影し、大槻が「また筋肉少女帯、ぜひ、よろしくお願いします! 素晴らしい夜をありがとうございました!」と真摯に感謝を述べて、この日のライブは「釈迦」で締めくくられた。37年前のメジャーデビュー曲で、一気にフロアを熱狂させられるのも感嘆モノだが、さらに胸を打たれたのは客席に向かい「ありがとう!」とひたすらに繰り返していた大槻の姿。人によっては“丸くなった”と言うかもしれないが、尖ったまま破滅へとひた走るのとは違うロックスターの新たな可能性、言ってしまえば幸福な未来を提示してくれているようで、むしろ勇気づけられる。その後、エンディングBGMとして流れた「楽しいことしかない」にクラップが湧くのも泣ける光景で、内田は退場しながら「またやるよ、やってやるって!」と宣言。続いて交わされた「じゃあ、また」の約束は、当たり前ではないからこそ尊く、本当に果たされるかなんて、お互い歳を取れば取るほどわからない。だからこそ「楽しいことしかない」と信じて、そして願うのだ。次の約束は、12月21日の恵比寿LIQUIDROOM。復活以来、毎年のように年末ライブを行っている会場で、今年も1年を駆け抜けた筋肉少女帯の集大成が見られるだろう。そんな祝祭の場で、生きて、また、会おうと。

SET LIST

01. サンフランシスコ
02. 医者にオカルトを止められた男
03. オカルト
04. 再殺部隊
05. 孤島の鬼
06. 香菜、頭をよくしてあげよう
07. モコモコボンボン
08. イワンのばか
09. ドンマイ酒場
10. 少女の王国
11. 喝采よ!喝采よ!
12. 50を過ぎたらバンドはアイドル
13. 踊るダメ人間
14. サーチライト

ENCORE
01. 釈迦

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