リュックと添い寝ごはん、1年半ぶりのワンマンツアー「集いの中に」を開催中の彼らをキャッチ。現在のモード、持ち続ける美学とは

インタビュー | 2025.10.16 18:00

Photo by 櫻木まお

今回初めて、歌詞に合わせてギターフレーズを作っていったんです(ぬん)

──「敵いませんかね」は一聴すると音の調和が取れた人懐っこいポップソングですが、どの楽器もギミックが効いていて、なかなかに暴れているのが面白いなと思いました。
ぬん歌詞を読んだときに、ユウくんが話した「1対1で刺しに行っている」という感じがすごく伝わってきたんです。だから今回初めて、歌詞に合わせてギターフレーズを作っていったんですよね。「こういう風景をユウくんは見てるのかな」と想像しながらフレーズを作っていくのは意識共有ができている感じがして気持ちが良かったし、やりやすかったんです。
──ぬんさんのこの言葉、作詞者としてはこの上ない幸せでは?
松本いや……僕はどちらかというと、各々のインスピレーションから出てきた温度感や季節感でフレーズを作って、それらが合わさることがリュックの良さだと思っているので。まあでも、新しい試みもメンバーが楽しんでくれていたので、そういう作り方もアリなんじゃない?とは思ってますね……。
──照れ屋さんですね(笑)。サウンドは軽快なのに歌詞はほろ苦くて切ないし、何より歌声が寂しくて。そのコントラストも効果的でした。
松本秋にリリースするので、周りは幸せそうなのに僕だけひとりなんだよな……という孤独感をサウンドと歌詞でできる限り表現したかったんですよね。ライブでもこの曲はみんなにこにこして聴いてくれるんだけど、僕だけひとり訥々とメッセージを吐露してるような感じなんです。実は最近それに近い出来事が実際に起こって。この前僕、出先で車が冠水しまして……。
──松本さん、9月11日のお昼に首都圏で起きた記録的大雨の被害者だったんですね……。
松本17時ぐらいには水もある程度引いて、カラっと晴れて、でもまだ車は動かせなくて。切ない気持ちになりながらひとまず1回家に帰ることにしたら、その道中で下校中の小学生が鼻歌を歌ってたり、高校生がにこにこしながら「ほんと大変だったね」なんて言って自転車で一緒に帰ってたりして。当たり前だけど、その人たちは僕の車が冠水してるのを知らないし、このすれ違った小学生や高校生も、にこにこしてるけど大変な目に遭ったかもしれないじゃないですか。
──「敵いませんかね」の歌詞を借りると、《その笑顔の裏側》ってわからないですよね。それはどれだけ近くにいる人や、愛おしい人であっても。「敵いませんかね」をにこにこしながら聴いてくれている人も、もしかしたら途轍もなくつらい思いを乗り越えてライブハウスに来ているかもしれませんものね。
松本そうなんですよね。もしかしたらライブハウスに来るまでの間に悲しい思いをしてるかもしれない。車が冠水して、あらためて「人はいつだってわかんないもんだな」と思ったんです。今までの僕は大衆に向かって、わかったつもりになって曲を作っていたんです。でも1対1のマインドで曲を作ると、必然的に聴く人に自分の気持ちをまっすぐ届けるようになるんですよね。その人が何を考えているかなんてわからないのに勝手に想像して決めつけて、わかった気になってしまうのが人間の性(さが)だからこそ、わかった気になっちゃいけないし、広い視野を持って曲を作っていきたいなと思いました。
──実際に「敵いませんかね」は視野が広い曲だと思います。主人公の抱える寂しさに浸ってもいいし、プレイヤーの矜持があらわになった演奏に心を躍らせてもいいし、歌詞の《あなた》の心情を想像してもいいし、《風立ちぬ丘の街》の景色を思い描いてもいい。聴くときの気持ちによって自由に楽しめるんですよね。
堂免これまでユウは、歌録りの3時間くらい前にやっと歌詞を書き上げることが多かったんです。それはユウが曲の音の中にある景色とか気候、温度感をすごく大事にしているから、しっかりと音のイメージを掴めないと歌詞が書けなかったんじゃないかなって。でもサウンド面を信頼できる人と協力して作ることができるようになって、いい意味でサウンドとリリックが切り離されたからこそ、誰かひとりに向けて歌詞を書くことに踏み切れたんじゃないか……と僕は勝手に思っているんです。だからこそ曲の世界に深みが出るし、1曲で多面的な世界を表現できたのかなと思います。
宮澤「敵いませんかね」はドラムも歌詞に合わせてフレーズを作っていって、《坂道をかけてく》なら駆け抜ける感じを音で表現したりしてるんですよね。結構ドラムが細かく動いているんだけどサラッと聴けるし、じっくり聴くと結構複雑で。野間チームのアイデアにもいっぱい助けられましたし、勉強になりました。開放的な場所で演奏するのが似合いそうなので、ユウくんののびのびした声が遠くまで届きそうな会場でもやりたいですね。

リュックと添い寝ごはん / 敵いませんかね [Music Video]

初日、2本目と赤鉛筆の100点が出せたので、この先は子どもが喜ぶ花丸の100点が出したい(宮澤)

──このインタビューはワンマンツアー「集いの中に」の2本目金沢公演と3本目札幌公演の間に行っていますが、実際にツアーで演奏してみていかがですか?
宮澤ドラムが難しいです(笑)。今回のツアーのためにいつも以上に練習をしていて、ヒデさんとふたりで特訓したりしてますね。
堂免確かに難しいけど、「自分ベースうめえ~!」って思いながら弾けるので楽しいです(笑)。
宮澤かっこつけられるよね(笑)。練習とライブを重ねるごとに完成度は上がっている気がします。
ぬんギターも手元を見ていないと厳しいぐらい難しいです(苦笑)。でもふとしたときにお客さんのほうを見ると、みんなハッピーな顔をしているんですよね。そういう表情が見られるという意味でも、すごくいい曲です。だから手元を見ないで弾けるようにならないと……!(笑)。
松本作っているときはライブの序盤が似合うイメージだったんですけど、実際にやってみるとエンディングが似合う曲になってきているなと感じるんですよね。作っているときの印象と、ライブでやってみての印象が違うことはこれまでも結構あって、そのギャップってバンドの良さだとも思うんです。特に「敵いませんかね」は初めてご一緒するプロデューサーさんとのタッグで、ポップスに振り切ったからこそちょっと不安もあったけど、そのギャップがこの曲にもあってよかった。すごく安心しました。リュックらしさが残ってよかった。
──冠水も乗り越えて、ライブで気づきを得た今の松本さんが歌う「敵いませんかね」は、音源以上にかなり深みが増してるんでしょうね。
松本冠水してずっとネガティブだったんですけど、あの日にあらためて気づいたときにポジティブになれたというか、24歳の自分に伸びしろを感じたし、高揚感もありました。そういう気持ちで「敵いませんかね」をツアーで歌っているし、その時その時の“今”の感情を歌にすることがいちばん美しいなと思いましたね。 “1対1”を全員の人に届けたいです。

Photo by 櫻木まお

──「敵いませんかね」もそうですが、「集いの中に」というツアータイトルもリュックと添い寝ごはんらしい、奥行きを感じさせるワードセンスだと思います。
松本「集いの中に」は親戚の家に行くような感覚で来てほしい、不安がらず心配せずに集ってほしいという気持ちと、「ワンマンライブでまた来るからね」という約束を果たすツアーにしたいという気持ちを込めたタイトルです。僕らも美味しい料理を振る舞うべく力を注いでいて、親しみのある味はもちろん、この家でしか食べられない料理もしっかり揃えたセットリストにしていますね。リュックと添い寝ごはんだからこそ出せる味を「なかでもあの料理が美味しかったな。またあれが食べたいな」と思い出してもらえるようなライブになっているんじゃないかなと思います。
堂免初日岡山からいいスタートが切れたんですけど、「もっとここをこう変えたら良くなっていくんじゃない?」「もっとこういうことしてみない?」とチーム全員で話すことができているので、この先もどんどんブラッシュアップできると思います。こういう感覚になれるツアーはこれまであんまりなかったので、すごく新鮮で楽しいです。
宮澤初日岡山、2本目の金沢と赤鉛筆の100点が出せたので、この先は子どもが喜ぶ花丸の100点が出したいですね。ワンマンツアーが久しぶりだったので、初日の最初のほうは緊張が伝わっちゃったかもとも思って。今回来てくれた土地の人がまた来てくれるような、人に「よかったよ!」とおすすめできるライブがしたいです。自分が楽しかっただけで終わらないように、ファイナルに向けてもっともっといい100点を目指していきたいです。

Photo by 櫻木まお

バンドにとって大事なのはメンバーの距離感や温度感 (松本)

──ファイナルのLIQUIDROOMは、リュックと添い寝ごはんも何度も立っている、ホームと言ってもいい会場です。いろんな経験を経たうえで、熟知した会場でライブができるのも、とても有意義だと思います。
ぬんLIQUIDROOMはバンドを始めた頃の目標のハコのひとつで、それから何度もライブをやらせてもらえるようになったけれど、毎回新しい刺激をくれる場所なんですよね。今回のツアーは今まであまりライブでやれていない曲や初めてのライブアレンジをみんなと育てられている感覚もすごくあるし、より洗練されたライブをお見せできたらと思います。
宮澤お客さんの顔がすごくよく見える会場なので、やりがいがあるしすごく楽しいんです。みんなの顔を見るつもりでライブして、つまんなそうな人がいたらすごく見て顔を覚えて(笑)、次のワンマンでその人がニコニコしてるライブができたらなと思います。
堂免僕はまだLIQUIDROOMでライブをするときに「いいライブをしなきゃ」とピリッとするんです。でもよく知ってる会場なのもあって、安心してツアーに集中できているんですよね。あと「敵いませんかね」をリリースしたばっかりなんですけど、このツアーではどこでも披露していない新曲を各地でやっているんです。セットリストもどんどん変わっているし、ファイナルがどうなるのかまだ全然予想がつかないので、そういう意味でも僕らも楽しみですね。
──バンドに脂が乗っていること、進化の真っ最中であることを再確認するお話でした。まだまだリュックと添い寝ごはんは可能性を広げていきそうですね。
松本このバンドを8年近く続けてきて、バンドにとって大事なのはメンバーの距離感や温度感だなとつくづく思うんです。普段からコミュニケーションを取って、今どういうことを考えているのかの気持ちの共有をして、全員の足並みを意識しながら楽曲制作をしていけることが、バンドならではの強みだと思うんですよね。ただ曲を作る、ただ活動するだけではない、人としての普段の僕らの行動が、バンドの進化につながっていくと思っています。

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直筆サイン入りチェキを2名様に!

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