TOMOO one-man live "Anchor" at PACIFICO YOKOHAMA
2024年12月13日(金)パシフィコ横浜 国立大ホール
タイトルに掲げた「アンカー」とは錨のこと。2022年8月に開催されたメジャーデビュー後初のワンマンライブで川の水と海の水が混じる河口(Estuary)に出た彼女は、波のうねり(BEAT)、湖のような大きさの水溜り(Puddles)、二つの月(TWO MOON)を映した水鏡(Mirrors)といった様々なライブを経て、ソールドアウトとなったパシフィコ横浜でついに錨を下ろした。のちのMCでも明かしてくれたが、メジャーデビューから2年半、インディーズでは約10年近いキャリアを積んできた彼女が、シンガーソングライターとして、腰を据えてリスナーに歌を届けていくんだという決意と覚悟も込められたタイトルとなっていた。
オープニングナンバーは、藤原竜也主演のドラマ『全領域異常解決室』エンディングテーマで最新曲である「エンドレス」。一人でステージに上がったTOMOOはグランドピアノに座り、この日の声とこの日のピアノの響きを確かめるかのように丁寧に歌唱。2つの音が螺旋を描くように絡み合いながらホールを満たしていくと、最後の一音のニュアンスまで聞き逃すまいと耳を澄ませていた観客から大きな拍手が上がった。そのままTOMOOが奏でるピアノに乗せて、大月文太(Gt/BM)、勝矢匠(Ba)、幡宮航太(Key)、河村吉宏(Dr)からなるバンドメンバーに加えて、ストリングス&ホーン隊が加わり、総勢13名の演奏による華やかなディスコファンク「Super Ball」から「酔ひもせす」というアップテンポの2連発で会場が一体となったクラップとワイパーを引き出すと、「Friday」ではまさに金曜日の夜に<君とFriday>というフレーズを観客の思い出に刻み、幡宮がコーラスを重ねて男女デュエットのような彩りをつけた。
「あったかい飲み物を渡すような、ときにはこたつや暖炉のそばでアイスクリームを食べていただくような感じで、今日はじっくりお届けしたいなと思います。私は今年最後のライブなので味わい切って楽しみたいと思います」
そんなMCを経て、「12月は一番暗いから、イルミネーションにせよ、お家やお店の灯りにせよ、何かと明かりが目に飛び込んできますよね。そんな光が映える季節のイメージの曲です」と語り、オルガンとフルートが優しく寄り添う「レモン」、カウベルや鈴を叩いて盛り上げた「あわいに」と演奏を続けた。前者は2017年、後者は2024年の曲だが、「寒い季節だからこそ一緒に味わいたい、最近やってなかった久しぶりの曲もやっていこうと思います」という言葉の通り、この後も「レモン」と同じくインディーズ時代にリリースしたミニアルバム『Blink』収録の「ネリネ」、2019年1月に配信リリースした「雪だった」とレア曲で空気の澄んだ冬の夜空を引き連れ、「ベーコンエピ」ではブルージーな魅力を発揮しながら、全身で北風を浴びる様を体現。新旧織り交ぜた構成だが、花屋さんやパン屋さんが並ぶ商店街から駅の改札口といった冬の日常風景が思い浮かぶゾーンとなっていた。
ここで、ライブのタイトルについて、「単純に横浜だし、港が近いよなと思って。船のイメージがあって、船の下には錨が下ろしていてという連想も由来になって。あとは、ここまで水繋がりのタイトルを何個かつけていて。年末だし、バトンをパスしたら、アンカーだよねっていう意味もなきにしもあらずで」と解説すると観客からは拍手が送られた。さらに、2年前のワンマンライブ「Estuary」を振り返り、「これからデビューだし、海に出ていくんだろうという気持ちとともに、魚が成長して返ってくる、その入り口も河口域だよなと思って、節目にしたんです。でも、最近のTOMOOとしては、ここに錨を下ろしたい気持ちもあって。ここが最終地点とか、たどり着いた場所というイメージではないんだけど、遠くの海原にまだ見ぬ何かがあるかもしれないとか、その先の島にある財宝を見つけにいくんだという気持ちよりも、手探りでいろんな人といろんなことをやってきた2年半があって、今は素直にすとんと下ろしたいなという気持ちになっています」と現在の心境を語った。
「肌寒い季節に海に近いところでやりたかった」という言葉に導かれた「まばたき」からは、いい曲をいい歌といい演奏で届けることに焦点を当てた楽曲が続いた。歌声にも8ミリフィルムのような趣を湛えた「ロマンスをこえよう」、ウィスパーからストリングへとダイナミックに展開する「Cinderella」、夕焼けをバッグに満たされない思いを抱えた女性が立ち尽くす「Grapefruits Moon」。心にスッと染み込んでくる歌声に言いようのない感動を覚えていたら、次の「スーパースター」は明るくポップな楽曲なのにも関わらず、気がつくと涙が誘われていた。<誰のために生きるんだ>というメッセージを投げかけ、「ひとり知れず戦ってる人に向けて歌いました」と語ったロックンロール「Should be」を含めて、情景描写の優れた歌詞でシンパシーを感じさせながらも多彩な表現力で心を揺さぶった中盤は、このライブにおけるハイライトだったかもしれない。
本編の後半はライブでの人気曲を中心に一気に駆け抜けた。「オセロ」では観客が総立ちになってクラップを鳴らし、TOMOOが力強いバッキングを見せた「Ginger」ではコール&レスポンスも実現。みんなのいい顔が見たいだけだという本心の願いが込められた「Present」ではホーン隊が前に出て盛り上げ、場内は明るくハッピーなムードに包み込まれた。そして、ライブの最後に歌われたのは、小高い丘の多い横浜にインスパイアを受けた未配信の「高台」。彼女はグランドピアノを弾きながら、しっかりと地に足をつけ、空を見上げながら歌い、観客一人一人の胸に「郷愁を誘うイマジナリー・ホームのイメージ」を届けて締めくくった。
アンコールでは、未発表の新曲を披露した後、「みんな、良いお年を!」と挨拶。盛大なクラップが鳴り響く中で「夢はさめても」を高らかに歌い上げると、一礼して舞台袖へと消えていった。すると、スクリーンにこれまでのライブを振り返る映像が流されたあと、TOMOOがステージ中央に再登場し、2025年5月23日(金)に初の日本武道館ワンマンライブ『TOMOO Live at 日本武道館』を開催することを発表した。
この日1番の大きな歓声と温かい拍手が鳴り響く中で、「ずっと、この場所だったら、日の当たらないところに積もってきた思い出や記憶をくるって翻せるかもしれないなって思ってたし。出会いもさよならも全部、私の中にあって。私になっているということをもしかしたら示せるかもしれないって。それから、いつも、もらってばかりで溜め込んできたたくさんの人たちの優しさを、もう一度振り返って、ぎゅっと抱きしめることができるかもしれないって思って。そして、みんなのいい顔を見たいなって。みんなのいい顔をこの場所で見るんだってずっと思ってきました。これまでの12年間のグラグラした歩みの中に、弱さや窪み、遠回りの中に、確かに宿ってきたものがあって。それをこの日は、放ちたいなと思っています」と吐露した。
「時々不意に、なんで私のちっぽけなことを書いた曲をこんな大事に聴いてくれるんだろうって不思議になることがあるんですけど、いつも受け取ってくれてありがとうございます」と感謝を伝え、「どんな場所に行っても、どういう道のりの先に行ったとしても、私はいつも歌の中で、近くにいたいなって思ってます」と決意を表明。最後に「夜明けの君へ」を通して、月や星、光が輝く中で“君”と出会えた喜びを歌い上げ、<近くにいる>という約束を交わした。自身の夢であった武道館公演を自分の口から発表したライブは、メジャーデビューから2年半経ったTOMOOのシンガーソングライターとしての心境と現在地が如実に感じられるものとなった。
なお、ソールドアウトとなった本公演の模様は12月28日(土)18:00よりU-NEXTにて見放題で独占ライブ配信されることも発表された。配信終了後、2025年1月13日(月・祝)23:59まで見逃し配信が視聴可能となっている。
SET LIST
01.エンドレス
02.Super Ball
03.酔ひもせす
04.Friday
05.レモン
06.あわいに
07.ネリネ
08.雪だった
09.ベーコンエピ
10.まばたき(※未配信曲)
11.ロマンスをこえよう
12.Cinderella
13.Grapefruit Moon
14.スーパースター
15.Should be
16.オセロ
17.Ginger
18.Present
19.高台(※未配信曲)
ENCORE
01.新曲(※未配信曲)
02.夢はさめても
03.夜明けの君へ