
今年11月に結成8周年を迎えるリュックと添い寝ごはんが、精力的なチャレンジを続けている。昨年11月から外部プロデューサーを招いたデジタルシングルをコンスタントにリリースし、今年3月にZepp Shinjuku(TOKYO)にて開催したワンマンライブ「満漢全席」では会場のLEDモニターを使うなど演出にも力を入れた。制作面でもライブ面でもバンドの表現の幅を広げ続けている。
彼らが様々な挑戦に突き動かされているのには、どんな背景と心意気があるのだろうか。現在のリュックと添い寝ごはんのモードを探るべく、1年半ぶりのワンマンツアー「集いの中に」を開催中の彼らをキャッチした。この1年間の動き、最新曲「敵いませんかね」やワンマンツアーの話題から、彼らが持ち続けている美学やそれを裏付ける気づきが浮かび上がってきた。
彼らが様々な挑戦に突き動かされているのには、どんな背景と心意気があるのだろうか。現在のリュックと添い寝ごはんのモードを探るべく、1年半ぶりのワンマンツアー「集いの中に」を開催中の彼らをキャッチした。この1年間の動き、最新曲「敵いませんかね」やワンマンツアーの話題から、彼らが持ち続けている美学やそれを裏付ける気づきが浮かび上がってきた。
もっと学びたい意欲がメンバー全員にあったんです(松本ユウ)
──リュックと添い寝ごはんは、昨年11月リリースのデジタルシングル「タイムマシン」以降、サウンドプロデューサーを招いた制作が続いていますね。
松本ユウ(Vo/Gt)これまでプロデューサーさんを入れずに自分たちでやってきて、もっと鍵盤のようなうわものをプラスしてみたくなったのと、今まで自分たちがやってきた答え合わせをしたかったのと同時に、もっと学びたい意欲がメンバー全員にあったんですよね。もっと楽曲としてのクオリティを上げたい、もっとポップスをやりたかったんです。
──「もっとポップスに舵を切りたい」と思った理由とは?
松本メンバー全員のルーツがポップスというのが大きいですね。高校の軽音楽部でこのバンドを組んで、いわゆる邦ロック然としたものをやっていたけれど、そのときから自分たちのルーツであるポップスのメロディやキャッチーさは根幹にあって。それは今もかなり大事な部分であり、僕らの強みなので極めたかったんですよね。
──そういう流れから、高校時代に軽音楽部の夏合宿にゲスト講師として参加した宮田‘レフティ’リョウさんをプロデューサーに招き、まず「タイムマシン」と、今年1月にリリースされた「灯火」を制作なさったということですね。
松本高校時代の夏合宿でもレフティさんと一緒に曲を作ったんです。初心に返るという意味でも、まずはレフティさんとやることに意味があると思ったんですよね。
宮澤あかり(Dr)レフティさんもわたしたちのことを覚えてくださっていて、久しぶりの再会うれしいなという思いもありつつ、高校時代にレフティさんとちゃんと話せた記憶があんまりなくって。でも「タイムマシン」と「灯火」の制作では、これまでに積んできた経験もあって、気合いを入れて臨むことができました。
堂免英敬(Ba)レフティさんとの高校時代での制作と今回の制作では、全然感覚が違ったんです。それまでの7年間ほぼ自分たちの力だけで曲を作り上げていって、成長した部分があるからこそ、レフティさんと有意義な制作ができたのかなと思います。
ぬん(Gt)レフティさんとの制作は「こんなこともやっていいんだ!」みたいな、自分になかった発想をたくさん見せられたような感覚があって、すごく勉強になって。自分もそういうことができるようになりたいなと刺激になりましたね。
──そして「灯火」から2ヶ月後、3月にデジタルシングル「満漢全席」をリリースします。こちらは真部脩一さんと共作したオリエンタルなダンスチューンで、3月7日に開催したZepp Shinjuku(TOKYO)でのワンマンライブと同じタイトルがつけられています。
松本もともとライブタイトルと同名の楽曲を作ろうとは思ってなかったんですよ。だけど去年の10月にクジラ夜の街のラジオ(※NACK 5「クジラ夜の街のメタラジオ」)のゲストに出たとき、ボーカルの一晴くん(宮崎一晴)が「“満漢全席”ってライブタイトルなら、そういう曲作ってるんじゃないの~?」と言ってきたんです(笑)。それで「作る予定ないけど作ってやるわ!」って火がついて(笑)。
──松本さんらしいエピソードですね(笑)。“満漢全席”とは中国の歴史上で最も豪華な宴会料理という意味で、「ライヴハウスを宴の場として、音に身を任せ音に酔って好きに楽しんでほしい」という思いからライブタイトルになさったそうですね。結果「満漢全席」は、その思いや中国音楽要素をふんだんに含んだ楽曲になりました。
松本制作過程から相対性理論のリファレンスをたくさん出していたんですよね。もともと僕らも「天国街道」(※2024年1月リリース)みたいにオリエンタルな感覚は持っているんだけど、どうやっても相対性理論の突き抜けたポップス感になかなか到達できなくて。それで「初期の相対性理論で楽曲制作をしていた真部さんと一緒に作ったらどういう化学反応が起きるんだろう?」と、ある種実験的な感覚でオファーしたんです。
その場にいる全員が僕らの曲を1曲も知らなくても楽しめるライブをするのが理想です(堂免英敬)
──リュックと添い寝ごはんは活動初期から縛られないこと、自由であることを大切にし続けていますよね。昨年リリースの3rdフルアルバム『Terminal』も様々な音楽性や時代性に富んでいましたし、「満漢全席」にもその精神を感じます。
松本好きになったアーティストがそういう人たちなんですよね。星野源さんのライブもとにかく自由な空間だし、あとは高校3年生のときに観た「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019」LAKE STAGEのnever young beachのライブがずっと心の中に残ってるんです。お客さんが思い思いに音楽を楽しむ様子が美しくて、「自分たちもああいう自由な空間を作りたい」と強く思って。音楽が鳴り響く場所には、そういうしがらみから解き放たれる魔法がある気がするんですよね。
宮澤わたしも昔からライブに行くのがめっちゃ好きで、ライブハウスにふらっと入ったりすると、音楽が大好きという理由だけで全然知らないバンドも楽しんで観ている人がいたりして、すごくいいなって思うんですよね。ユウくんとnever young beachを野音に観に行ったとき(※2024年4月13日「never young beach Show at 日比谷野外大音楽堂 -10th Anniversary-」)に、自由に踊っている人もいて、じっくり聴いている人もいて、みんな自由なのにみんな楽しそうで。「うちのバンドでもこの感じめちゃくちゃやりたい!」と思いました。
ぬん僕自身もライブでそんなにはしゃがないタイプなので、僕と同じような人が「自分も周りの人と同じように動かないと」と思わなきゃいけない状況は作りたくなくて。Zepp Shinjukuのワンマンも、お客さんが思い思いにラフに楽しんでくれているのを見てどんどん自分の緊張がほどけて、いつも以上のパフォーマンスができたんです。そういうアットホームな空間で、ライブが楽しくなればいいなと思っています。
堂免その場にいる全員が僕らの曲を1曲も知らなくても楽しめるライブをするのが理想ですね。それこそが自由というものだと思うし、自分の理想形でもあるんです。もちろん音源をたくさん聴いたうえで観に来てくれる人の存在もありがたいけど、そんなに知識がなくても観ていたら気持ちが盛り上がっちゃうのはすごくうれしいことなんです。だから僕らのことを知ってるとか知らないとか関係なく、みんなが楽しめる空間を作りたいんですよね。
松本自分が観客の場合も、楽しみ方に制限を設けられるのがすごく嫌なんです。豊かなことではない。ライブを観ているときくらいは周りの目を気にしないでほしいし、日本人ならではの同調性や奥ゆかしさは音楽の場ではなくしてほしい。星野さんがそういうことを最前線でやられてるからこそ、僕らのシーンでもそういう文化を浸透させたいんですよね。
「恋煩い」は、刺しにいったんですよね(松本)
──「タイムマシン」「灯火」「満漢全席」と生き方にフォーカスした楽曲のリリースが続いていたところ、7月には「恋煩い」、9月には「敵いませんかね」とラブソングが立て続けに発表されました。これにはどんな思惑が?
松本「恋煩い」は、刺しにいったんですよね。僕らは僕らの在り方をしっかりと楽曲で提示してきたけれど、聴き手を刺しに行っていなかった。でも誰かに届けるには聴き手に刺さるものでなければいけないし、誰かひとりに向かって伝えたもののほうが、深みが出るぶん聴く人には刺さるし、刺さればどんどん伝播していくよね、という話がチーム内で出たんです。自分がそういう書き方にあんまりトライしてなかった自覚はあったし、それまでももっと刺しに行かなきゃなとは思っていたんですよね。それで今年の3月、4月くらいから制作の意識が変わりました。
──Zepp Shinjuku公演が終わったあたりですね。
松本「恋煩い」は刺しに行った曲だから、今すぐ出さないと鮮度が落ちてしまう、すぐに届けたいと思ったんです。この2曲はライブで未発表の新曲として育てていくなかでリリースするよりも、知っているからこそライブで聴いたときにストーリーが広がるし、深く浸透してグッとくるんじゃないかなって。
──「恋煩い」はレフティさんが、「敵いませんかね」は野間康介さんがアレンジに参加しています。「敵いませんかね」を野間さんに頼んだのはどんな背景があるのでしょうか。
松本野間さんはZepp Shinjukuのワンマンを観に来てくださって、そこで初めましてだったんです。僕らとかなりルーツが近くて、好きな楽曲やメロディ、コード進行がすごく似ているのでご一緒したくて、野間さんと一緒にやるならどの曲がいいだろうかとストックしているデモから選んだのが「敵いませんかね」だったんですよね。お互いが光る曲だと思ったんです。








