Just Like This 2024
2024年9月29日(日)日比谷野外大音楽堂
それはまるで、なにがあっても、どんな窮地に追い込まれても絶対にあきらめなかったSPYAIRというバンドが引き起こした起死回生ドラマ、そのリアルドキュメンタリーを見ているかのようだった。
昨年8月11日、山梨・富士急ハイランドコニファーフォレストでSPYAIRが恒例の単独野外ライブ<JUST LIKE THIS 2023>を開催したとき、新曲はこの年のJLT(=JUST LIKE THIS)のテーマソングとして書き下ろした「RE-BIRTH」のみ。YOSUKE(Vo)は加入してたったの4カ月、新体制になって初の大舞台だった。演者も観客も、期待や不安、戸惑い、迷い、いろんな感情が入り混じっての開催だったあの日から約1年----。
彼らは、自分たちがこれまで作ってきたどのポジティブソングよりも破壊的な威力と最高速度のスピードで、進化の時間を駆け抜け、SPYAIRの“起死回生”、その快進撃を信じられないほど鮮やかに体現してみせた。“One more time, I’ll be your light“と「RE-BIRTH」でもう1度、あなたの光になると富士急で歌った彼らは今年、JLT始まりの場所である東京・日比谷野外大音楽堂に13年ぶりに帰還して開催した<Just Like This 2024>で、かつてないほどまばゆいほどの光を未来に向けて放つ、力強い存在になり変わっていたのだ。
SPYAIRは、これまでに何度もバンド存続の危機を乗り越えてきた。今回、バンドの顔であるボーカルが変わるという大きな転換期に立たされていた中、映画『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』の主題歌として今年2月にリリースした「オレンジ」が、映画の国内外での爆発的にヒットとともに、バンド初のストリーミング累計再生数1億回を突破するほどの大ヒットを記録。新ラインナップのSPYAIRは猛烈なスピードで知名度を高め、過去の歴史を早々と塗り替えてしまった。そうして「オレンジ」という新たな金字塔を提げ、ツアーにTVの音楽番組、国内外のフェスに出演…と、彼らは誰も予想していなかった怒涛の急展開を見せていった。そんな快進撃中に迎えた今年の<Just Like This 2024>。
チケットは即完。立ち見エリアまで解放して、前回の野音を知らない新しい世代や韓国など海外からもこのプラチナチケットを手にして来日したファンでごった返す場内は、開演前から期待感で爆発寸前。曇天模様の空の下、UZ(Gt)、MOMIKEN(Ba)、KENTA(Dr)、サポートメンバーのtasuku(Gt)に続いて最後にYOSUKE(Vo)が姿を現わすと、ものすごい悲鳴とともにオーディエンスは一斉に腕を天に向けてハンズアップ。ライブはこの日の為に書き下ろされた新曲「FEEL SO GOOD」で幕開け。軽快なアメリカンロックが天高く響き渡ると、初披露曲とは思えない会場一丸のシンガロングが野音に広がる。次に「ジャパニケーション」が始まると、会場には歓喜と熱狂が渦巻き、早くもクライマックス級の熱量が吹き荒れ、ステージでは真っ白いスモークが柱となって勢いよく何本も吹き上がる。スモーク発射とともにMOMIKEN、YOSUKE、UZが一斉にお立ち台に立つフォーメーション。曲が終わった直後、客席全体をゆっくり眺めたあと、YOSUKEが「ようこそ、SPYAIRのライブへ」と告げるタイミング。そのフロントマン、YOSUKEに絶大なる信頼を寄せて観客たちが繰り広げる「イマジネーション」の一体感ある大合唱。これが、進化したいまのSPYAIRというものを次々と確信をもって畳み掛けてくる。「オレンジ」という楽曲でバンドが得た確かなる“自信”がパワーとなり、彼らを堂々と煌めかせている。冒頭からそんなSPYAIRを見せられ、体の芯から痺れた。
いまにも雨が降り出しそうな空を眺め「みなさんの力で、大きな声を飛ばして、雲をどこかにやっちゃおう」とYOSUKEが無邪気な表情で呼びかけたあと、空間を力強く揺さぶるKENTAらしい強靭なキックから、聴こえてきたのはあのご機嫌な「Rockn’ Roll」。曲中、YOSUKEは右、左、真ん中と客席を3つに分け、客席のシンガロングを煽っていく。さらに「WENDY ~It’s You~」ではドラムを叩きながらKENTAも観客と一緒になって、歌声を空の彼方まで届けるも、ここでSPYAIRの野外はこれがなきゃダメでしょといわんばかりに、とうとう雨が降り出してしまう。雨に濡れる客席、そんな雨に絶妙なタイミングで“負けんな”とエールをおくるように放たれた「感情ディスコード」に、思わず泣きそうになる。MOMIKENは「俺もみんなと一緒だぜ」といわんばかりに1人お立ち台に立ち、雨に濡れながら熱演を繰り広げていく。すると、いつしか雨はどんどん小降りに。そうして雨が上がった瞬間に合わせて「このタイミングに合う曲を」とYOSUKEがの合図で「雨上がりに咲く花」のプレイが始まると、このピンポイントな選曲がズバリ的中!客席全体もその凄さを目の当たりにして、どよめく。そうして、この曲でなんともいえないドラマチックなムードに包まれた野音に夜の帳が広がり、虫の鳴き声に重なるようにKENTAのマーチングドラムが聴こえてきて、曲は「BEAUTIFUL DAYS」へと展開。“オレンジ色の空が”というフレーズが、いままでとは違う意味でグッときた瞬間、照明までオレンジになった。この日の「BEAUTIFUL DAYS」は、歌声にも演奏にも深い深い暗闇のトンネルをリアルに経験し、それでも諦めずに自分で選んだ道を進み、その先に光をつかんだ者だけが放てる説得力が宿っていて、凄味と深さが倍増。そうしてステージ上のメンバーを照らしていた光がじょじょに客席へと拡大していき、最後、その光が野音の隅々まで包み込むように広がっていったところはあまりにも美しくて感動的で、客席からも自然と大きな拍手が沸き起こった。
このあとはセットチェンジとともにKENTAとMOMIKENの恒例のトークタイムへ突入。KENTAが「さっきの雨は演出です。『雨上がりに咲く花』をやるための」と自慢げに話すと、MOMIKENは「この曲までに雨が止まなかったら“雨上がってねぇじゃん”っていわれるだろうなと思いながら、手前の曲を弾いてました」とぶっちゃけ、観客の笑いを誘った。そのあとKENTAに呼ばれてUZとYOSUKEもトークに加わる。ここでは、メンバーに“晴れ男”といわれたのがプレッシャーだったのかYOSUKEは改めて「俺は雨を回避するだけで、晴れ男ではありません」と告げていた。セットが整ったところで、「Stay together」をアコースティックアレンジでアクト。レアな選曲に客席が息を飲む。静かにステージに耳を傾けるなか、間奏ではUZがブルージーなフレーズをアコギで響かせ、YOSUKEはソウルフルなスキャットを入れてオーディエンスを魅了していった。
「ここから後半戦、ブチ上がる準備はできてますか?」とYOSUKEが客席を煽り、ステージは再びバンドセットに戻って、「OVER」を皮切りに後半戦へと突入! MOMIKENは体を前後に激しく折り曲げてヘドヴァン、YOSUKEが雄叫びのようなロングトーンでシャウトをきめると大歓声が巻き起こり、その熱を久々の披露となる「STRONG」でさらに上げていく。いまのバンドのテンション感にあっていて、めちゃくちゃカッコいい。ノリノリのYOSUKEがその勢いでグロウルでシャウトを入れると、SPYAIRの熱い男気が炸裂。“同じチャンスは2度とない”“この瞬間を勝ち取れ”というフレーズが観客全員の魂に火をつけていく。そうして、メンバー全員がサングラスをかけ、KENTA、MOMIKENと音をつなぎ、付点8符のディレイをかけたフレーズが夜空に飛んでいくなか、UZがバッキングを刻み、始まったのは「JUST ONE LIFE」。SPYAIRというバンドのあり方、その闘い抜いた生き様を浮き彫りにしたようなこの曲が、この日のハイライトを作り上げていく。YOSUKEの伸びやかな歌声、その歌とメンバーたちが絶叫するようなコーラスで掛け合ったあと、“起死回生”に続けて観客たちが一丸となって“JUST ONE LIFE”を圧巻のコーラスで返していった瞬間、SPYAIRの音楽がメンバーの、オーディエンスの血肉、人生賛歌となり、熱く強い衝動が身体中に駆け巡って、野音を高揚感の頂へと連れていく。
胸にグッとくる名演だった。その熱をすっと解き放つようにYOSUKEの耳心地いい英語の曲紹介からファルセット、シャウトまで彼のボーカリストとしての全魅力をこれでもかと詰め込んだ「RE-BIRTH」。UZのギターリフが暴れ出し、oiコールが場内に炸裂したところで「現状ディストラクション」へと突入すると、曲中YOSUKEがKENTAの後ろへ移動。それを察知したKENTAはドラムを激しく叩いて呼応。間奏ではYOSUKEが「UZ!」と叫ぶとUZがセンターにやってきてギターソロを熱演。それを横で見ていたYOSUKEがUZの頬に祝福のキスをプレゼント! 狂乱寸前のテンションで場内が盛り上がるなか、それを「RAGE OF DUST」でさらに後押ししていく。白煙が吹き上がる中、バンドアンサンブルが各々ソロでハイエナジーなロックをブチかましていく一方で、YOSUKEのボーカルもそこに共鳴してどんどんエモーショナルに高まり、会場を丸ごと熱狂へと叩き込んでいったところは迫力満点だった。そうして突入した「サムライハート(Some Like It Hot!!)」では、一体感あるコール&レスポンスとともに、タオル回しが客席一面に広がっていった。
「最高の時間です」といってマイクを手にしたYOSUKEは「去年のあの日(JLT)からSPYAIRについてきてくれてありがとう」と感謝を述べた。そうして、この1年の間に歌うことが怖くなったり楽しくなったことがあったことを素直に語りかけ、それでも「今日めっちゃ楽しいです。改めて俺たちロックバンドだなと思いました!」と充実した表情で訴えた。そうして「ここまでSPYAIRが突っ走ることができた日本のカルチャー、ジャパニーズアニメに大きな拍手を」と自分たちを救ってきたアニメに最大の感謝の言葉を贈ったあと、披露したのはもちろんSPYAIRの代表曲を更新した名曲「オレンジ」。ライブで聴くと、メロディー、歌詞がどんどん身に沁みて涙がでそうなほど胸が締め付けられる。そんなせつない気持ちが野音いっぱいに広がっていったところで、最後は「JUST LIKE THIS」。去年はUZのMCから過去一番泥臭いプレイとなった「JUST LIKE THIS」。だが、今年はまったく色合いが違った。バンドとファン、お互いが確信をもって絆を噛み締めている。その状況がここ野音を、世界で唯一のぬくもりある場所へと変えていったところで本編は多幸感に包まれたまま終了した。
アンコールは「新曲初披露、みんなに捧げます」とYOSUKEが伝え、10月から始まるTVアニメ『青のミブロ』(読売テレビ・日本テレビ系)の主題歌「青」をいきなりアクト。「オレンジ」とはまた違ったせつなさを内包したロックチューンを、観客たちはクラップで迎え受けた。そして、今年のJLTを締めくくるクライマックスの「SINGING」が始まると、客席めがけて大量の銀テープがキラキラと舞い降り、この日もっとも美しいシンガロングを観客たちが届けてJLT2024は終了。そうして、惜しみない拍手喝采が会場一面に広がるなか、メンバーはそれぞれステージを後にした。集まったオーディエンスに、彼らの諦めない力とそこでつかんだ光を存分に見せつけた最高のロックアクトだった。
11月4日から、10月30日にリリースする新曲「青」を提げて全国7都市をめぐるツアー<SPYAIR TOUR 2024 - AO ->を開催する彼ら。「またそこで逢いましょう。そうやって一歩一歩を紡いでいけば、来年も<JUST LIKE THIS>ができると思います。だから、あなたは自分らしく日々を生きてください。私たちSPYAIRはずっと友達です。僕たちと一緒にバンドライフを歩んでいきましょう」という言葉を観客に贈ったYOSUKE。
今後も当分彼らのバンドの歴史を塗る変えるような快進撃は止まりそうにない。そうして、その先にはきっとさらに最強になった<JUST LIKE THIS>が待ち受けているはずだ。
SET LIST
<セットリスト>
01. FEEL SO GOOD
02. ジャパニケーション
03. イマジネーション
04. Rock'n Roll
05. WENDY ~It's You~
06. 感情ディスコード
07. 雨上がりに咲く花
08. BEAUTIFUL DAYS
09. Stay together(Acoustic)
10. OVER
11. STRONG
12. JUST ONE LIFE
13. RE-BIRTH
14. 現状ディストラクション
15. RAGE OF DUST
16. サムライハート(Some Like It Hot!!)
17. オレンジ
18. JUST LIKE THIS
ENCORE
19. 青
20. SINGING